40 暗躍するアーサー
「お前、人間……で、そっちがアーサー? 」
サバクがアラムとヨシノを交互に指差しながら二人に質問する。アラムは頷きながら腰の小袋の蜜飴を取り出して口に含む。ヨシノと共にアラムの身体が光りはじめ、右肩に桜吹雪の紋様が現れる。
「【刻印・ミダレザクラ】」
「戦う気? ……俺に勝てると思ってるの」
「……サバク、お前はアースを滅ぼした人間を裁こうとしているらしいな」
「そう……人間、生かしておくとまたアースが滅ぼされるから。だからサバクが、裁く」
「……だったら俺達はお前を止めなきゃならない。勝つよ、お前に」
アラムは拳を振り下ろして思い切り砂の大地を叩きつける。地面の砂は勢いよく吹き上げるように高く舞い上がり、サバクの視界を奪う。サバクの挙動よりも早く、砂がなくなって踏み込みやすくなった地面を蹴りアラムが巻き上げた砂の壁を貫いて突進する。捻りを加えて回転をかけ、全体重をのせてサバクの身体に拳を叩き込む。
サバクは避ける間もなくアラムの拳を食らって、そのまま吹き飛んでいく。アラムはしゃがみこんで拳の痛みを堪える。
「かーっ、流石に鉄の身体を思いっきり殴ると痛いな。っていうかやりすぎた……門の方まで飛んでいったな。【ミダレザクラ】の制限時間もあるから急がないとな。追いかけるぞ、ヨシノ」
「了解なの! 早くいこー! 」
「……【ベンディングシステム】、起動」
リオンはしゃがみこむと地面に手を当てる。装備していた【ベンディングシステム】によって地面の形状は捻じ曲げられ、リオンの計算された絶妙なコントロールによって貯水タンクの穴を塞ぐようにぐにゃりとせり上がる。
「すごい! これで3つ目だ! 」
「ああ……でも残りの3つはもう駄目だな。水が全部流れ出たみたいだ。塞いだ3つも半分も残ってないかもしれない」
暗がりの中、奥の方にかすかに見えるタンクからは確かに水の流れ落ちる様子はない。降りてきた時に辺りに響いていた水が落ちる轟音も聞こえなくなった。
「それでも3つは守ったんだから、お手柄だよ」
シェンザーに褒められてリオンは満更でもない顔をしている。
「あれ……君ら、タンクの穴塞いじゃった? 困ったな。やめてよ……もう」
誰かの声が暗がりから聞こえてくる。水が止まって静かになった地下室にコツコツと足音が響く。
シェンザーとリオンは暗がりの中に人影を確認する。ぼんやりとしかその姿は見えず、表情もはっきりとはわからない。リオンは警戒しながら話しかける。
「お前もアーサーだよな。俺らはここを占拠してるサバクを止めるためにきてる。お前はサバクの味方なのか? 返答次第じゃ……」
少しの沈黙のあと、暗がりの中から深い溜め息が聞こえる。
「……っはぁ~~あ。同じアーサーとは思えない、くだらない質問だな。俺たちアーサーはいつ如何なる時でもアースの味方でしょ。アーサー同士で敵とか味方とか、それ意味あるの? 思想や方法に差はあれど、俺たちの目的は一つだろ」
リオンとシェンザーは顔を見合わせる。人を小馬鹿にしたような態度は気に食わないが、話は通じるし争う気はないらしかった。リオンは話を続ける。
「お前の名前は? 」
「ドウクツ。俺の名前はドウクツだよ」
「ドウクツ……お前はどうしてタンクの中の水を抜いていたんだ? 地面の穴もタンクの穴も全部、お前が作ったものなのか? 」
「そうだよ。俺に課せられた仕事は、多量のゼルの確保。このタンクの中にはゼルが溶け込んだ液体が入っているから、俺の能力で穴を開けて洞窟を通して俺たちのアジトの地下へと輸送しているんだ」
「課せられた仕事」、つまり彼は恐らく他のアーサーと組織的に動いており、何かの目的でゼルを大量に必要としていることになる。
リオンは引き続き質問をしようとしたが、リオンとドウクツの会話を聞いていたシェンザーがムッとして口を挟む。
「ちょ、ちょっと待ってよ。そのお湯はこの施設にとってとても重要なものなんだよ!? 君はアースを救うためなら他の誰かに迷惑をかけてもいいって考えてるの? 」
「……アンタ、人間? 」
ドウクツは怒って自分を睨みつけているシェンザーを指差して睨み返すと、冷たく言い放った。
「アースを滅ぼしたのってさ、お前たち人間でしょ? 滅ぼすだけ滅ぼしたら、見捨てておさらば。こんな遠くの惑星まで逃げてきておいて……『迷惑』? もはや笑い話だろ。お前たち人間こそ、自分たちの利益のために戦争を起こしてアースに生きる生物や自然全てに『迷惑』をかけたこと、忘れてない? 」
「そ、それは……」
シェンザーは思わず口ごもる。ドウクツは二人に背を向けると穴の方へ向かってあるき出した。
「まぁ、あんたたち人間にはもう何も期待してないよ。これは俺たちアーサーの使命だから。……そっちの、アーサーの方。君にはまた近々挨拶に伺うとするよ。じゃあね」
そう言って、ドウクツは地下へと繋がる穴の中へと飛び降りていった。ドウクツが去った後も、シェンザーは彼の発言を思い出して悔しさに唇を噛みしめていた。隣で彼の発言について何かを考えているリオンには気づきもしなかった。




