27 リオンの誤解
アラムは椅子から転げ落ちた衝撃で目を覚ます。眠りを妨げ襲いくる激痛に、眠っているヨシノを起こさないように床に転がったまま静かに悶えている。
「くぅ……痛ってえ! ……そうか、寝ちまってたのか」
ゆっくりと身体を起こしおそるおそるヨシノの方を見ると、こちらを気にする様子もなくまだすやすやと眠っていた。アラムは今の振動で起こしてしまったのではないかと少し焦っていたが、どうやらその心配はなさそうだ。昼間のように苦しそうな表情ではないことにも安堵した。
時計を見ると現在時刻は1時、先程皆と別れてからまだ数時間しか眠っていない。自分もベッドで横になろうと、床に強打した足をさすりながら立ち上がる。
ふと、二階の床の一部に埋め込まれているマジックミラーから見える大広間の方へと目を向ける。部屋の中心には先程と変わらずカプセルが置いてあったが……中に寝ていたリオンの姿がない。アラムは慌ててマジックミラーの床に這いつくばると、部屋の隅々を見渡す。部屋の中にはリオンの姿がない。
「まじかよ……逃げやがった」
慌ててアラムはドタドタと階段を駆け下りる。二階への階段は玄関口に繋がっており、右側には監視室、左側には現在倉庫として使われている空き部屋に繋がる扉がある。
アラムは一旦監視室へと向かい、そこで監視カメラの映像を確認することにした。機器の触り方をヒョウガから聞いていなかったが、とりあえず電源を起動してそれぞれの監視カメラの映像を見ることに成功する。
時間にすると今からおよそ一時間ほど前だ。リオンは長い時間大広間のカプセルの中で悪い夢にでもにうなされている様子だったが、やがて目を覚ました。悪夢を振り払うようにして飛び起きると、乱れた呼吸を整えて立ち上がり部屋を出ていくところまではっきり監視カメラに映されている。
部屋をぐるぐると見回した後、一つの扉から出ていく。確かその扉の先はこの監視室だ。監視室内にも設置されていたカメラに画面を切り替えると、やはりリオンの姿が映っている。
リオンは今の自分と同じように映像を見たあと、研究室へ向かい色々な物を物色している。
「……なんか手に取ったな。すげえ見てる……一体何してんだ? って、あぁ!? やりやがった……貰いたての研究所の扉を…!!」
どうやらリオンが手に取ったのはベンディングシステムらしい。扉は捻じ曲げられて、大きな穴に変わってしまっている。
アラムは映像を見た瞬間に、なんだか自分の心にも大きな風穴が開いたような気持ちになったが、一旦気を取り直して映像の続きを再生する。
リオンは何かの物音に反応したように上を見上げる。今のは恐らくアラムが椅子から落ちた時だろう。少しの間リオンは研究室に立ちつくして何やら考えていたようだが、装備したベンディングシステムを構えながら、また扉を開けて隣の部屋へ移動した。
「そうそう………そんで、今に至るってわけ」
背後から何者かの声がする。振り返ろうとすると後頭部に何か金属製の機器が押しつけられているのがわかる。
「おいおい……冗談だろ」
「勝手に動くな、勝手に喋んな。このまま頭吹き飛ばすよ? 」
「……お前がリオンか。はじめましてのご挨拶にしちゃ、やけに敵意剥き出しだな」
監視室の監視カメラの録画映像にもちょうど自分とリオンの姿が映し出されているところだ。リオンに突きつけられたベンディングシステムを後頭部に感じる。自分が今圧倒的に不利な状況に立っていることだけはわかる。リオンは落ち着いている様子で、アラムにゆっくりと語りかける。
「お前、黒幕でしょ? 俺に何かの薬を投与したのは監視カメラで確認した。それに……ヨシノが苦しんでた。あの子はどうやら俺の古い友人らしいんだ。なあ、ヨシノをどこへ連れていった? まずはあの子を解放しろ」
監視カメラの映像のせいで、アラムの事を敵だと誤解して認識しているらしい。ヨシノの元へ連れていけば誤解は解けるかもしれないが、こいつがベンディングシステムを持っている以上ヨシノを危険に晒すことになる。今は会話で出来るだけ時間を引き伸ばすしかない。
アラムはポケットに手を突っ込むと、ヨシノの花弁を握る。ユーシアとヒョウガに緊急連絡を取る際、携帯よりも相手に見つかりくいことを理由に一枚ずつヨシノの花弁を渡していたのだ。助けを呼びながらもリオンとの会話を始める。
「お前、確かリオンって言ったな。ヨシノのことを知ってるのか? お前らはどんな関係なんだ」
「……ああ、ちょうど今またいくつか記憶の鍵が空いた」
記憶の鍵とはなんなのか。アラムはリオンの言い方がかなり気になったが、今はリオンの話を黙って聞くことにした。
「俺のことを捕まえてたってことは、お前も少しは調べてるんだろ? プロジェクト【Earth-er】のこと。ヨシノは俺がアイツに造られた時にはもう、アイツと一緒にいたみたいだ。俺は生まれた時からヨシノとずっと一緒だったんだ……あいつのことならよく知ってるぜ、もちろん……【サクラダヨリ】のこともね」
「……なっ! しまっ……」
「ってかさ、お前馬鹿だろ。俺もアーサーなんだ、モールス信号は全部丸聞こえだぜ。『助けが必要』ってな。
誰か来ても面倒くさいな、このまま時間稼ぎするつもりなら……容赦なくその頭をふっ飛ばすぞ」
リオンはそうやって背後からアラムを床へと引き倒し上にのしかかると、髪の毛を掴んで首だけを上に引っ張り上げると上体を動かせないアラムの鼻先へとベンディングシステムを近づける。
「リオン、駄目! 止めて! 」
いつの間にか部屋の中にヨシノが起きて部屋の中へやってきていた。
「ヨシノ……逃げろ! 」
突然現れたヨシノにアラムは驚いて、思わず叫ぶ。リオンは掴んだままのアラムの顔面を床に叩きつけると、痛がるアラムを放置して笑顔でヨシノの方へと駆け寄る。
「無事でよかった……! 心配してたんだぜ。さぁ、早く一緒に逃げ……」
笑顔で手を差し出すリオンの頬をヨシノは思いっきりひっぱたいた。




