37 桜舞う刀
「あ、そう言えば……アラムに渡そうと思って持ってきたんだった。これ、使ってみてよ」
シェンザーが背中に背負っていた細長い袋をアラムに手渡す。袋の中には桜散る文様が刃に刻まれた刀と鞘が入っていた。刀自体に何か仕掛けがあるようで、刃の部分も少し分厚めだ。握ってみるとヨシノの【トモダチ】が戦闘に用いている刀よりも重く感じる。
「これ……刀か? なんで俺に刀を? 」
驚いているアラムにシェンザーが説明を始める。
「これは【桜芽刀】。こないだの戦いからヒントを得て作ったんだ。そのグリップ握ってみて」
アラムは言われるがままに【桜芽刀】を握り、人差し指で鍔の辺りにあるグリップを押し込む。刀から小さな駆動音が鳴り始めると、刀の峰が桜色に光り輝き出す。
シェンザーの指示で刀を軽く振るうと刀の先から後方へと桜の花びらの立体映像が流れるように現れ、アラムの周囲に舞い始める。その見た目はヨシノの花弁と見分けがつかない。シェンザーは自慢気に胸を張る。
「どう、すごいでしょ!? 刀から桜吹雪が出るんだよ! ヨシノとお揃いなんだよ、まさにアラムにぴったりの武器でしょ! 」
「いやいやいや、何に使う機能なんだよ! これを搭載するためにこんな」
「え!? いやでも、桜と一緒に起動させたブースターによる推進力で【桜芽刀】の一振りを超加速させられるんだよ」
「……だとしたらその機能だけでよくないか? 」
アラムの一言にシェンザーはショックを受けて膝から崩れ落ちる。そのまま砂に顔がめり込みそうなほどだ。落ち込むシェンザーにヨシノが駆け寄る。
あの時もそうだったが、アラム自身が闘うためには【刻印・ミダレザクラ】による身体強化は必須だ。アース研究のためのフィールドワークが多くなり体力や筋力もすこしはついてきたものの、元々勉強ばかりだったアラムの運動センスは低い。桜吹雪はこの刀を使わなくても必ず舞うのだ。
「でも、かっこいいと思うの! ヨシノ、アラムとお揃いですごく嬉しいの! 」
ヨシノは惜しみない拍手をシェンザーに送る。落ち込んでいたシェンザーは嬉しそうに立ち上がり胸を張る。
アラムはせっかくだから、トリガーを引いてブースターを起動しながら【桜芽刀】を砂に向かって振り下ろしてみた。するとブースターが勢いよく風を噴射し、何倍もの勢いで地面を吹き飛ばす。爆音と共に砂と桜の花びらが舞い上がり、その場にいた皆の身体に雨のように降り注いだ。
皆は突然の事に呆気に取られている。切り開かれた砂の中から見えるドームの床には、今の一振りによる傷跡がついている。アラムは手に伝わる衝撃に思わず叫び声をあげる。
「……くぅーーっ! 俺の腕の方が吹っ飛ばされるかと思ったぜ……シェンザー、こいつはすごい武器だな!! 」
テンションが上がったアラムを見て、シェンザーも嬉しそうだ。喜ぶ皆をよそにリオンがヨシノの方へ近寄り話しかける。
「なぁ、ヨシノ。あれだけの量の【トモダチ】を出すって、簡単に出来るのか? 」
「うーん。ちょっと多いの」
「そうだよな……あの数を呼び出すのに必要なエネルギーはどうやって……おい、科学者。ここの浴場には、もう湯は残ってないのか? 」
「うん、異常が見つかってすぐに【ミザルの湯】のほぼ全ての機能は緊急停止したって聞いた。現に、中に入ったときにいくつか浴場を見たけどどこも空っぽだったよ。後は……そうだな、貯水タンクとかがあるのかも」
「そうか……だったらあいつらを無視して貯水タンクを護るチームとアーサー本体を探すチームに別れたほうが良さそうだな」
「だったら自分が囮になって気を引くッスよ! その間に皆で探しに行くッス! 」
「もしも誰かが捕まったら、フゥに風の能力を使うよう言って。そうすれば僕が探知できる」
話し合いの末、作戦が動き出す。ユーシアが囮になってサバクの【トモダチ】を引きつける。先陣を切って門の中に入ると、気を引きながらゆっくりと敷地の奥へと走っていった。
アラムとヨシノはサバクの捜索に、シェンザーとリオンが貯水タンクを護るために分かれて行動する。チーム分けに不服そうなのはリオンである。
「なんで俺がヨシノと一緒じゃないんだよ。代われよ、考古学者」
「全く……何もわかってないなリオンは。あのなぁ、俺はヨシノがいなきゃ戦闘ができないんだよ」
「そんなダサいこと偉そうに言うな」
「まぁ続きを聞いてくれ。砂の足場に慣れたユーシアが囮になってくれてる今、サバクと戦得るのは俺だけだ。
シェンザーはミスズと連絡が取れるから貯水タンクの場所まで誘導してもらえるし、リオンの【ベンディングシステム】があれば壁とかに穴を開けて経路をショートカットできる。リオンとシェンザーが目的地まで早く向かえる組み合わせなんだよ……な、ヨシノ? 」
ヨシノはふくれっ面のリオンの手を握り締めて、潤んだ目で訴えかける。
「リオン、お願いなの。……手伝ってくれる? 」
リオンは視線を逸らして俯きながらも、しぶしぶ頷く。アラムがリオンの扱いに慣れてきているのを、シェンザーは面白そうに眺めている。
「よし、話は決まったな。行くぞ、皆」




