103 使命の放棄
リオンの言い分にジュノは少し落胆した様子を見せるが納得はしたらしかった。項垂れているジュノの小さな背中をアラムは軽く叩いて声をかける。
「仕方ないさ。今度一緒に探してみようぜ、大気の記憶を護るアーサー」
そのアーサーがどこにいるのかアテがあるわけでもないのだが、アラムがそういうとジュノは少しだけ笑顔になった。元気を取り戻したジュノは説明を続けようと近くの地面に落ちていたゼルを両手で拾い上げて歩いてくる。
「これは【形状維持プログラム】を撃ち込んだ後のゼルでありますです。普通に浮かんでくるゼルよりは少し固めの触り心地でありますです。ゼルはこの広大な牧場区の至るところに落ちているでありますですが、その成長の管理も現在はほとんどケービロイドによって行われているでありますです」
「成長? ゼルは成長するのか? 」
「一応あの見た目ながらゼルは生物という扱いになるらしいのでありますです。もちろん【増殖•分裂プログラム】によってオイラ達牧場区の職員やケービロイドたちが成長を促すのでありますですが、それは本来退化しているゼル自身の運動機能を活性化させるための役割でありますです」
「それで、そうやってここで育てられたゼルが輸送されるのが柵の外側に見える工場区って訳だ。あっちもなんだかすげえよな! 」
柵の外側に見えているのが工場群だ。ここはゼルの加工に特化した工場ばかりで、食品や建材、衣服など生活の細部に至るそのほとんどはこの場所で製造・生産されたものだ。
「そうでありますですよ。ゼルはプログラムによって固体、液体、気体と状態変化する物質なのでありますです。サイズ感や質量、またプログラムを実行した際の反応速度などをこちらでチェックして工場群へと輸送しているでありますです」
「俺たちの生活の裏でこんなにも大変な仕事が……そんな大変な仕事をまとめる地区代表をしてるなんてすげえんだな、ジュノ! 」
アラムに褒められてジュノはとても喜んでいる様子だった。しかしアラムとリオンの視線は何故かジュノの背後へと向けられていた。何かの影が彼らの方へ向かって凄い速度で迫って来るのだ。
「おい、ジュノ。ちょっと下がってな」
「え? どうしたんでありますですか? 」
次の瞬間、アラムは抜刀した【桜芽刀】で迫ってきた何かの襲撃をガードしていた。その影は人間の姿をしていて、両手には鋼鉄の爪のような武器を装備しており、アラムに飛びかかる際に一気に展開して襲撃してきたのが見えた。
「へぇ、人間のくせにやるじゃねえかよ。俺様の一撃を受け止めるとはよ」
「くそっ……お前は一体誰だ! 」
「俺か? 俺は……野生の王、サバンナ様だぜ! 」
サバンナはそう言って刀を抑え込んだまま飛び上がると宙返りをしてそのままアラムに踵落としを放つ。サバンナの足は防御していた【桜芽刀】ごとアラムの右肩に振り下ろされて直撃した。3人の耳に鈍い音が響く。
「……っぐぁぁぁぁあああっ! 」
アラムは身体に走る激痛に【桜芽刀】を落としてしゃがみ込む。ジュノがまっすぐアラムの方へと駆け寄り、リオンはそのまま2人を庇うようにサバンナの前にたちはだかる。
「……ああ。わかるぜ、お前もアーサーなんだろ? 」
「そうだよ。俺はリオンだ」
「俺はサバンナだ。それでリオン、お前も俺のことを探しに来たってか? 」
「……その言い方だと、ドウクツもここへ来たんだな。サバンナ、ここの人間達に迷惑をかけるつもりならそれは俺たちが阻止させてもらう。
俺たちはリバイブの人間と手を組みながら使命を果たすつもりでいる。アーサーの使命の為、俺たちと一緒に来い」
サバンナはリオンのその言葉に表情を曇らせる。さっきまでの雰囲気とは違い、明らかな嫌悪感を隠そうともしていない。
「ったく……使命、使命って虫唾が走るぜ。俺はその【使命】とやらに人生を捧げるつもりはない。帰りな、小僧」
「はぁ!? 何言ってんの、お前の持ってるその記憶はアースのものだ。それを護り、アースに還すこと。それが俺たちアーサーに課せられた最優先事項。そんなこともわかんないのかよ」
「いや、だから……知らん、そんなこと」
「知らんって、お前……」
「あのな、俺が生きているのは俺の人生なんだよ。俺の好きに生きて何が悪い?
悪いけどよ、俺ぁ今大事なお客様を待たせてっからよ。また会おうぜ」
そう言って3人をスルーして歩き出そうとした時、サバンナは異変に気づく。自分たちの周りを何かが銃を向け取り囲んでいる。
「ああ? なんだお前ら。俺の邪魔をするってんなら容赦はしねぇ。死にたくなけりゃそこをどきな」
「無駄でありますです。ケービロイド達はオイラの命令がない限り、任務放棄などしないでありますです」
一機のケービロイドがサバンナに向けて発砲する。しかしサバンナは両腕の爪を器用に振り回してその銃弾を弾き受け流す。そしてジュノの方を睨みながら、誰にも聞こえないように呟く。
「なるほどね……俺たち機械がいいようにこき使われてんのは、この惑星も同じってわけだ」
次の瞬間、サバンナは一歩踏み込み目の前にいたケービロイドの顔面を殴り飛ばしていた。しかし爪は収納しており、部品が外れて吹き飛んだだけのようだった。
「な、こんなに簡単にケービロイドを壊すなんて……強すぎるでありますです」
「壊してねぇよ、外しただけだ。後できっちり治してやるこったな」
ケービロイド達は頭が吹き飛んでシステムダウンした同胞の姿を視認すると、途端に目が赤く光り始め警告音が鳴り始める。
「めんどくせぇな。しゃあねぇ、ちょっとだけ相手してやるか。……まとめてかかってこいや」




