47 サバクの切り札
「ヨシノとフゥは大丈夫ッスか? 」
ユーシアは目の前のサバクを警戒しながらも、リオンとサバクの包帯から開放された二人の方をへと後退していく。ヨシノは泣きそうになりながらもリオンに抱きしめてもらいながら答える。
「ヨシノは……大丈夫、元気なの! フゥも多分大丈夫だと思うけど、まだ眠ってるの」
立ちながらも顔を伏せ微動だにしないフゥを見てユーシアの顔は青ざめたが、リオンが心配のないように補足説明をする。
「今はサバクが砂嵐を起こすためにフゥと接続してるからな、遠くに連れてけば自然と接続が切れて目が覚めるはずだ」
「なんだ……心臓に悪いッスよ! ……でも良かったッス。リオン、それなら早く二人を連れて逃げるッスよ。ここは自分が引き受け……」
ユーシアが言葉の途中で吹き飛ばされる。サバクの拳が的確にユーシアの脇腹を捉え、強烈な一撃を叩き込んだ。リオンはサバクから二人を庇うようにして立つ。
「リオン……サバクのこと、裏切るの? 」
「裏切るんじゃない、無駄な争いは止めるんだ。サバクもこいつらもアース復活の目的を持った、俺の仲間だ。お前が今吹き飛ばしたやつも同じ、俺たちの仲間だ」
「人間は……仲間じゃないよ。アースを滅ぼした、敵。……そうでしょ? 」
「サバク。アースの自然が次の世代へと変化を重ねていくように、人間も世代と共に変化し、進化している。少なくともこいつらの仲間は、アースを滅ぼした奴らとは少し違う。
どちらにしても、俺は中立だ。アーサーを危険から護るところまでは俺の仕事、そこから先の……アーサーの未来をかけたお前らの戦いはちゃんと見守るよ」
「……でもこの砂嵐からは逃げられないし、絶対に逃さない」
ヨシノはリオンの背中にしがみついて震えている。フゥはまだ目覚めないままだ。このまま二人を連れてサバクの猛攻を回避しながら砂嵐を抜け出すのは不可能に近い。少なくともサバクはそう考えていた。
ゆっくりと三人の方へ近づいていく。リオンは二人を近くへ引き寄せてその場にしゃがみ込む。
「……そうはさせないッス」
ユーシアが傷だらけになりながらも高速で接近する。サバクは舌打ちしながら振り返り、ユーシアに腕を掴まれないように捻りながら蹴りを放つ。ユーシアはどうにかそれを回避する。
「砂嵐も、砂漠も……自分の得意分野ッス。負けないッス、絶対にここは行かせないッスよ! 」
「もう、面倒……いくよ」
サバクはフードの中から何かを取り出し地面に手をつくと、ユーシアには聞き取れない謎の言葉を呟き始める。ユーシアはその手に握られたものに見覚えがあった。
「……ぐっ……それは、ゼル……? 」
「……ここにあったお湯からつくったもの。サバクは、何か知らないけど」
サバクが握りしめたゼルはやがて周囲の砂を集める。ゼルの中に集約された大量の砂はまるで小刀のように姿を変えていく。
サバクが投げた一本がユーシアの顔面を掠めるように飛ぶ。体制を崩したユーシアにサバクは接近し、体当りして吹き飛ばす。サンディナの自然で鍛えられた、砂漠という地形に慣れていたユーシアでさえもさすがに生身では特殊な能力を持ったアーサーを倒せない。
動けずに倒れ込んだユーシアを確認すると、ゼルの球体を掲げる。そこから吹き出した大量の砂がまるで大地を上書きするようにユーシアの上へと降り注いだ。ユーシアの姿形が見えなくなったことを確認し、サバクは振り返ってリオンたちの方へと向き直る。
しかし、彼らがいたはずの場所に彼らの姿はなかった。いや、正確には彼らがいたはずのその地面ごと消失している。地面に大きな穴を開けることで3人とも下の階へと逃げたらしかった。砂嵐のせいで彼らの行動を見ていなかった自分の甘さに苛立ちながらも、サバクは追跡のために【トモダチ】を呼び出そうとする。
しかし、サバクの【トモダチ】は立ち上がるやいなや先勢いを失ったようにへなへなと地面に倒れ込んでいるだけだった。
「エネルギー切れ? なんで? 」
フゥとの距離が離れたのだろう。砂嵐が段々と止んでいき、辺りがよく見えるようになってくる。そこでようやくサバクは一つの異変に気づく。
「……光が……消えてる」
【ミザルの湯】上空に設置されていた、ドームのおよそ半分ほどの照明が全て消えている。真っ暗になった屋上の真ん中で、冷えていく空気を肌で感じながらサバクは一人地面に拳を叩きつけた。




