56 【ミザルの湯】大会議 (3)
「惑星サンディナを……再現……? 」
職員たちは皆、アラムの突拍子もない発言に呆気にとられている。それはシェンザー達も例外ではなく、特に矢面に立たされるようにアラムに皆の前へと連れられたユーシアは目玉が飛び出しそうなほど驚いているようだ。アラムは驚く全員に説明を続けようとするが、部屋の入口の方から誰かが声をかける。
「ちょっと待てぃ、お前ら。俺に何の話も通さずに何かをおっ始めようってんならそうは問屋がおろさねぇぞ。その話、俺にも詳しく聞かせなぁ」
その声に職員たちは一斉に立ち上がり、入口の方を向いて一礼する。入口をくぐり抜けて部屋の中へどしどしと入ってきたのはかなり大柄なスーツを着た男だった。
「お、おはようございます代表! しかし、どうしてここへ……」
「どうして、か。まぁこれだけ同時に職員が会議室へ大移動を始めて、気づかん方がおかしいわな」
代表。つまりアラムの父、コウゾウや【ストームイーグル】のゲイン同様にこの娯楽特区【パラダイスモンキー】の地区代表ということだ。
「あれっ、パパじゃん! 」
「え、パパ?! ってことは……ミスズは地区代表の娘さん? 」
衝撃の事実にアラムは思わず声を上げる。ミスズは何を驚いているのかとでも言いたげな表情だ。アラムは彼女と一番付き合いの長いシェンザーの方を見る。シェンザーは顔色一つ変えずにアラムに伝える。
「当然僕は知ってたよ。【パラダイスモンキー】の娯楽はその多くがアースの伝統を受け継ぐもの。伝統をより正しい形で受け継ぐことにはそれ相応の訓練や指導が必要だから、この地区の運営は世襲制になってるんだ。ね、アラム? 」
「た、たしかに聞いたことある……」
よく考えれば【ワイズオウル】で習うまでもない一般常識レベルの話だ。二人がやり取りをしている間にミスズの父親は職員たちの方へと歩いていく。ミスズが座っていた席の両隣にいた者が慌てて席を譲ると、3人分の椅子にずっしりと座る。
「……今も聞いた通りだ。俺ァここの地区代表でありミスズの父、エンノスケだ。……まぁ挨拶はいい、とっとと続き話してみろや」
「は、はい。それでは気を取り直して……皆さんも承知の通り惑星リバイブと惑星サンディナは友好的な関係にあります。
サンディナの民は砂の大地のスペシャリストです。アースの自然を利用した文化がこの惑星で恐れられるのならば【惑星サンディナにおいて生まれ発達した特異な文化】というフィルターをかけることで、過酷な自然を生き抜いた者たちの科学により受け継がれた生きる文化と技術であること、その安全性を強調できます」
「だが……リバイブにもサンディナからやってきた留学生や出稼ぎの者もいるだろう。そういった者達ですらも納得させられるように、アースの文化だけじゃなくサンディナの文化をちゃんと取り入れる必要があるな? 」
「ええ。そのための……コイツです」
アラムはそう言って皆の前で放心状態だったユーシアの肩を叩く。相談の一つなく予想外の出来事がいくつも重なり固まっていたユーシアは突然の刺激に反応して、意識を取り戻す。
「は、はいッス! ……って、今なんて言ったッスか? 」
「このユーシアはサンディナからの留学生です。こいつの指揮の下、サンディナの文化を再現します」
「え!? な、何いってるんッスかアラムさん! 自分授業も出なくちゃいけないッスし……」
「ああ、その事も考えた。さっき親父に頼んでサンディナから何人か手伝いを呼べることになったんだ。指揮をとるお前が授業の間、現場では俺たちやサンディナの民が働くってわけだ。
サンディナの言語、そしてリバイブの言語両方を使えるお前にしかできない仕事だ」
「あの短い迷子時間でそこまでしていたんッスか?な、なんて用意周到な……」
この男のアースに対する執着は並大抵のものではないことをユーシアは身を持って実感した。唖然とするユーシアの両肩を掴み、言い聞かせるように呟く。
「頼む、ユーシア。上手く行けばアースの文化をサンディナに持ち帰ることができる。サンディナの過酷な自然だって、やり方次第で武器になる。観光事業が上手く行けばサンディナを貧困から救えるかもしれないだろ? 」
ユーシアはアラムの言葉にはっとした。彼の言う通り、この催しは本来の営業再開までの繋ぎになるものだ。サンディナの民を呼び、アースの砂風呂などの文化を持ち帰る事ができればそれは他の惑星では味わうことができない唯一無二の観光地となるだろう。
ユーシアは決意を新たに、アラムの言葉に頷く。エンノスケやミスズも、先程反対していた職員も可能性を感じたのかそれぞれ目を見合わせて頷きあっている。かくして、アース研究チームと【ミザルの湯】、さらに惑星サンディナを巻き込んだアース文化の再現計画が始まった。




