54 【ミザルの湯】大会議(1)
「……おお、広さも設備も充分じゃないか。時間も勿体無いからさっさと始めようぜ。ミスズ、この部屋のパソコンとプロジェクター借りるぞ。それから【ミザルの湯】の運営スタッフも出来るだけ集めてくれる? 」
「いきなり何なんですかぁ! まずはお部屋の使用許可を取ったりとか色々手順が……って聞いてないしっ! やればいいんでしょっ、まったくもう! 」
アラム達は急遽、ミスズが勤めている【パラダイスモンキー】役所へと足を踏み入れていた。ミスズが一緒にいたからいいものの、関係者ではない一般人が館内を大所帯で歩いていたので市役所内では注目の的になっていた。
ミスズが交渉をしてくれたおかげで、なんとか会議室を借りられることになった。ミスズはふくれっ面で部屋を出ていくとアラムの指示通りにてきぱきと働き始める。数分と経たないうちに会議室はたちまち職員で溢れかえるほどになった。ミスズは肩で息をしながらアラムのところへ戻ってくる。息を切らし髪も乱れたその姿からかなり急いでくれたことが伝わる。
「いやぁ……恐れ入ったぜ。なんて仕事の速さ、俺達の研究チームで秘書として働いて欲しいぐらいだぜ」
「嫌ですよぉ、こんな人使いが荒いなら……というか、そんな冗談言ってないで早く始めちゃって下さいよぉ! 皆さん仕事の時間を割いて来てくれてるんですからねっ、どうしょうもない話だったら許しませんよっ! もう! 」
ミスズは怒って振り向くと、関係者たちの座席の真ん中にどすんと座る。アラムは手早くプロジェクターを起動すると、この部屋のパソコンにダウンロードした自分の電子ノートなどの資料を彼らの方へ向かって話し始める。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます。俺は【ワイズオウル地区超高等学院】の卒業生、そしてアース研究特殊チームを率いるアース研究の考古学者、アラムです」
アースの名を聞いた途端、ミスズの周りに座っていた大人たちは皆ざわつき始める。中には顔をしかめている者もいる。ユーシアやアーサー達は職員たちの異様な振る舞いに戸惑っているようだったが、アラムは彼らのざわめきを押し潰すように大きな声で話を続ける。
「俺たちは今回、【ミザルの湯】で発生した謎の砂漠化現象の調査にきました。我々のチームの科学班、シェンザー博士とリオン博士によって原因が温泉に含まれたゼルのプログラムが何らかの異常によって粒子状に固形化したものである事が判明しました」
アラムが二人の方を指し示すと、職員たちの視線が一斉に二人の方に向く。シェンザーは焦って何度も頭を下げ、リオンは博士と呼ばれたことに気分を良くしたのか席についたままニヤニヤしながらふんぞり返っている。アラムは話を続ける。
「二人の指示の下、ゼルに組み込まれたプログラムの再構築に対するセキュリティを【ミザルの湯】独自のものに強化、変更します。それだけで今回のような問題にはある程度対策ができる」
職員たちの中から感嘆の声がちらほらと聞こえてくる。放って置くと謎の拍手さえ始めてしまいそうな雰囲気だ。しかしアラムにとっての本題はこちらではない。間髪入れずにアラムは喋り始める。
「しかしです。大量の砂を処理し、空になった貯水タンクに温泉の効能ゼルを混ぜたお湯を充填するのはすぐ出来ることではありまさん。このままでは営業再開まで時間がかかる。
そこで我々アース研究チームから一つ対応策を提案させていただきたいんです」
「そうそう、その話が聞きたかったんですよぉ。対応策って、一体何なんですかぁ? 勿体ぶらないで早く教えて下さいよぉ」
ミスズがアラムを急かすように叫び、それをアラムが笑顔で宥める。彼女と謎の研究者たちの親しげな様子に、職員たちは不思議そうな顔をしている。
「落ち着いて……まずは俺の研究資料を見てください。こちらです」
「こ、これって……一体何なんですかぁ!? 」
スクリーンに映し出された画像にミスズは思わず叫び声をあげる。職員たちも同じ気持ちらしく、それぞれに驚きを隠せないようだった。
「なんだ、これは……!? 」
「地面の中に……人が埋まってるぞ……」
アラムの研究資料に映し出されたのは、何者かによって身体中に砂を被せられ砂に埋もれた人間の画像だった。しかし彼等の表情は苦しんでいるようには見えない、むしろその表情からは安らぎに近い感情が見てとれる。
「アースには砂風呂と呼ばれる文化がありました。温泉の熱によって温められた砂で全身を包み込み、発汗作用を促す。
それに【ミザルの湯】を埋め尽くしている砂は先程も言ったように温泉の効能を持ったゼルが粒子状に固形化したものですから、砂自体にもちゃんと温泉の効能が残っている。
衛生面や温度面に関しても、アースの知識を基にゼルのプログラムによって対処が可能です。館内が片付くまでの期間、砂で埋まった敷地を応急措置として【アースの砂風呂】再現という企画を提案させて下さい」




