12 サンディナの少年ユーシア
ワイズオウル地区全ての土地を使い、超大規模な学習施設として惑星中のあらゆる学問を学べる場所、【ワイズオウル超高等学院】。その敷地の中にある、新しい設備が備わった新校舎の設立に併せて取り壊しが決まっていた立入禁止の中級学問旧校舎に数名の人影が見える。
複数人の生徒が集まって、一人の少年を攻撃していた。白髪の少年は自分の故郷の民族衣装に身をまとっている。リーダー格の青年が少年を押し倒す。
「あっ、ちょっと! 止めてくださいっス! 」
「うるせえんだよ、制服さえ買えない惑星サンディナの貧乏留学生め! 」
しゃがみ込む少年の腹をめがけて、体格の良いリーダー格の青年は容赦ない蹴りを入れる。少年は息苦しそうにうずくまる。青年の取り巻きたちも同様に、蹴り始める。
「てめぇみたいな貧乏臭いやつが、どうしてこの格式高き【ワイズオウル超高等学院】に入学できたんだよ。何か卑怯な方法でも使ったんじゃねえのかよ、なあ!? 」
「……ぐ、そんなこと……してないッスよ。皆と同じように……きちんと試験に合格して……」
「てめえと俺らを一緒にすんじゃねえよ!! もうこの学校には通えないくらい、ズタボロにしてやる」
そう言って青年は右手に篭手を装着する。その表面は半透明で粘着質な物質で包まれており、その内部には精密な部品が見える。周りの取り巻きたちも青年が取り出した道具を見て、皆青ざめていく。
「な、なぁハルバート……それは流石にやべえんじゃ……」
「いいから黙って見てろよ、どうせこのまま校舎が取り壊されればこいつは瓦礫の下に埋もれちまうんだ。バレないよ」
取り巻きからハルバートと呼ばれた青年は謎の篭手の電源を入れると、そのまま近くの壊れかけた壁を思い切り殴りつける。
粉砕された壁の瓦礫は殴られた衝撃で飛び散るかに見えたが、飛び散る前にその篭手に張り付くようにして集まっていく。やがて瓦礫はより大きな拳のように形を成し、その隙間を接着するように粘着質な物質が伸びていく。まるで巨人のように大きく膨れ上がった瓦礫の右腕はそのまま上の階を突き破る。
「くくく……どうだ。あらゆるマテリアルを粘着し、自分の望む腕を作り上げる。これがワイズオウルと惑星マキアの共同開発技術、【ダイハンド・ガントレット】だ。このまま殴り殺してやるよ」
振り上げられたその拳を見て、サンディナの少年は震えながら顔を上げる。背後も壁で、建物の出入り口はハルバートの後ろにある。取り巻きたちもさすがにこの状況はまずいと思ったのか、我先にと建物から逃げていった。
「はっ、腰抜け共がよ……まぁいいや、とにかく潰れちまえ! 」
そう言って握りしめていた瓦礫の掌を大きく開くと、虫でも潰すかのように振り下ろした。
その掌は2階の床を巻き込みながら地面を叩く。あまりの衝撃に建物は揺れ、砂煙が巻き上がる。
「……あ? てめぇ何避けてやがんだ? 」
サンディナの少年は、振り下ろされる直前に上手く指の隙間から抜け出していた。
「次は外さねぇぜ……大人しく潰れ」
「よいしょっとおおおおおっ」
ハルバートが喋り終わる前に、その後頭部に鋭い飛び蹴りが突き刺さる。そのままハルバートは前のめりに倒れ込む。飛び蹴りを入れたのは、本校舎に向かう途中、想い出深いこの校舎に寄り道したアラムだった。
起き上がろうとするハルバートにのしかかりながら、高度な機能を持ったガントレットの電源を切る。たちまち腕を形成する瓦礫はぼろぼろと地面に落ちていく。
ヨシノも続いてハルバートの背中に飛び乗った。アーサーの重量はなかなかのものである。ハルバートから痛そうなうめき声が聞こえる。
「こんなすげえ技術を後輩いびりのために使うなよ……あと、ここ立入禁止らしいけど? 」
そう言って背後にある立て看板の方を親指で示す。ハルバートは力を入れるが、さすがに立ち上がることができない。首だけを動かして、突如自分を襲った人間を確認する。
「その古びたストローハット……まさか、あのアラムか!? 」
「へえ、俺のこと知ってんのか」
「ああ……有名だよ。ワイズオウルきっての秀才のくせに、大した研究成果もなくふらふらほっつき回ってる道楽野郎だってな」
「あー……通りで学生たちが冷やかな視線を俺に向けるわけだ」
妙に納得して、腕を組みながら感心しているアラムをよそにヨシノはムスッとした顔でハルバートの正面に回る。
「アラムのこと、悪く言ったの! ヨシノ、ぜーったい許さないの!! 」
そう言ってしかめっ面のまま、ヨシノはぽかぽかとハルバートの顔面を叩く。
あまり力が入っていないように見えるが、そこはヨシノもアーサーである。金属で出来た拳に殴りつけられ、たちまちハルバートの顔は漫画みたいに腫れ上がる。
「ヨシノ、もう止めとけ……お前、一応鋼鉄製なんだから。さすがに、ほら……痛そう」
「……ふーん。ヨシノ、スッキリしたの」
気が済むまで殴り続けたヨシノは、何だか誇らしげに胸を張っている。ハルバートは「お、覚えとけよ! 」と、またもや漫画みたいな捨て台詞を残して走り去っていった。
アラムとヨシノは、奥でポカンとした表情のままうずくまっていたサンディナの少年に手を差し出した。
「あ……ありがとうございますッス。お二人ともお強いッスね! まるで正義のヒーローッス! 」
「そんな大したことしてないよ、それより怪我ないか? 」
「大丈夫ッス、この通りぴんぴんしてるッスよ」
そう言って少年は屈伸運動をして見せる。アラムとヨシノは安心した様子で少年の方を見る。サンディナの動きやすそうな民族衣装に見を包んだ褐色で白髪の少年は、新入生であることを意味する桃色の名札を胸につけている。
「へえ……ユーシアって言うのか。新入生ってことは、こっちに来たのも2ヶ月ほど前ってことか? それにしちゃ、流暢にこの星の言葉を喋るんだな」
「ありがとうございますッス! ガンバって勉強したッス」
確か惑星サンディナは、全域が砂に覆われた星である。人々が暮らす土地はいくらでもあるが砂以外の鉱石や物資、食料が全く取れないために貿易や事業が滞り、惑星単位での貧困が続いていると聞く。
「ユーシア、授業は本校舎で受けてるのか? せっかくだし一緒に行こうぜ、サンディナの話を聞かせてくれよ」
「は、はいッス! 光栄ッス!」




