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追憶のEarth-er  作者: だーぎー
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39 ゼルとトラブル

 地下室の扉の中はひんやりとした空気が漂っていた。地下室は【ミザルの湯】に負けないくらいの敷地で広く真っ暗な空間に、雑音にまぎれ足音が反響する。

 地下室へと足を踏み入れた二人は部屋を照らすと、そこには驚くべき光景が広がっていた。地下室の中には、まるでドームの外の世界と同じように、地面から滲み出たゼルがふわふわと浮かんでいた。

 シェンザーは物珍しそうにゼルに近づいて、その感触を確かめるように抱きついてみる。リオンはその場にしゃがみこんで足場を触ってみる。


「土の地面だな。ここはドームを覆っている人工の地面よりも下に掘り下げて造られた空間だから……」


「つまりここはドームの外側の世界ってことか! それでゼルが地面から湧き出ているんだね」



 今度は地下貯水タンクの方を見る。貯水タンクは全部で6つあり、それぞれに異なる効能を持ったゼルを含んだお湯が入っているようだ。地面から産まれ浮き上がったゼルをタンク上部から吸引し、一層目でゼルを健康に良い成分へとプログラムして二層目でお湯の中へと溶かしながら温める構造になっているらしかった。最も、リオンとシェンザーには大きな球体のタンクがあるということくらいしか判別はつかない。


「いや、思ったよりもでかいな……これ一つでもかなりの量のゼルが混ざってるはずだぜ」


「ここを守りきれなきゃサバクは無限に【トモダチ】を産み出してしまうね。でも逆に言えば、ここさえバレずに守り通すことが出来れば……」


「ああ、これ以上サバクが必要な【惑星のパワー】は手に入らない。……ってか、何かすごい音しない? 」


「確かに……入ってきた時からだよね。なんだろう」


シェンザーとリオンは耳をすませながら辺りを見渡す。なにかが地面に激しくぶつかり続けるような、耳に響く激しく安らかな心地の音。目を凝らして辺りを観察していたリオンが何かに気付く。


「なぁ、科学者。あれ……明らかにまずいよな」

「どうしたの、リオン……」


 シェンザーはリオンの指差した方を見つめる。目を凝らして見ると、貯水タンクの底に大きな穴が開いているのが見える。貯水タンクの方にも大きな穴が空いているようで、その大きな穴に向かって水が激しい音をたてながら真っ直ぐに流れ落ちていた。嫌な予感がする。リオンとシェンザーは部屋の奥の方へと進んでみる。よく見ると、他の貯水タンクにもすべて大穴が開いており水が勢いよく流れ落ちている。


「リオン! これまずいよ、どうにかして流れを止めないと」

「くそっ、サバクに先手を打たれたのか? ……とりあえず、やれるだけの事はやってみようぜ」










 アラムとヨシノはサバクを探して館内に足を踏み入れようとしていた。脆く崩れやすい砂の地面は、足を踏ん張ることさえ難しくかなり歩き辛い。テラフォーミングによる環境の変化が進んできたのか、さっきよりも空気が乾燥してきて気温も高くなっているように感じる。ただ歩くだけで体力が奪われていく感覚は、アラムにとって初めて味わうものだった。ふと、ヨシノが心配になって聞いてみる。


「ヨシノ、大丈夫か? 疲れてないか? 」


「うん、大丈夫なの」

「流石だな、ヨシノ……って、それずりぃぃ! 」


 アラムはすっかり忘れていた。ヨシノに浮遊能力があることを。砂の地面を物ともせず、ヨシノはアラムのペースに合わせてふわふわと後ろを飛んで着いてきていた。

 アラムはあまりの衝撃に膝から崩れ落ちる。きっと目に砂が入ったのだろう、視界が涙で滲んでいく。ヨシノは慰めるようにアラムの頭を撫でながら励ましの言葉をかける。


「アラム、もしかして疲れたの? 大丈夫なの、きっともうすぐ見つかるの! ほら、頑張って歩こう」


 促されるままふらふらと立ち上がり、アラムは肩を落として歩き出す。かと思うと、何かを思い出したように顔を上げる。


「そうだ……そうじゃん! ヨシノの能力使えば探せるんじゃないのか! 【サクラダヨリ】で! 」


「ほんとなの! アラム、すごい! 」

「ってかなんで最初に思いつかなかったんだ……こんなに疲れる必要なんかなかったのに……はぁー」


 建物に入る前に気づいたのは、不幸中の幸いだった。ヨシノはアラムから飴を受け取り、少し高く浮かび上がる。ヨシノが空を舞い始めると、桃色の桜の花弁が共に舞い始め敷地の至るところに広がっていく。


「いいぞ、ヨシノ。サバクに呼びかけるんだ」

「わかったの! いっくよー! 」


 ヨシノがモールス信号による呼びかけを始める。アーサーたちに与えられた「声」は、敷地内に舞い続ける花弁を伝播していく。その信号はアラムが持っていた花弁にも届いた。


『サバクへ。

 で・て・こ・い。……でてこいでてこいでてこいでてこいでてこいでてこいでてこいでてこいでてこ……』


「……って、おいおいおい! ちょっと待て!これは怖いよ! 何かの呪いか! 」


 アラムは大急ぎで信号を送り続けるヨシノを止めた。恐怖の信号はアラムの活躍によって静止された。リオン以外のアーサーを連れてこなくて良かったと、アラムは心から安堵した。止められたヨシノはふくれっ面だが、恐ろしくてとても聞いていられない。

 

「……ね、うるさいよ。 もう……止めろ」


 突然、背後から声がしてアラムは振り返って飛びすさる。緑のフードに白い包帯、自分に敵意の目を向けるその姿がシェンザーから聞いていた話のアーサーと酷似している。アラムはニヤリと微笑みながら向かい合う。


「ようやく会えたな……お前がサバクか」



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