29 みんなのところへ
どこまで進んでも、どこまで進んでも……地平線まで見渡す限り岩肌ばかり。ごつごつとした高低差だらけの、舗装されていない山道がずっと続いている。しかし外の世界はドームの内部のように重力の制御がされてはいない。重力がアースよりも弱いから、足場が悪くても無理なく歩みを進めることができる。
天を見上げれはどこもかしこも、気を抜けば吸い込まれてしまいそうなほどの真っ暗闇だ。それでもリオンはその暗闇を越えなければならない、このまま立ち止まってはいられない。そういう使命感というか、焦燥感というか、そういうものに心が駆り立てられていた。
この山を越えれば、きっと何かある。そうやってもう小高い丘のような地形をいくつか乗り越えてきたが、あまり目に映る景色に大きな変化はない。リオンは直感した。この星もアース同様に、死を間近に迎えた惑星なのだと。
歩いている最中に、アースにはなかった特有の景色も見ることができた。いや、景色というべきなのか……もしかすると、アースの未知なる生命体とでもいうべきか。
地面から滲み出るように、ぶよぶよとした薄緑色の半透明の球体がぷかぷかと浮き上がっている。それも、岩だらけの大地から同じ物が無数に湧き続けているのだ。
「なんだこれ……不思議」
近くで湧き出た謎の球体を掴んで見る。見た目通りのぷにぷにとした心地よい弾力だった。サイバーゴーグルで解析すると、やはり生命反応があることがわかった。
リオンは少しの間サイバーゴーグルの録画機能で不思議な生命体の映像を撮っていたが、一つを座布団代わりにしてその場に座り込む。座り心地は申し分なかったが、時間が経つとしぼんでまた地面の中へと吸い込まれていった。
「これが惑星リバイブか……アースの方がよっぽどいいとこだったな。戦争の真っ只中じゃなければ、もっと良かったんだろうけどさ。……はぁーあ、早く帰りたい。皆のところへ」
少し疲れてきたリオンは伸びをして勢い良く寝転がるが、頭の着地点がどこかを考えていなかった。ごつごつした岩肌に思いきり頭を打ちつけ、痛がるリオンの元にヨシノが走ってくる。
「リオン……いた! 」
「……ヨシノ」
リオンは思わず身体を起こし、ヨシノに背を向けて体育座りをする。どんな顔をして会えばいいか、わからなかった。ヨシノはリオンの前へと回り、しゃがみ込む。リオンの目の前にいたのは、あの頃と何一つ変わらない笑顔のヨシノだった。
「……リオン、一緒に帰ろう。みんなのところへ」
ヨシノはそう言ってリオンの手を握ろうとするが、リオンは意固地になって払い除ける。彼女のいう【みんな】は、リオンの帰りたい場所ではないことを感じていた。
「無理だよ。俺、監視カメラの映像を見たんだ……信用なんかできない。ヨシノだって苦しそうだったじゃないか。俺も眠ってる間に、あいつに何か薬みたいな物を飲まされたんだぞ。俺にはあいつのこと、どうしたって信じられない」
後ずさりしようとするリオンをヨシノは優しく抱き締める。思わず呼吸も忘れてしまうほどにヨシノの両手は温かく、リオンを包みこんだ。
「アラムはね……博士と同じなんだよ。アースのことが、とっても大好きな人。たとえ使命じゃなくても、アースのために頑張ってくれるいい人なの。
ヨシノ、苦しくないよ。アラムと皆が一緒だから。これからは、リオンも一緒だよ……みんなのとこへ帰ろう? 」
「……あ! 二人が戻って来たッスよ! 」
ユーシアが声を上げる。ドームの外側に広がる荒れ果てた大地を歩く、二人の姿が近づいてくるのが見える。
アラ厶は二人の姿を確認すると、近くに立っているキオンに呼びかける。
「キオン、氷の回りの気温だけを高くすることって出来るのか? 」
「もちろんだよ、アタイに任せといて」
キオンは穴を塞いでいる氷の前に立ち、両手を前につきだす。やがてキオンを包む景色がユラユラと揺れて見え始める。汗を拭きながらじっとその光景を見守るヒョウガやスイとは対象的に、アラムは目の前で起こっている初めて見る現象に興奮している。
「古文書で読んだことがあるぞ、確か陽炎って現象だ! 確か、密度の違う空気が混ざって光を屈折させるとか……初めて見た、すげぇぇ!! 」
「確かに……空気や気温が完全に管理されてるこのドームじゃ、本来絶対に起こらない現象ッスもんね。サンディナではよく見れるッスよー」
「ちょっと! アンタらうるさいよ! 緊張感ってもんがないのかよ、気が散るから黙ってて! 」
興奮するアラムと一緒に盛り上がるユーシアに、キオンが姿勢を崩さないように振り向いて二人を叱りつける。二人は口を押さえてキオンの方を見つめる。
「はぁ……まったく。そろそろ開くわよ! 皆、衝撃に備えて! 」




