17 もふもふを追って
白いもふもふした毛に覆われた小さな生物は、ひんやりとした空気の中でユーシアの周りをぐるぐると周っている。ユーシアは初めて見る人間以外の生命体に驚きを隠せず、しゃがみ込んでじっと目を合わせてみる。
「も、もふもふ! か……かわいいッス」
ユーシアが生まれ育った砂漠の惑星サンディナにはいない、初めて見る毛皮で覆われた生物はとても愛くるしく思えた。
「もふもふは一体、どこから来たっすか? 」
しばらく目を合わせていたが、白い生き物は何かにピクッと反応したように後ろを振り返る。ユーシアもその視線の先を見つめて見るが、白い霧に阻まれてやはり何も見えない。 白い生命体がもやの中へと走り出す。
「あ! 待つッスもふもふ! 」
ユーシアは1度皆と合流しようか迷ったが、見失わないように追いかけることにした。
『思ってたより早い連絡だったね、アラム。もしかして、意外と寂しがり屋だった? 』
「おう、シェンザー。お前無しじゃやっていけねえぜ」
『ははっ、口説き文句は似合わないなぁ、アラム。それで、一体何があったの? 』
電話の相手は、つい先日知り合ったばかりの天才科学者兼開発者のシェンザーだ。アラムは謎の現象について、先日知り合った科学者シェンザーに聞いてみることにした。
『プールが瞬時に凍った……【氷河】のアーサー以外でそれが出来るとしたら……ねえ、プールの周りは寒かった? 』
「ああ、めちゃくちゃ寒かったぜ。でもよ、氷があったら冷たいのは当たり前じゃないのか? 」
『うーん……【氷があるから寒くなってる】わけじゃないかもしれないよ? 」
「なるほど、確かに建物の外から身体の震えは止まらなかったな」
『【過冷却】という現象の話を聞いたことがある。ゆっくり冷やした水に衝撃を与えると、水が急激に氷に変化するんだとか。
【寒くなったせいでプールが氷になった】のなら……例えばアースの【気温】の記憶を護るアーサーとか』
「なるほどな……とりあえず探してみるぜ、【気温】のアーサー。ありがとなシェンザー」
『ねぇ……アーサーたちはこの惑星リバイブのドームにもう何人もいると思う? そんな状態で、本当に秘密のままでいられるの? 』
シェンザーの心配も当然の話だろう。アラム達がアーサーの存在を秘密裏に研究しているのは、彼らの存在とその研究が惑星リバイブの民に理解してもらえない可能性が高いからだ。
「……ああ、だからこそ出来るだけ早く準備をする必要がある。頼りにしてるぜ、シェンザー」
シェンザーとの通話を終えると、プールの奥の白いもやから人影が見える。ヒョウガだ。
「アラムの旦那! 無事でしたか、何か分かりましたか? 」
「おう、とりあえずアーサーの仕業らしいな、【気温】を護るアーサーっていたか? 」
「確かいたと思うぜェ……でも、どんなやつかまでは正直……」
「いや、いたって事実だけで十分だ。……はは早く探しに行こうぜ、ここは寒すぎだ」
「そうだなァ……プールが寒くて身体がプールプル震える、ってな」
「うぉお、突然の駄洒落か……これが【場が凍りつく】ってやつか。さすが【氷河】のアーサーだぜ……」
白い生物は凍ったプールから跳び出すと、キョロキョロとあたりを見渡したり地面に残る匂いを嗅いだりしている。
「なにか、探してるッスか……? 」
白い生物は、ピクリと大きな耳を立てる。何かを察知したのか建物の外の方へと走り始める。どうやらアラム達が入ってきた入口とは真逆の方向にも出入り口があったようだ。ユーシアも慌てて後を追っていく。
入口の先は同じ建物内にある陸上競技場に続いていた。多くの学生達が講義や部活動で利用しているこの競技場でも明らかに異変が起きていた。
「地面が水浸しッス、一体なんでこんなことに……」
呆気にとられているユーシアを他所に、白い生物が水浸しになった地面を走っていく。グラウンドの真ん中の方へと走っていくと、白い生物が小さな身体を思いきり震わせると、その身体から冷たい空気が放出され始める。冷気は徐々に競技場に満ちていき、ユーシアのいるところまで冷えていく。
「さ、寒っ……! 急に空気が冷たくなったッス! ということは、さっきのプールもあの子がやったんスね」
ユーシアがグラウンドの水溜りに足を踏み込むと、その衝撃で一気にグラウンドが凍りついていく。
ユーシアの履いていた靴は凍った水の中に閉じ込められてしまい、思わず倒れこむ。白い生物は愉快そうにその場で飛び跳ねている。
「痛っつ……何なんっスかこれ? 」
ユーシアは仕方なく靴を脱ぎ捨てると、冷たい地面の上に立つが、あまりの冷たさに一度靴を履き直す。
「うーん、どうしたもんっスかねぇ……」
ユーシアは困ってあたりを見渡す。すると、グラウンドの端の方で氷の上へと流れ出している大量の水を発見する。
「おかしいッス……あそこだけ水が凍ってないッス。 きっと、あそこから水が流れ続けてるから水浸しになってるンスね。早く行って止めなきゃ! 」
ユーシアは覚悟を決め、全力疾走で水が流れ出る方向へと走る。その様子を見て白い生物も後を追いかけてきてユーシアの頭の上に跳び乗った。
凍りついた地面はアラムの言っていた通りとても滑りやすく、何度か転びそうになりながらも水の流れの方へと辿り着く。水の流れの源には、青い髪をした一人の少女が座っていた。




