51 砂に埋もれた楽園
「……ようやくできた、見てよ。このプログラムなら行けるんじゃない? 」
「そうだね、これなら……うん。一度試してみようか」
シェンザーとリオンはようやくサバクが用いていたゼル再生成のプログラムを開発する。2人は試しに近くの砂を少し掬ってゼルに変えてみる。
しかし、瞬時に変化するわけではないようで手のひらに積まれるほどの量の砂が完全にゼル化するまで30分ほど時間がかかった。
「うーん……もしかしたら、サバクが逃げ回り時間稼ぎをするような戦い方をしていたのは、コーティングで消耗していたゼルの球体を再構築するための時間を稼ぐためだったのかもしれないな」
「なるほど、確か砂の塊をナイフ状に固定するためにゼルでコーティングしてたんだよね。使った分のゼルを球体の中で砂の一部をゼルに変化させて球体を保っていたか……ゼルからの変化はプログラムを入力すると10秒もかからないけど逆は時間がかかるんだね。しかも一度に多量の砂で大きいゼルを再構成しようとするほど時間はかかる。これは貴重な情報だ。でも…… 」
考え込んで黙り込むシェンザーにリオンが不思議そうに尋ねる。
「なんだよ、科学者。何が引っかかってるんだよ? 」
「うん……一体なんで彼がゼルの再構築プログラムについて知っていたのかな、と思ってね。
少なくともリバイブには流通してないんだよ、ドームや建物から食に至るまでがゼルによって作られているこの惑星じゃ、この悪魔のプログラムは簡単に文明を壊滅させられるからさ」
リオンはシェンザーの言葉に黙り込み考えを巡らせる。確かに、言われてみればこの惑星のゼルという物質は恐アースの【惑星の力】とは似ても似つかぬものだ。なぜアーサー達はこの物質を使いこなしているのか。
考え込むリオンに気を遣ったのか、シェンザーはリオンの肩を叩き、手元の工具を渡す。
「まぁ、また後で考えよう。まずはサバクの修理をしなくちゃ」
「ああ……そうだな」
二人はサバクの斬られた腕の修理にとりかかる。アーサーの仕組みについてはシェンザーも少しは勉強しているが、フゥとは多少仕組みが違うためサイバーゴーグルによる解析が可能なリオンに託すことにした。シェンザーはその間にできるだけ多くの砂を小分けにしてゼルに再構成する作業を始めた。
アラムは館内を回って色々なところを見てみるが、やはりどの階の浴場にもかなりの量の砂が流れ込んでいて浴槽はすぐには使えそうにはなかった。シェンザーとリオンによるゼルの再構成ができればこの砂はすぐにお湯に変えられるかもしれないが、営業再開にはもう一つ問題があったのだ。
「……そういえば、地下の貯水タンクもいくつかやられてるんだったな。サバクじゃない、また別のアーサーに……」
シェンザーの話によると、アーサーが何かの目的で【ミザルの湯】の貯水タンク6つ全てに穴をを開けて、どこかへ水を持ち去ったらしかった。どれだけの水が流出してしまったかはまだわからない。後でミスズに聞くことにしたが、恐らくタンクへの貯水と、温泉に混ぜるだけの効能プログラムゼルの調達にはかなりの時間と費用がかかる。営業再開へのハードルがまた上がった。
「……まてよ。そういえばアースの資料の中に……」
アラムは自身が持ち歩いている、学生時代の研究メモと電子手帳を取り出す。昔から書き溜め保存してあった、学生時代のアース調査資料を近くのベンチに座り込んで読み漁る。うろ覚えではあったが、もしかするとそれが今の状況を打開できるかもしれない。アラムは一度深呼吸すると、集中して調査資料を読み始めた。
サバクが再び目を覚ます。ムクリと身体を起こすと、自分の右腕が完全に治っていることに気付く。
「修理してくれたの? ……ありがと」
くるくると腕を見回しながら動かしているサバクはとても驚いた表情だった。無理もないことだとシェンザーは思った。彼はずっと人間のことを、アースを滅亡させた存在だと認識していた。敵対していたサバクのことを助け出し、さらには戦いの傷を癒やすまでのサポートをアーサーと人間が手を組み手伝うなど考えもしなかったのだろう。
フゥとヨシノがミスズを連れてサバクの方へと歩いてくる。ドームの硬い床の上しか歩いたことのない彼女は、まだこの砂の地面に慣れないらしく二人に支えてもらいながら恐る恐るやってくる。
「ミスズ、大丈夫か? 転ばないように……ゆっくりでいいよ。
フゥもようやく目覚めたんだね、怪我はない? 調子悪いなら、リオンもいるし検査しようか」
フゥはシェンザーに検査をしてもらうように説得を試みるが、フゥはミスズから手を離すと自分が元気なことをアピールするかのように、その場で少し身体を動かし、さらには飛び跳ねた。
「たぶん、大丈夫。基本的にずっと縛られて捕まってただけだからね。それよりも、皆助けに来てくれてありがとう。何度も捕まっちゃってごめんね。
……あれ、そういえばアラムさんはどこに行ったの? 」
フゥの言葉に皆が固まった。




