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特別な雑草

作者: 迷困呆途

「俺、ロックスターになるんだ」


仲の良かった友人が、中学の卒業式の後、そう言った。


思わずこぼれた。


「弁えろ、自分を見誤るな」


彼はその後何を言っていたか特に覚えていないし、どんな顔をしていたかも分からない。

ただ、怒っていたのだろう。

それはよく覚えてるんだ。


何故そんなことを言ってしまったのかは分からない。

馬鹿らしいと思ったのだろうし、友を想う気持ちも少なくともあったと信じたい。



この間、中学の同窓会があった。

暇を持て余していたし、特に用事もなかったから行ってきた。


其処に彼は居なかった。

仲の良かった他の級友である所の旧友に訊いてみればどうやらロックスターにはなれなかったらしい。

他に彼が何をしているのか聞いてみたが誰も知らないらしい。


彼と同じ高校に進んだやつによれば、1年次に夢を追うと言って学校をやめたらしい。


それを聞いて胸が痛くなった。

もしもあの時、否定しなければ、と。

彼は自分で自分の能力に踏ん切りをつけてやめたのではないかと。


いや、あり得ないことだろう。

彼はどちらにしろ続けていたのだろう。

そう思えば寧ろ、さっさとあんな頭のいかれた奴と関係を切れて良かったとすら思えた。



皆が皆、自分を特別だと思っていたのだろう。

彼はそれを引きずりすぎた。


僕らは雑草だ。


特別な奴は木だ。

周りの雑草の栄養すらも巻き込んで、自分のためだけに全てを犠牲にできる。

それが出来るのは、豊かな土壌に生まれ、沢山の栄養を貪れる品種の苗木として生まれた者だけだ。

僕ら雑草は上を向いていないと萎れて、枯れてしまうから。

だから常に、あんな大木になれるようにと自分達の上に立つ者を見てしまう。

中には、本当に自分もなれると思ってしまう奴がいる。

それが、彼だったという話だ。



同窓会の帰り道、若い女の断末魔が聞こえた。

僕は賢い雑草だからその場からすぐに逃げた。

走って、走った。



家についてようやく呼吸を整えることができた。

さっきのことが気になって仕方がなかった僕はすぐにテレビをつけた。

丁度そのニュースをやっていたらしく僕は画面に釘付けになった。


通り魔のニュースだった。

若い女性が1人死に、3人の学生が意識不明の重体とニュースは伝えていた。

大事なのはそこではなかった、僕にとっては。


そこには、先のロックスターになると息巻いていた彼が映っていた。

動機は、同窓会に呼ばれなかったからと、供述しているらしい。


彼は何も変わっていなかった。

幹事も呼んでいないのはどうかと思うが、彼はあの頃から何も変わっていなかった。

というよりも、もっと前からずっと止まったままだったのだろう。


と、。

インターホンがなった。

応答するとニュースの取材らしい。

早いなと思いつつ取材を受ける旨を伝える。


さて、どんな風に言ってやろうか。

彼はいつかやると思ってたんですよ、とかかな?


良かったらコメント落としてもらえると幸いです。

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