36 テラフォーミングの謎
5人は入場ゲートから中へと入る。それぞれが砂の地面を確かめるように飛び跳ねたり、両足を踏み鳴らしたりしている。アラムも足を動かして地面の感触を確かめる。先程の流れ出た砂を踏むのとは違った感触で、アースにはこれと似た地面が果てしなく広がっていたのだという実感も湧いてくる。
「なるほど、こんなかんじなんだな……! ユーシアはどうだ? お前の星に比べて、この場所は」
「うーん……なんと言うか……砂漠と言うよりは、砂場って感じッスよね。熱さとか、湿気とかが違うんッスかね……」
なるほど、たしかに砂漠にいる割には気温や湿度の変化はあまり感じない。いや、外よりは明らかに温かめの空気になっているとは思うのだが、それでもユーシアから聞いていたサンディナの気候やリオンから聞いていた砂漠の環境とは程遠いように思える。
「テラフォーミングはまだ完全な形では終わっていないってことなのか? 」
考え込むアラムに、後頭部で手を組みながら退屈そうにふらふらと歩き回っていたリオンが寄ってきて話しかける。
「おい、考古学者。そもそもアーサーがテラフォーミング能力を使うためには、惑星が持っている大いなる自然の力を借りる必要があるはずなんだの。俺からしてみれば、この外界と隔離されたドームの中でどうやってここまで地形を変えられるのか。そっちのほうが、とことん謎だぜ」
「ああ、それに関しては実は解決してるんだ。よく考えればこの場所は、この惑星の力で満たされていたからな」
「なに? それ一体どういうことだよ」
「【ミザルの湯】公式サイトで確認した情報だと、ここにあるのは人体に良い効能をプログラミングしたゼルを湯の中に溶かして、古文書から解読した【温泉】というアースの文化に限りなく近づけているらしいんだ。
お湯自体も、アースの科学で産み出された人工の物も含まれているが惑星リバイブの地下水だったり、ゼルを液状化されたものも使われている。この惑星の力っていうと、多分ゼルだよな」
「なるほど。つまりここにある浴場の湯は全てゼルの力が満ちてたって訳か。その溢れんばかりの液状ゼルをプログラミングし直すことでこれだけの地形変化が可能だったってわけか」
「うん、ただそういうハッキングの対策は【ミザルの湯】でもしてるはずなんだよな。ゼルに仕込まれたセキュリティを突破しなきゃ出来ないことだとは思うけど……」
この様子では、そのハッキングが成功したと考えざるを得ない。入り口近くにあった足湯にも、お湯が一滴たりとも残っていない。リオンもアラムの言葉の続きを読み取ったのか、納得したように頷く。
突然、二人の目の前の地面が盛り上がる。中から包帯に巻かれた人型の生物が何体も現れる。アラムとリオンは慌てて後ろに下がる。シェンザーはその姿を少し前に見た事があった。
「ふたりとも、気をつけて! それ、サバクの【トモダチ】だ、多分僕たちがここへ来たことを察知して出てきたんだ! 」
「なるほど……リオン、お前戦えるのか? 」
「馬鹿言うな! 俺は最後のアーサーだぞ、痛いのとかぜってー無理だから! 」
リオンとアラムを守るように、ユーシアが二人の前に飛び出してくる。跳躍し目の前の2体のミイラの顎を掴んで仰向けに引き倒すと、包帯を使って腕同士を縛りつける。
「うおおおおおっ、ユーシアすげえ! 」
「でかしたぞ、白髪! そのままやっちまえーぃ! 」
「興奮してる場合じゃないッスよ! すぐ次が来るッス。二人とも、ここは一旦引くッス! 」
リオンとアラムは頷き、振り向いて走り出す。ヨシノとシェンザーは既に入場ゲートの外まで退避していた。
「無事そうだな、よかったぜ。ヨシノ……お前の【トモダチ】でユーシアを助けよう」
「わかったの! 」
アラムは小袋から蜜飴を取り出してヨシノに手渡す。ヨシノが口に含むと、たちまち身体の周りに桃色に光る桜の花弁が舞い始める。しゃがみこみ、地面に両手をついて叫ぶ。
「……【イデヨトモダチ】! ユーシアを助けて欲しいの! 」
地面の中から這い出すように甲冑を着た男や刀を持った男が現れると、ユーシアの方へ一直線に走り始める。
ユーシアが撤退するのをサポートするように、ヨシノの【トモダチ】がサバクの【トモダチ】と対峙する。それぞれが掴み合い殴り合い、砂漠地帯は一気に戦場に変わる。
アラム達は外から黙って行く末を見届ける。最初は互角の戦いを見せていたが、時間が経つにつれてサバク側の【トモダチ】が次から次へと砂の下から湧き出てくる。たちまち数の力で押し潰されて、ヨシノの【トモダチ】は砂の中へと沈んでいった。
「うぅ……ヨシノ、失敗したの」
「いやいや、ヨシノは頑張ったよ。ユーシア君がここまで戻ってくることが出来たのはヨシノのお陰なんだから」
涙目になったヨシノを慰めるようにシェンザーが頭を撫でる。その様子を見てあからさまに苛々するリオンに、アラムとユーシアはニヤニヤしている。
しばらく経っても、サバクの【トモダチ】はその場から動かず、門の外にいるアラムたちをじっと見つめていた。
「あいつら、ここまで追ってはこないッスね」
「そうだね、もしかしたら中に人を入れないように言われてるだけなのかも」
「それにしても数が多いな……何か策を練らないとな」




