25 アースの記憶
ピー……ピー……ピー。断続的にカプセルの起動を知らせるアラームが鳴り響く。白い煙を噴出しながら、上面のハッチが開いていく。突然の起動音にユーシアたちは各々カプセルから視線を離さずに少し距離をとっている。アラムは白い煙を浴びながら一人ゆっくりとカプセルの方へと近づいていく。
「アーサーの名前を読み上げることが、今回の起動の条件だったか……」
アラムは一人唸る。ヨシノと出会った際のカプセルの起動方法とは異なるシステムが搭載されていたからだ。カプセルの外側に刻まれていた文字を完全に解読する前だったので詳しいことはまだ分からないが、それぞれのカプセルの解錠方法は異なる造りなのかもしれない。
だんだんと白い煙が晴れていく。ユーシアはヨシノと出会った際に一度カプセルを開けているものの、緊張しながら恐る恐る中身を覗く。
カプセルの中は柔らかな素材で出来ている。衝撃を吸収する素材なのだろう。そしてその素材に包まれるように眠っていたのは、ユーシアと同じくらいの背丈の青年だった。アラムはとりあえず、眠っている間にリオンの口の中に翻訳プログラムを含ませておく。
「……こいつが、リオン。なぁ、誰かこのアーサーと会ったことがある奴はいるか? 」
アラムからの問いに手を挙げたのはヨシノだけだ。他のアーサーの面々は皆、見たこともないといった様子だ。
「俺ァ、アーサーの中でも割と早い段階で打ち上げられたからなァ。よくわからんのよ」
「アタイとスイも同じだね……確かヨシノなんだけだよね、最初期に作られたアーサーの中で最後まで向こうにいたのは」
「そうだったのか……一体どうしてヨシノは最後までアースに残ったんだ? 」
「ヨシノ、博士に言われたの。『出来る限り長い時間を私や、他の人達と過ごしなさい』って。だからヨシノは……ヨシノはね、アースがおかしくなっちゃうまで、ずっと…ずっと…」
そう言ってヨシノは顔を覆ってしゃがみ込んでしまう。アラムはハッとした。ヨシノは恐らく美しい自然豊かなアースが人間の手で壊され滅んでいく様を一部始終見てきたのだ。【崩壊の聖戦】によって壊れていく故郷、命を落としていく仲間たち。それはきっとヨシノの中に根強く残る、拭い去ることができない絶望の景色なのだ。
「……アースはね、最初は……すっごく綺麗な星だったの。でもヨシノが最後に見たアースは……真っ赤だったの。どこまでも、どこまでも真っ赤で……でもなんだか真っ黒なの。それがとっても……とっても怖い」
そう言ってヨシノは体を丸めながらガタガタと震えている。アラムは思わず駆け寄りヨシノを抱き締める。
いや、ヨシノだけではない。スイはユーシアの腰にしがみつき、キオンも顔を俯かせ、震える腕を抑えている。ヒョウガも心なしか表情が暗い。アーサー達は多かれ少なかれ、アースの惨状によって心に癒えない傷をつけられていたことをアラムは思い知った。
「ヨシノ、ごめん。もう思い出さなくていいよ……怖い思いをしたんだな。本当にごめん、もう大丈夫……大丈夫」
ヨシノは息を荒くしてずっと震えていたが、やがて落ち着いてくるとアラムの腕の中ですやすやと眠ってしまった。アラムはヨシノを背負って立ち上がる。
「研究所内に生活スペースがあったよな……ベッドにヨシノを寝かせてくるよ。……お前らも、悪い。俺の不用意な発言で嫌なこと思い出させちまった」
「……アラムの旦那。悪いけど、俺もドルクムの旦那のとこへ戻るぜェ。本来の仕事があるんでなァ……」
ヒョウガはヨシノを背負ったアラムの隣を足早に通り過ぎていく。
「ああ、ありがとな」
アラムの精一杯の声掛けに対して、ヒョウガは僅かに手を挙げると振り返りもせずに研究所を出ていった。
「……ユーシア達は、どうする? 」
「自分は、ワイズオウルの居住区画にアパートがあるのでひとまずそっちに戻るッス。また後日荷物をまとめてこっちに戻ってくるッス。 ……スイ、キオン。歩けるッスか? 」
二人は黙ったまま頷く。ユーシアは優しく二人の頭を撫でると、そのまま手を繋いで歩き出す。アラムに軽く会釈すると、ゆっくりと研究所を出ていった。
研究所内の生活スペースは2階にあり、なんと上からも1階大広間の実験が見えるようになっている。おかげで上の階からも、真ん中の強化ガラスの床を覗き込めばリオンの様子がわかる。驚きだが、アラムにとっては都合がいい。
ヨシノをベッドに寝かせると、2人のことが見える位置まで椅子を引っ張ってきて座った。
「ヨシノの時は起動に大体1日か2日かかったんだよな……今回はどれくらいだろ」
部屋のデジタル時計を見る。時刻は22時を回ったところだった。アラムはすやすやと眠るヨシノの顔を見つめているうちに、いつの間にか眠ってしまった。




