48 すべてはアースのために
照明が消えて暗くなったドームの中を、シェンザーとアラムは全速力で走っていた。朝から何度もこの場所を歩き回ったおかげで、砂の足場にも段々と慣れてきた。二人が【ミザルの湯】へと戻ってきたときに、屋上で砂嵐が発生しているのを確認した。リオンがこちらの指示に気がつき、作戦通り動いてくれたということだ。
「ハハハッ! いやーぁ、こんなに上手くいくとはなー! 」
「本当だよ……リオンが気づかなかったらどうなってたことか」
「その時はその時だよ、まぁ全部予定通りなんだから結果オーライだ」
二人が【ミザルの湯】の本館前にたどり着いた頃、前から人影が走ってくるのが見えた。ヨシノとリオンだ。リオンの背中には意識を失ったままのフゥの姿もあった。シェンザーはすぐさまリオンに駆け寄り、まだ意識を失ったままのフゥを受け取って背負う。
「リオン! お前、俺たちからの合図によく気づいたな」
「ああ……照明を使ったモールス信号とは、上手く考えたな。サバクのは階段の方をずっと向いてたからな、全くバレずにお前の作戦を把握できた」
「ああ。ヨシノが捕まってたから花弁は封じられてたし、何よりあの方法だとアーサー全員に会話が筒抜けだからな。お前が電話で二人の位置関係を教えてくれてたからこそ出来た芸当だけどな」
そう、リオンはサバクが常に階段の方を向いて眠っていることをやりとりの際に聞いていた。そしてその会話をシェンザーから預かった携帯電話を通じてアラムたちに伝えたのだ。
位置情報さえわかれば、サバクの背後にありリオンの視線に入りそうな位置の照明を一つだけ点滅させられた。
「……砂嵐を発生させたのは、こいつらに味方する人間が砂の地面や砂嵐に慣れていないことを利用し、アーサーの奪回を防ぐ作戦だと思わせるためだ。しかし俺たちには砂漠とほぼ同じような惑星環境下で生活し、砂嵐にも柔軟に対応できるユーシアがいる。
「ああ、あいつが突撃してサバクの気を引いているうちに、俺たちは【ベンディングシステム】で地面に穴を開けて下の階へ脱出する」
「うん、それで砂嵐発生の間にミスズと連携を取ってドームの照明を落とす。これでサバクのフードからのエネルギー供給は封じられたね」
「そういや……ユーシアは? 」
アラムがリオンに尋ねたとき、リオンのすぐ背後から声が割り込んできた。
「あいつなら……サバクが倒したよ」
そう言って、アラムたちの前にサバクが現れる。ユーシアの姿はもちろんそこにはない。アラムとヨシノはサバクの方へと向き直る。リオンとは傷だらけのフゥをシェンザーに預けて立ち上がるとサバクに向かって叫んだ。
「おい、サバク! ここからはもう邪魔はしない。……すべてはアースのために。最後のアーサーの名において、お前達のアースの未来を賭けた戦いを見届けさせてもらう」
サバクはリオンの方を黙って見つめている。リオンはサバクに気圧されることなく、自身の使命と責任を背負った真っ直ぐな目をサバクに向ける。アラムは腰の小袋に左手を突っ込みながら視線の間に割って入る。
「お前……一体なに」
「俺は……いや、俺たちはアーサーの味方だ。もちろんお前とも敵対するつもりはない。アースを復活させたいんだろ? 力を合わせよう」
「アースを滅ぼした人間の力は……借りない。俺が大好きなアースには……人間なんていらない!! 」
「だったら戦おう……俺とヨシノで証明してやる、アーサーと人間が手を組んで産まれる大きな力を。そして俺たちのアース復活への想いを」
そういってアラムはヨシノに飴玉を渡し、自分も飴玉を手にとる。背中に背負っていた【桜芽刀】を抜くとグリップを握る。駆動音と共に桜が舞い散り始める。
サバクは怒っている素振りも見せずに、落ち着いた表情で地面の砂をすくい上げる。サバクの両手の上の砂はやがて手に持っていたゼルの球体の中で変化し、小さな2本の短剣になる。シェンザーはその様子を見て興奮しながらメモを取り始める。
「なるほど……ゼルをコーティングし隙間を極限まで埋めることで砂をナイフのような形状に固定している。温泉から抽出したゼルをプログラミングし直すことでここまで出来るのか! そんな技術があるなんて……最高だ。なんで彼はここまでゼルを……」
「シェンザー……! 感心してる場合じゃない。ユーシアが心配だ、ここは俺とヨシノがどうにかするからお前はユーシアを探しに行ってくれ。頼む! 」
「そっ、そうだね。わかったよ……気をつけてね」
シェンザーが走り出したのを確認するとアラムは【桜芽刀】のブーストでより高く跳躍し飛びかかり、サバクの上から【桜芽刀】を思い切り振り下ろす。サバクは2本の短剣で上手く受け止めるが、想像以上の重い一撃に押し切られる。
体制を立て直しながら2本の短剣をアラムに投げつけ、足元の砂からまた短剣を生成する。アラムはすれすれで回避しながらも徐々にその距離を詰めていく。
リオンは二人の動きを遠くから見ている。二人の戦闘によって砂煙が発生しているうえに、ようやく暗闇に目が慣れてきて二人の動きが見えてきた。アラムは【桜芽刀】を攻撃の起点にブーストを駆使して積極的に攻め続けている。対してサバクは自ら接近しようとせずに、小さな武器を投擲しながら時間を稼いでいるように見えた。
「サバクのやつ、何かを狙っているな……。一体何だ? 」




