18 涙の少女を守り抜け
「き、君は……どうして泣いてるッスか? 」
ユーシアは慰めようとして少女の方へ近づいていく。青い髪の少女はユーシアの存在に気付くと怯えたような顔をして、より一層涙を流し始める。どうやら大量の水は少女の足元から湧き出しているらしく、少女が強く泣くほどにその勢いを増していく。ユーシアは流されないように近くにあった手すりにしがみつく。
「この水、君が泣いているから湧いてくるんっすか? すごく不思議ッスね……もしかして、君もアーサーってやつなんッスか? 」
勢いの強い水流のせいで動けないユーシアの頭の上から白い生物がジャンプして少女の顔へとしがみついた。少女は顔に飛びついてきた白い生物を抱き上げると安心したように笑って頬ずりした。どうやらこの生物と逸れて不安になっていたらしい。
二人はユーシアには聞き取れない不思議な電子音を発し始める。それが二人の言葉らしかった。気がつけば、湧き出る水の流れはぴたりと止まっており、彼女を中心として水浸しになった床が現れ始めている。ユーシアは顔を拭うとしゃがんで二人の方を眺めていた。
突然、白い生物が少女の手を抜け出すと、ユーシアの肩へ跳び乗って頬を擦り寄せてくる。
「ど、どうしたッスか……もしかしてお礼ッスか? いいんッスよ、全然! 」
白い生物が懐いている様子を見て安心したのか、少女もゆっくりと近づいてくる。もじもじと上目遣いの少女の頭を優しく撫でてから、ユーシアは立ち上がり手を差し伸べる。
「ここにいても埒が明かないッス。とりあえず、二人が危険じゃないことも分かったし……一緒に来ないッスか? 」
言葉が通じているのかどうかわからないが、少女は笑って手を握り返す。ユーシアは少女の手を握りながら氷の上をゆっくりと歩き始める。
アラムたちがいる、凍ってしまったプールの方へと繋がる入り口の方へと向かっていると、背後から聞き覚えのある声がユーシアを呼び止めた。
「オイオイ……ちょっと待てよ。グラウンドをこんなにしちゃって挨拶もなしか? サンディナの貧乏人」
突然、ユーシアは背後から何者かに蹴り飛ばされる。不意打ちを食らって、激しく氷の上を吹き飛ばされたユーシアは起き上がりながらその正体を視界に捉える。
「……ハルバート! なんでこんなところに……」
「この競技場はうちの部のメイングラウンドなんだよ、それをこんなに荒らしやがって……これじゃあ使えねえじゃねえか。てめぇ、どうやらまだ殴られたりねぇようだな」
「そうだぞ、お前。もうすぐ惑星間の大事な交流試合があるってのに。どうしてくれんだ、ハルバートさんに謝れよ! 」
ハルバートとその取り巻きたちは、2人と1匹を壁の方へ追いやるように取り囲む。
「自分は関係ないッスけど……流石にこれは部活どころじゃないッスよね。 ほんと、申し訳ないッス」
「謝って済むならケービロイドは開発されねえんだよ……しかたねえ、お前ら共々大掃除だ。おいお前ら、危ないからとっとと離れてな」
取り巻きたちに向かってそう言うとハルバートは数歩下がって振り返り、凍った地面に拳を叩きつける。
「【ダイハンド・ガントレット】起動……!」
砕け散った氷塊はガントレットの周りに付着し、やがてより鋭利な一本の槍へと形を変化させていく。より氷を砕きやすい形状になった腕を何度も振り下ろして、さらに氷を砕きながらどんどん太さを増していく。
「今度こそ……潰してやるぜ、サンディナの貧乏人」
その時、遠くから取り巻きたちが叫ぶ。
「あっ、ハルバートさん見てください! あの女の子の足元! 」
ハルバートは言われるままに、ユーシアの隣にいる涙目で怯えている少女の方を見る。少しずつではあるが、明らかにその少女の足元から溢れ出るように水が流れ出している。彼女が激しく泣き始めると共に水の勢いも増していき、氷を砕いてできた穴にも水が流れ込んでいく。
「ああ……なんだそのガキ? 」
目の前にいる少女の動きに合わせて少しずつだが水の流れが変化している。不思議な現象だが、なぜかあの少女がこの状況を作り出している。ハルバートは少女を静かに睨みつける。
ハルバートの敵意が元凶の少女に対して向けられているのを察知して、ユーシアが彼女の前に立ちはだかる。
「グラウンドを使えなくしたことは謝るッス。でもそれがこの子を攻撃していい理由にはならない。この子には……手出しさせないッスよ」
「お前……いい度胸してんじゃねえか」




