38 リオンとシェンザー
「……かなりしつこいッスね。全く、こんな数どこから湧いてくるんスか……」
ユーシアを追うサバクの【トモダチ】はおよそ10体ほどだったが、少しずつ増えている。ユーシアがどれだけ強く殴っても立ち上がってくる。敵の数が増え続ける一方でユーシアの体力だけがどんどん奪われていく。
気がつくと、建物の壁の方へと追い込まれている。これで3回目だ。留学生のユーシアはこの【ミザルの湯】に来るのは初めてだ。館内図も頭に入っていないので、先程から何度も追い詰められてしまっていた。
ユーシアは深呼吸してサバクの【トモダチ】の中へと突っ込んでいく。一体一体はさほど強いわけじゃない。落ち着いて敵の攻撃を捌きながら、上手く転倒させていく。
「このままじゃ埒が明かないッス。何か策を考えないと駄目ッスね……」
ユーシアは飛びかかってくる【トモダチ】を上手くいなしながら、また敷地内を走り始めた。
『次の道、右ですぅ。その先に鍵のかかった倉庫みたいな建物があると思うんですけどぉ……あります? 』
「うん、見えてきた……あの中に入ればいいんだね? 」
シェンザーとリオンは、ミスズの誘導に従って敷地の端の方にある関係者専用のエリアにやってきていた。幸いこの辺りにはテラフォーミングの影響は殆どなく、地面が砂に埋もれていないためサバクの【トモダチ】を警戒せずに来ることが出来た。
『そうそうそれです、その建物。地下にある貯水施設への入口なんですよ。ロックはこちらで解錠しときましたんで、あとは真っ直ぐ階段を降りてくださいな』
「ありがとう、ミスズ。また何かあったら連絡するよ」
『おっけーです。それじゃ、頑張ってください。お願いしますよ! 』
叫ぶだけ叫んで通話が切られる。突然の大声にリオンもしかめっ面で耳を塞いでいる。
「耳痛い……次電話するときは言ってよ、速攻で離れるから」
そう言ってリオンは真っ直ぐ建物の方へと歩いていく。シェンザーも後を追いかける。ミスズがロックを解錠してくれた扉を開くと、すぐ目の前には地下の暗闇へと続く先の見えない階段があった。
「とっとと行くぞ」
不安に足がすくむシェンザーを押しのけて、リオンは躊躇いなく階段を降りていく。シェンザーを自分を奮い立たせるように頬を強く叩き、慌ててリオンを追って階段を下り始めた。
階段はかなり長く、人一人がなんとか通れるほど狭い。天井は少し高めで薄緑の蛍光灯が怪しげに灯っている。階段を下まで降りると、また鉄の扉がある。リオンは何度も引っ張って試すが開く気配はない。リオンは舌打ちして、右手を扉の方にかざした。嫌な予感がしたシェンザーはリオンを静止しようとするが間に合わない。
「ちょ、ちょっと待って。リオ……」
「【ベンディングシステム】、起動」
扉はリオンの右手の【ベンディングシステム】によって弾かれる。鉄の扉は真ん中から外に向かって円状に捻じ曲げられ、大きな穴が出来る。中からひんやり冷たい空気が外へ流れてくる。シェンザーは慌てたようにリオンが壊した扉へ駆け寄る。
「ちょっと、リオンってば! 駄目だろ、ロックはミスズに頼めば解錠してくれるんだから。無闇にいろいろ壊しちゃ駄目だよ」
「でも、アラムが言ってたろ。俺がお前と組まされたのはこういう時のためだって。連絡する分の時間短縮なんだから、これも立派なショートカットだろ。ほら、ぼーっと立ってないで早く行くぞ」
「ちょっと待ってよ! ……まったくもう。ミスズに何て説明すればいいんだ」
頭を抱えながらシェンザーはリオンの後を追って地下貯水タンクのある部屋へと入っていった。




