55 【ミザルの湯】大会議(2)
「アースの砂風呂……なんか聞いたことあるかも。私はその案、ちょっと良いと思いますよぉ! 話を聞いているだけでもすっごく気持ち良さそうですし、材料も今回の件で全部揃ってますし! ……もちろん、あなた達も手伝ってくれるんですよねぇ? 提案だけしておいて何もしないなんてこと……ないですよねぇ? 」
ミスズは嬉しそうに声を上げると、アラムの方に近づいて確認をとる。職員たちの方には見えていないようだが、ミスズの目は笑っていない。敷地内のかなりの大改造を、原因を作ったサバクを筆頭に手伝わせる気満々である。
リオンたちが身震いする一方で、アラムはまるで気づいていないようで楽しそうに首を振る。
「もちろん! アース研究をしている我々が、手伝わない訳にはいかないですよ! ぜひぜひ協力させてくれ……下さいよ! 」
シェンザーは頭を抱えた。きっとアラムは【ミザルの湯】の営業危機を解決するためにアイデアを出したのではない、単に昔研究していた砂風呂を自ら体験してみたいだけなのだ。あの目はもうアースの事しか考えていない。
スクリーンに映し出されたのは、【ミザルの湯】砂風呂計画の設計案だった。皆が心配して探し回っていたときに、あのベンチに座ってこれを楽しそうに描いていたと思うと……もしかしたら説教が足りなかったのかもしれないと、シェンザーは思った。不意にリオンと目が合う。どうやら自分と同じ事を考えているらしい、そんな表情だった。
ミスズの賛同もあり提案は簡単に通るかに思えた。しかし営業再開とアース文化の再現に浮かれている二人に対して、一人の職員が立ち上がり声をかける。白髪交じりの男は迷惑そうな顔で二人に言い放つ。
「すまないが、私はその提案には反対だ。君は我々の祖先がどうしてこの何もない惑星に根付き、生活できるまでになったか知っているか。それは……弱い人間が予測不能な自然という脅威に勝てなかったからだ」
その発言に部屋はしんと静まり返る。浮かれていた二人もすっかり大人しくなり、その職員の方を見つめる。その職員はまた淡々と語り始める。
「……戦争によって滅亡したアースから逃げ出し各地に散り散りになった国家の半数は、アースによく似た惑星に着陸し予測できない過酷な自然の中で命を奪われていった。
生き残ったのは惑星マキアのように圧倒的な科学力による惑星の完全支配が可能であった国、また惑星サンディナのようにアースにいた頃から過酷環境下で暮らしていた国だ。そうでない国は、我々のように生物が暮らせない環境下で不自由に命を繋ぐことを選んだのだ。
今回の突然の砂漠化現象は、既にこの惑星には知れ渡っている。皆不安になっているだろう、制御できない力に押し潰されてしまうと。この地区の仕事は人々に癒やしと喜びを提供することであって、不安や恐怖を煽ることではないだろう。
たとえ我々の祖先の故郷、アースの自然を利用した文化の再現であったとしても……最早今この惑星に生きている我々にとっては未知の恐怖でしかないのだよ」
ヨシノやリオンは驚いた表情で仲間たちの方を見る。この惑星では、自然というものは恐怖の対象として、危険な側面のみが人の心を蝕んでいるのだ。アラムたちがアーサーの存在やその能力のことをひた隠しにしていたのは、こういった理由から彼らが受け入れられず恐れられてしまう可能性があったからだ。
皆がその職員の話を肯定するかのように項垂れ静まり返るなか、アラムだけは真っ直ぐな目でその職員の方を見つめていた。
「そういう意見が出ることは考えていました。アースの自然は受け入れられないかもしれないと」
全員の視線がアラムの方へと向けられる。アラムは後ろを振り返ってスクリーンの側に座っていたユーシアの方へと近づき、引っ張って立ち上がらせると皆の前へと連れていく。ユーシアは訳もわからないといった表情だが、アラムは笑顔になり高らかに言い放つ。
「なので、コンセプト自体は【惑星サンディナの世界を再現した、癒やしの空間】って事にしましょう」
「……な、なに!? 」




