52 正義と悪意
フゥの発言に皆ハッとする。そう言われれば、少し前からアラムの声が聞こえない。全員辺りを見渡すが、近くにアラムの姿はない。昨日地下室でサバクとは別の、謎のアーサーが姿を見せたということもあり少しだけ皆の表情が曇る。ヨシノの花びらを常に携帯しているアラムにヨシノとリオンがモールス信号を用いて呼びかけてみるが、応答はなかった。不安で今にも泣き出しそうなヨシノの顔を見てリオンが悪態をつく。
「……あの馬鹿考古学者。ちょっと目を離したらこれだぜ。問題ばっか起こしやがって」
「まぁまぁ、落ち着いてリオン。とりあえず皆で探しに行こう……ミスズはここで待っててね」
「えぇー!? なんでですかぁ、仲間外れなんて酷くないですかぁ? 」
「でも、まだ砂の上を歩くの慣れてないでしょ? それにサバクを一人にする訳にもいかないし」
「ち……ちょっと! それもっと驚きなんですけど!? こんな危険なやつと私みたいなか弱い乙女を二人きりにするなんて、信じられないですよぉ! 全力で抗議しますよっ! 」
ミスズは大騒ぎしながらシェンザーの両肩を掴み前後に揺さぶる。やはりアーサー達は惑星リバイブの一般人から見れば超常的な現象を自在に引き起こす未知の存在だ。その上、ミスズはリオンの潜入捜査によってサバクの抱いていた危険思想をアラム達と共に直接聞いている。そんな相手と二人きりになるのを嫌がるのも当然だ。見兼ねたリオンが口を挟む。
「……わかった、一応余ったゼルを使ってサバクの身体が自由に動かないように固定しておく。それでいいか? 」
「……えー……本当に2人きりなんですかぁ? まぁ安全が保証されてるなら……いいですけどぉ」
ミスズはリオンの提案に渋々頷く。ミスズの容赦ない揺さぶりから開放されたシェンザーはふらふらとその場にしゃがみ込む。
リオンは先程再構成によって作られたゼルのプログラムに取りかかる。細く硬いワイヤーのような形状へと手早く変化させると、サバクの両手足を結んでいく。サバクも状況は分かっているようで抵抗しない。もう戦うつもりはないようだったが、それでもリオンはミスズのことを考えてしっかりと固定する。なんとか立ち直ったシェンザーはミスズに声をかける。
「ごめんね、急いで見つけて戻ってくるから。何かあったら携帯に連絡して。さぁ、みんな行くよ」
シェンザーの呼びかけにリオン達は頷き返す。4人はアラムを探して暗闇の中へと走り出した。残されたミスズは不安が消えないままに、サバクから目線を離さないようにして座り込む。
サバクは目を閉じていたが、彼女が自分の方を見ていることに気づき話しかける。
「……なに」
「……あなたの話、聞いちゃいました。アースをもう一度復活させようとしてることも、あなたがアースを滅ぼした人間のことを嫌っているのも」
「……そうだよ。サバクは裁く。綺麗だったアースを滅茶苦茶にした人間は、絶対に許さない。きっと、お前もあいつらも……同じ」
サバクはそう言って敵意剥き出しの視線をミスズに向ける。先程まで無抵抗だった表情は消え、拘束さえなければ今にでも彼女に飛びかかりそうなほどの攻撃的な目をしていた。
「じゃあ……あなたは違うっていうんですか? これだけのことをしたのに!! 」
意外にも、ミスズは声を荒らげてサバクに言い返し立ち上がった。彼女自身も自分が堪えきれずに叫んでしまったことに驚いたような表情を見せた。サバクも一瞬驚いたが、それでも彼女を睨み続ける。
「サバクは違う。一緒に……するな! 」
怒りに声を荒げるサバクを、ミスズは悲しげな表情で見つめる。明かりの消えた世界の中で、サバクの目には彼女の表情がなぜだかはっきりと視えたような気がした。ミスズは遠くを眺めながら、今度は怒りではなく悲しみを訴えかけるようにサバクに語りかける。
「ねえ……あなたはドームの外の景色を見ましたか。真っ暗で、どこまでも続いている岩の大地ろ…この惑星にはアースのような自然も空気もないの。それでもこの何もない惑星で生き延びるために、皆で飲み物も食べ物も空気も……命を繋ぐために全てを生み出しているの。この星で暮らすすべての人々にちゃんと行き届くように。
ここはそうやって頑張ってくれている人たちを、娯楽や癒やしでおもてなしをする大事な場所だったんです。でもあなたは使命のためにこの場所を奪い、更には私達を殺そうとしている。
……確かに、私たちの祖先がした事は許されないと思いますよ。私達に何の罪もないだなんて、そんな風には思いません。でもね……あなたのした事が正義だと、胸を張って言えるんですか? 人間がアースにした事とあなたがした事……一体何が違うんですか? 」
サバクはいつしか彼女の言葉に真剣に聞き入っていた。この惑星にはアースのように美しい自然はない。サバクにとって護るべきものが一つも残っていない。
だからこそ彼は自分の思考が、彼が憎んでいた者達と同じであることに気づかなかった。サバクにとっては憎むべきものしか見えていなかったのだ。
人間がアースを滅ぼしたように、自分もアースの力で人間を滅ぼそうとしていた。正義や使命の皮を被った、自分の中にある悪意。サバクはもう何も言い返すことができなかった。




