05 未知の科学の大乱戦
ゲインの怒りは指輪を壊してしまったことで最高潮に達してしまったようだ。こころなしか、ケービロイドたちに負けないくらい、眼が紅く光っているように見える。アラムはその恐ろしげな雰囲気に一旦二人のもとへさがり、シェンザーに耳打ちする。
「なぁ、さっきのやってくれよ。緑のカード! 開発者権限!! 」
シェンザーは背後にいるケービロイドに向かってこっそり緑のカードをちらつかせるが、首を振って静かに答える。
「駄目だな、指揮権はもう別の誰かに固定されてロックされてる」
「くそ、だったら前の2機は駄目か? 」
「……僕が開発に関わったケービロイドは第一期の限定生産モデルだけなんだ。それ以降の量産型や改良を加えた独自モデルにはぼくは開発者として登録されていない。だから、指揮権はゲインから動くことはない」
「ゲイン様! ご無事ですか!?」
背後から突然甲高い声が響き、ケービロイドの間から何者かが慌てたように姿を現す。ゲインと似たような服装を着ており、社員の一人であることは間違いないだろう。シェンザーがアラムに耳打ちする。
「あの人は……ゲインの秘書のハルゲンだ。この街に吹く風を生み出しているのがフゥであることを突き止め、何度もフゥを引き渡せと要求してきた男だ。
ケービロイドの軍勢を研究所に攻め込ませるとフゥを脅迫して連れ去ったんだ。僕ははそれに気づいて抵抗したんだけど……くそっ、あの時手元にグリーンカードがあれば……」
ハルゲンはシェンザーの姿を見つけると下卑た笑いを浮かべながら呼びかける。
「いやはや、ケービロイド達が不審な挙動をしていると思えば……あなたでしたか、シェンザーくん。いや、シェンザー博士と呼んだほうが良いのかな? 」
「呼び方なんてどうでもいい、とにかくフゥは返してもらいます」
「まさかあなたが開発者権限を持っていたとはね。まぁ、ここにいる以上あなた方は不法侵入者です。罪人は排除しましょうか……銃を構えろ、ケービロイド」
ケービロイド達が銃を3人に向けて構える。アラムはヨシノに合図を送る。
「しゃあねえ、今度こそ正面突破だな。いけるか、ヨシノ? 」
「うん、任しといて! 」
そう言うとヨシノは地面に跪き、目を閉じて手をつく。途端、桜の花弁が屋上に舞い始める。
「正面突破って……」
「なぁ、シェンザー。突撃前にヨシノが何であんな提案したと思う? 意外と強いんだぜ、俺たち」
屋上の床にヒビが入っていく。そのヒビはやがて膨れ上がり、裂けた地面から次々となにかが現れる。
「こんな言葉を知ってるか?
【桜の下には死体が埋まっている】 」
「ん〜〜〜! 【イデヨトモダチ】! 」
ウガァァァァァァ!!
不気味な叫び声とともに無数の人影が地面から現れる。ある者は刀を持ち、ある者は鎧を着ている。その数はケービロイドの3倍はいるだろう。次から次へと飛び出してくる【トモダチ】たちは次々にケービロイドへと襲いかかっていく。
ケービロイド達もビームライフルを乱射して抵抗するが、あまりにも数が違いすぎる。ハルゲンも予想外の反撃に逃げ回っている。
次々に地面にめり込み壊れていくケービロイドを見ながら呆気にとられているシェンザーの近くへ、ニヤニヤしながらアラムが近づく。
「どうだ、驚いたろ? お前には驚かされてばっかりだったしな、仕返しだぜ」
「こんな能力まであるのか……一体どんな技術なんだ? 」
「俺にわかるかよ、そんなの。そういうのはお前の専門分野だろ」
「確かにそうだね。それにしても……アースって、怖いところなんだな」
ゲインはボロボロに崩れていく屋上、そして大金をはたいて導入したケービロイドたちがことごとく壊れていくさまに更に怒りを燃やしていた。その殺気は3人にもはっきりと伝わっていた。
ヨシノは慌てて数体の【トモダチ】をゲインの元へ向かわせる。鎧を着た者【トモダチ】が取り押さえようとゲインの方へ飛びかかる。
「なるほど、そこのピンクの女の子も風の少年のように能力を持つ存在というわけですか」
ゲインは軽やかに身をかわしながら、敵意を持って向かってくる謎の生物の腹部へと押し当てる。
「……【ベンディングシステム】、起動」
途端、その手を中心にして【トモダチ】の腹部に大きな風穴が開く。やはり致命傷だったのか、動かなくなりやがて崩れ落ちた。
ゲインはゆっくりと前方へ歩きながら、次々と【トモダチ】に軽くタッチしていく。触れられた部分はまるで捻じれるように穴が開き、次々に崩れ落ちて黒い砂のように変化していく。
「なんだよあれ……? おい、シェンザー」
「他の惑星に技術研修に留学したときに見たことがある。あれは【ベンディングシステム】と呼ばれる、主に災害救助などで利用される装置だ。細かいところを省いて説明するならば、分子を弾き、物質を捻じ曲げ形を変える。壊れた建物を簡易的に補修したり、逆に風穴を開けることも自由自在さ」
「なるほどね、とりあえずあれに触れられると即死ってわけか」
「アラム……どうしよう。全然攻撃が効かないよ!どんどんやられてく! 」
とうとう最後の【トモダチ】が崩れ去った。屋上はひび割れ、ケービロイドの残骸と黒い砂の山だらけだ。所々に鎧や刀も散乱している。
「ヨシノ……よく頑張ってくれた。エネルギー不足になるとまずいからな、とりあえず蜜飴食っとけ」
アラムは腰の小袋から蜜飴を取り出し、ヨシノへと手渡した。その間に、ゲインは砂の山を蹴飛ばして、3人の方へ向き直る。
「数は多くても動きは単純、アンドロイドの劣化版とでも言うべきですか。あんな単調な攻撃など私には当たりませんよ。
全く、こんなに荒らして……誰から消し飛びますか? 」
そう言って、ゲインはベンディングシステムをフゥに向かって構えた。