31 最後のアーサーの役目
アラムの指示で、ユーシアとアーサー達は全員でキオンを研究室へと運び込む。研究室ではリオンが既にゼルの解析とプログラミングを始めていた。本来、ゼルのプログラミングとはゼルに関する膨大な知識を蓄えた人間にしかできないような高等技術なのだが、リオンは相当な速さでその技術を学ぼうとしていた。リオンは手元の作業に集中しながらも、視線を向けずに全員に言い放つ。
「……これからキオンの治療を行う、部屋の中には誰も残るな。一つもミスは許されないからな。全員、そのアーサーを置いて早く出て行って」
「そ、そんなっ! あんまりッスよ! 俺は……キオンの傍を離れないッスよ」
「は? いいから言う事を聞け、でないと俺は治療を始めないぞ」
手元の作業に集中してユーシアの方を見向きもせず言い放つリオンに、ユーシアは飛びかかろうとする。それをアラムとヒョウガに静止される。
「落ち着け……今はあいつに従うしかない」
「くっ……はいッス。 リオン、君のこと信じてもいいッスよね? 」
「……任せろ。アースを護るのがアーサーの役目、そしてアーサーを護るのは俺の役目だ」
相変わらず愛想もなく目線さえ動かず作業に没頭しているが、それだけ真剣に向き合っているということも伝わる。そしてそれがとてつもない集中力の必要な作業であることもわかった。
まだ付き合いが浅いとはいえ、自分を慕って着いてきてくれたキオン。自分には何もしてやれないという無力感に唇を噛み締めながらも、ユーシアはリオンの指示通り部屋から出ていく。スイとヨシノ、ヒョウガも後に続く。
「……すまない、あとは任せたぜ」
アラムはそう言って部屋を出て行こうとするが、リオンが後ろから呼び止める。
「……なぁ、考古学者。こいつの修理が終わったら聞きたいことがあるんだけど、いい? 」
「……もちろん、力になれる事なら」
そう言ってアラムは部屋を出ていった。リオンは解析を終わらせ、研究室に準備されてあった機器で小さくカットされたゼルにプログラミングを開始した。
作業は5時間経ってもまだ続いている。ヒョウガはドームの本格的な修理をする必要があるため、学長の元へと向かった。残された皆は2階で各々の時間を過ごしていた。アラムは何度もシェンザーたちに連絡をとろうと試みたが、やはり一向に応答がない。
1階からは断続的に機械音が鳴り響き、皆の緊張感を煽り続ける。ユーシアも部屋中を落ち着きなくウロウロと歩き回っており、かなり心配そうだ。アラムが声をかけようとした瞬間、館内アナウンスが流れる。リオンの声だ。
『えーー、聞こえますか? とりあえず、修理は終わったよ。全員、早くこの子とベッド上に運んで。ずっといられると狭い』
慌てて全員が階段を駆け下りて研究室へと向かう。部屋の扉を開けると、中は想像を絶するほど散らかっていた。ゼル片やゼルから作り出された鉄片が床に散乱しており、足の踏み場もないといった状況だ。ほぼ新品の状態で譲り受けたばかりの部屋とは到底思えない。
肝心のキオンはというと、ベッドの上で眠ったままだった。リオンが言うには、現在スリープ状態にあるらしい。これはキオン自身の防衛能力が働いている証拠であり、体力さえ回復すれば機能面での故障箇所はとりあえず修理できたらしい。
「……まぁ俺もゼルのプログラミングとか始めてだし、もう何度か検査して調整はしなきゃいけないけど。って、あんたら全然聞いてねえな……」
リオンの説明も虚しくユーシアたち三人は未だ目が覚めないキオンにしがみついて大泣きしている。かと思えば、3人で協力してあっという間にベッドを上の階へと運び始める。リオンは手伝おうとするアラムを呼び止めてこっそりと質問する。
「……ああ。聞きたいことがあるんだったか? 」
「……俺、監視カメラの映像見たんだ。あの時、お前は俺が寝てる間に何か飲ませてたよな。あれは一体何なんだ? 」
「……ああ、あれか? アーサーが使ってたモールス信号を自動翻訳して声に変えるプログラムだよ。ほら、元々お前ら言葉を声に出して喋れないだろ? 」
リオンは過去の記憶を思い出そうと試みたが、その記憶はロックされていてわからなかった。だが、ヨシノや博士との想い出では、自分やヨシノが会話していた記憶は確かにない。
アラムはポケットから余っていた翻訳プログラムを手渡すと、サイバーゴーグルで解析を始める。
「へぇ……なるほど……これ、面白いな。悪い、一旦これ借りとくよ」
そう言ってまたリオンは研究室へと籠もってしまった。アラムはリオンの行動が気になりつつも、ひとまずキオンの様子を見に2階へと向かった。
「……ごめん、待たせた」
そう言いかけて、アラムは口を抑える。皆キオンの横たわるベッドを囲むようにして座り込んで眠ってしまっていた。よほど安心したのか安らかな表情である。その様子を目覚めたキオンが嬉しそうに眺めながら、アラムに静かにするようにと人差し指を口元に添える。
キオンの元気そうな表情を見てアラムはひとまず安心した。そこへ、シェンザーから着信が入る。慌てて下の階へと降りて呼び出しに出る。
「……おい、シェンザー。心配してたんだぞ、何かあったのか? 」
『それが、実はさ……フゥが捕まっちゃったんだよね……』
「……え、また? 」




