20 ハルバートの暴走
叫び声をあげるハルバートを警戒して、ユーシアは少女を庇うようにして向き直る。彼の警戒心に満ちたその視線さえも、ハルバートの中で湧き上がってくる謎の感情を逆撫でするのには充分だった。
ハルバートがこれまでに味わったことのない感情に突き動かされるように何度も地面を殴りつける。何度も何度も地面に拳を叩きつけるうちに出来た氷塊や競技場の瓦礫が砕けたままだった氷の槍と結合していく。ハルバートの右腕に装着されている【ダイハンド・ガントレット】はまた競技場から天高くはみ出してしまうほどの超巨大な手のひらを形成していく。
ハルバートの目はどことなく虚ろで焦点が合っておらず、もはや正常な思考を失っているようだった。不気味な笑い声すら漏れている。しかしユーシアは、ハルバートがゆっくりと持ち上げた巨大な手に怯えるどころか少女と生物を抱きかかえると落ち着いて言った。
「よいしょっと……ふたりとも、しっかり自分に掴まってるッスよ」
ハルバートは目を見開き、奇声を発しながらユーシアたちに向かって、重量に任せて振り下ろした。しかしユーシアにとっては恐れるに足らない速度である。振り下ろされる巨大な手を上手く躱しながら二人を抱えて跳び上がる。手は勢いよく地面に激突し、辺りに轟音を響かせる。競技場の地面を覆う氷の大地には大きなヒビが入っていく。ユーシアは地面に振り下ろされた巨大な手に着地し、瓦礫と氷で不安定な地面の上をハルバートに向かって走り出す。
「くっ……来るな…!!」
ユーシアは全速力で近づくと、ハルバートの目の前で急ブレーキをかける。
「ハルバートくん、使いこなせてないッスよね。この【ダイハンド・ガントレット】」
「は……!? 何言ってるんだよ。そんなわけねえだろ……」
「さっきの氷の槍の時も、今朝の廃校舎で初めて使った時も……それから今の攻撃もそうッスけど、ハルバート君の筋力で自由に動かせるサイズよりも大きく造り過ぎるから持ち上げるのに精一杯なんじゃないッスか? いつも振り下ろすだけの単調な動きばかりじゃないッスか。
……ほら、今も腕を挙げられないッスよね、ギリギリ持ち上げられた巨大な腕も自分たちの体重分増えちゃってるッスから」
「そ、そんなわけねえ! ……ぐ、ぐぁあああ」
ハルバートは思い切り腕を振り上げようとするが、びくともしない。ユーシアは尚も諦めないハルバートに向かって淡々と告げる。
「ハルバートくん、僕は今この子たちを守らなきゃいけないッス。君にどんなプライドがあろうと、どんな理屈があろうと、君はこの子たちを傷つけようとした。だから今回だけは……ごめんッス」
ユーシアはハルバートの顔面を蹴り上げる。ハルバートは気絶し、後ろにふらつきながらも動かない腕に引っ張られて前のめりに倒れ込んだ。
「……はぁ、疲れたッス」
「うわ、こっちもすごいことになってるな……おい、ユーシア! 」
戦闘の地響きを聞きつけて、アラムとヒョウガが競技場へとやってくる。少女はとっさにユーシアの背後に隠れ、白い生物も唸り声を上げて警戒している。
「二人とも大丈夫ッスよ。あの人は味方ッス」
「大丈夫だったか? って、後ろにいるその子……ヒョウガ、もしかしてあの子は【気温】のアーサーか? 」
アラムの問いかけにヒョウガは申し訳無さそうに首を振る。
「すいません、アラムの旦那。俺ァ他のアーサー達のことあんまり知らねえんだ。ヨシノに聞けばなにかわかるかも。
あと、多分そっちの白いのもアーサーだと思うぜ。なんだか、そんな気がする」
そう言うとヒョウガは、唸り声を上げていた白い生物を指差す。その姿を見てアラムは興奮しながら白い生物を両手で抱えあげる。
「す……すげえ! 確かアースに生息していた【フォックス】だよな。生産特区【メカニカルフォックス】の紋章にそっくりだ! めちゃくちゃ可愛いじゃねえかよぉおお……ぎゃぁぁっ」
あまりの可愛さに頬ずりさえしそうだったアラムの手に白いフォックスは容赦なく噛みついた。突然襲った激痛に耐えられず、アラムは絶叫しながらそのフォックスを離すとアラムの顔面に後ろ蹴りをかまして一目散にユーシアの元へと走っていく。
ユーシアの肩にちょこんと乗ったフォックスは涙ぐみながらもまだ仲良くなろうと微笑むアラムを一瞥すると、フイとそっぽを向いた。
「き……嫌われた。そんな……ううっ」
がっくりと項垂れるアラムとそれをなだめるヒョウガ。黙って成り行きを見ていたユーシアは一番気になっていたことを二人に質問する。
「あ、あの……この子たちのこと、どうするつもりッスか? 」




