10 惑星の守護者の使命
シェンザーは意外にも慣れた手つきで、次々と食卓の上に料理を並べていく。この惑星リバイブの特産物である【ゼル】を使った料理のフルコースは、アラムとヨシノを驚かせた。
よだれを堪えるアラムに、フゥが笑顔で話しかける。
「お兄さんが、ヨシノの選んだパートナーでしょ? 俺はフゥ、よろしくね」
アラムがその見た目から想像していたよりも冷静で、その雰囲気はまるでシェンザーとそっくりだった。
「俺はアラムだ。フゥはヨシノのこと知ってるのか? 」
「うん、地球が滅ぶより昔はよく一緒に過ごしてたよ」
「チキュウ? なんだそれ? 」
「俺たちがいた星のことを、そう呼んでいたんだ。あ、でも博士はアースって呼んでいたかな」
地球、という呼び名は初めて聞いた。アラムはシェンザーと目を見合わせる。シェンザーも初耳だったようで、まるで知らないとでも言うように首を左右に振った。
とりあえず、四人は食事を始める。あまりに美味しい料理の数々にアラム達はしばらく会話もせずに勢いよく食べ始める。
「シェンザー、お前やっぱりすごいな! どれもすげえ美味いぞ、【ゼル】料理の天才だな! 」
「でしょっ、すごいでしょ! 僕とフゥが研究に研究を重ねて見つけたレシピだからねー」
自慢気に胸を張るシェンザーにフゥとヨシノは惜しみない拍手を送る。アラムはスルーして食事に集中していたが、そろそろ気になっていることを聞いてみることにした。
「フゥ、話を戻すけど……さっき言ってた博士って、二人を含めたアーサーを作った人のことなのか? 」
「そうだよ、博士は俺たちアーサーをたった一人で開発したんだ。地球を復活させるために」
「やっぱりアーサーの目的はアースの復活だったのか……じゃあ、なんでお前らはアースを離れてこの星へやってきたんだ? 」
「それは、俺たちが答えを見つけるため。地球を復活させるために選ぶものと捨てるもの、必要なものとなかったことにするもの。僕らはそれぞれの価値観によって未来を選択し、意志をぶつけて一つの答えを見つける。それは地球の復活にとって重要な、再興のための選択」
「……んーと、わかったか? シェンザー」
「……いや、さっぱり」
「ヨシノも、わかーんなぁい」
「ヨシノも一緒に考えなきゃ駄目なんだよ。俺たちアーサーの一員なんだから」
答えを見つける。アースの復活、そしてそのための選択。話はまだ見えないままだが、キーワードは古文書を解読した時より少し増えた。
食事を終えたフゥが伸びをしてからゆっくりと立ち上がる。
「俺、屋上でちょっと風に当たってくるよ。ヨシノもどう? 久々に」
その言葉を聞いたヨシノは、目をキラキラさせて飛び上がった。すぐにテーブルを離れ、フゥに駆け寄って飛びつく。
「ヨシノも行く! 早く、早くいこー! 」
「よしよし、久しぶりだもんね。アラムくんとシェンザーもくる? 」
「ああ、そうだな」
「僕たちもすぐにいくよ。あんまり激しい風は駄目だよ」
「わかってるよ、シェンザー。今日はヨシノが一緒だから、激しくはしないよ」
そう言って二人は部屋を出ていく。アラムとシェンザーは食器の片付けをしてから、屋上へと向かいながら話を始める。
「【風に当たってくる】ってのは、アースじゃ何かの風習なのか? 」
「どうだろう、考えたことなかったな。でも確かにフゥはよく使う言葉だね」
「頻繁なのか? そういえば、この辺りは強風域とかなんとか書いてたな」
「何度か、制御できないくらいの強風が吹いたことがあるから、多分そのせい。居住地区としては危険だから、皆出て行ったんだ。
フゥが【風に当たる】ときって、機嫌とかAIの感情の波長で変わるみたいなんだよね。風に当たることはフゥにとってある種の表現方法というか、ストレス発散というか。
ここから吹く強風なら、ストームイーグル地区に吹く風は丁度気持ちいいくらいになるんだけどね」
「なるほどな。 でも、AIに感情か……ヨシノに出会うまでは、機械に感情なんてないって思ってたんだけどな。どういう仕組みなんだ? あれは」
「んー、まぁその辺はよくわかんないんだけどね、実際。でも、ほんとに考えなきゃいけないのは多分、そこじゃあないと思うんだな」
「なんだよ、どういうことだ? 」
「どんな仕組みで感情が芽生えるか、よりも何故アーサーが感情を持つ必要があったか、ってことだよ。
わざわざデータを残すだけなら、アーサーに搭載する必要なんかない。データだけを安全に保管し未来に遺す方法はあったはずだろ?
どうしてデータを護るのがアーサーだったかってことが、手掛かりに繋がると思うんだ」
「確かにそうだな……うぉっ」
屋上へと登ると、顔に冷たい風が当たる。今日浴びたどの風とも違う、全身の火照りを冷ますような心地よい感触。確かに、これは心地が良い。
屋上の真ん中にはヨシノとフゥが背中合わせに座っており、目を閉じて心地よい風に全身を委ねていた。
シェンザーが肩を叩き、頭上を指さした。ドームの照明が消えて真っ暗になった空には淡く桃色に光る桜の花びらが数え切れないほど集約していく。それはまるで、古文書に挿絵が載っていた桜の木のようだった。そこから風を受けて、一枚一枚が天を踊るように、軽やかに散っては降っていく。その光景はまるで、桃色の星群の中に溶け込んでいるようだ。
「すごいね、アーサー同士の力はこんな風に合わせて使うこともできるのか。 それにしても……こりゃあ綺麗だな」
「そうだな……本当に奇麗だ。もしかしたら、こんな光景がアースには山程あったのかもしれないな」
「アース……見たことのない僕らの故郷か」
それからは、ただの一言も交わすことなくその美しい情景を目に焼き付けていた。ヨシノとフゥも背中合わせでただただ空を見上げている。二人のアーサーが魅せたアースの神秘なる記憶の一端は無垢な少年の心を奪い、その欲望を一層駆り立てるのだった。




