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9 イポリージ・ダンジョン攻略準備

 転移魔法陣設置の日だ。「姉さん、起きた? 朝食を食べに行こう。」と僕は、横で大きな胸から埋まった顔を持ち上げ、キャロラインに言った。

 身支度を済ませると、宿の1階にある食堂に行く。ここには、コーヒーがある。僕は、子牛のカレーライスとコーヒーを頼んだ。


 この地のカレーライスは、粘りがないコメを使っている。ルーはスープ風だ。そのルーを掛けながらコメを食べるわけだ。このカレーには、粘りのないコメが合うような気がする。コクがあり辛くて美味しい。

『朝のカレーもいけるね。』

 キャロラインもコーヒーを頼むが、メインはトマトとチーズのオムレツに焼きたてパンだ。パンの香ばしい香りが漂う。

 食事を終えると、僕らは宿を出て設置予定場所に向かった。


「アキラ・フォン・ササキです。こちらは助手のキャロラインです。」

「公爵のサムエル・イポリージです。」

「冒険者ギルドのギルドマスターをしているミケーレ・アルマーノです。」

 と型通りのあいさつを交わす。

「では、早速設置しましょう。」と僕は、予定の最後の場所に転移魔法陣を設置する作業に入った。


「イポリージからは、帝都まで馬車で30日もかかります。それが一瞬で移動できるようになると、当領の一層の発展が期待できるのです。ダンジョンの暴走から、50年しか経っていないので、まだまだ発展途上なのです。」と公爵は喜ぶ。

 僕は、何度も同じことをしてきたので、どんどん設置の作業を進め、操縦盤での操作を教えた。速くなったものだ。


 設置を終え操作を教えると、試運転に移る。まず安全確認のため僕とキャロラインで帝都に転移し、そこからテレパフォンで「どうぞお越しください。」とこちらに連絡をする。それから公爵とギルドマスターが一緒に帝都まで転移してくるのだ。

 公爵たちが帝都の魔法陣に転移してきた。「実際に転移してみると、革命的だということが実感できました。」と公爵は感激を隠さない。

 最後は、用意しておいた馬車も転移させてみて、試運転は無事終了した。


 設置場所から出て、いつものように、昼食をご馳走になった。郷土料理の店だ。

 前菜はムール貝の辛味炒めだ。メインには、コメをオリーブオイルで炒めた後、エビ、イカ、タコその他の魚介類と一緒に炊き込み、サフランで色を付けた大皿料理が出された。

『珍しい食べ物だな。パエリアに近いか。』

 魚介の味がコメによく馴染んでいた。また、コメなので案外お腹が満たされる。味、量ともに満足だった。


 デザートに出されたバナナとパイナップルは、この地で栽培されているという。転移魔法陣を使って帝都で販売する計画を立てているとのことだ。珍しいので高価で売れると見込んでいる。また、砂糖の出荷も増えると目算している。こちらは、輸送コストが下がるので、帝都で安く大量に売ろうと鼻息が荒い。

 『バナナは高級品になりそうだな。砂糖も普及するかな。蜂蜜のライバルにはなるけど、料理の幅はぐっと広がるよ。こうやって、いろいろ夢が膨らむのがいいね。』

「帝都の流通ルートが必要であれば、商人をご紹介しますよ。」と僕は公爵に告げておいた。


 僕は、ギルドマスターのミケーレに、第9階層の攻略失敗の話題を向けてみる。

 ミケーレは、「第9階層は、第8階層の延長ではなく、まったく次元の違う難しい階層だったのだ。30人のパーティーは、ベテラン揃いで、魔武器も用意したし、魔術師も参加した。準備は万全のはずだった。よもや失敗するとは考えてもしていなかった。」と話す。

 『そうか・・・』僕らが明日攻略すると言い出すことは、さすがにできなかったよ。


 食事を終え、公爵とギルドマスターは、試運転を続けるために転移魔法陣の設置場所に戻った。僕とキャロラインは、予定通り、アンドリューたちとの待ち合わせ場所の冒険者ギルドに出向むく。

 途中、僕は彼女に、「ところで姉さん、イポリージで最後の転移魔法陣の設置が終わったから、指名依頼は終了したよ。これからどうする?」と尋ねた。


 すると、「何言ってんだよ。一緒に行くさ。当たり前だろう。」と、慌てた様子の彼女から即答された。

 『契約だからね。念のために聞いただけだよ。』

「それは嬉しいな。」と、僕は彼女の手を握りしめ、にこやかに答えておいた。彼女も手をしっかりと握り返したよ。あらたな合意が成立だ。

 そして、『ネックレス、危なかったよ。』と、ホッとしたキャロラインであった。


 今日は、予定が早く進んだので、冒険者ギルドの待合室には、まだアンドリューたちは来ていない。掲示板に貼られたクエストを何気なく眺めると、ご当地特有のクエストが目に入った。

 『ふ~ん。常時募集で、ワニの捕獲か。毒蜘蛛採取なんていうのもあるけど、何に使うんだろう?』

「姉さん、毒蜘蛛って何に使うの?」と聞いてみたら、「揚げ物かな。それとも蒸し焼き?」と答えが返ってきた。

 そんなときに、アンドリューたちの姿が見えた。毒蜘蛛の話題はいったんお預けだ。


 彼らは、僕らが外出着なので、一瞬驚いたようだった。確かに冒険者ギルドでは浮いて見えるよな。早速外に出て、一緒に近くのカフェに入る。いいね、ここもコーヒーがあるよ。早速注文をして話に入った。


「僕らは、朝早く潜って、日帰りで戻りたいので、行けるところまで行きたいと思います。無理はしません。案内の指名依頼で、お1人中金貨1枚(10万円)お出しします。その他に、魔物のドロップは倒した人のもの、共同で倒せば平等に分配、ボス部屋は僕らがやりますから、そこのドロップと宝は僕らのものということでいかがですか。」と僕は条件を提示した。

 これには彼らも同意だ。そこで行き違いが生じないように書面にした。何せ当地は力の社会だからな。逆に書面が必要なのさ。


 そのあとは、第9階層の様子だ。彼らは話し出す。

「まず、テラーバードが数体の集団で現れます。足が速く、凶暴です。」恐鳥のことだ。飛べない巨鳥で、斧のようなくちばしで獲物を仕留めるという。

「次に、犬歯が短剣のような大猫が出ます。」サーベルタイガーか、スミロドンみたいなやつか。

「それから、大トカゲのメガラニアです。毒を持っていて、鋭い歯に掛けられると即死です。」コモドドラゴンを大きくしたような毒トカゲだ。

「ボスは、わかりません。メガラニアを倒せずに撤退しました。」そうか、御楽しみなのだな。


 キャロラインは、傍らで、わくわくしながら聞いていた。だが爬虫類系は、皮膚は硬いし急所は地面に接して隠れているので、結構手ごわいのだ。僕らは、明日朝7時、ダンジョン第9階層の魔法陣の前に集合との約束をして彼らと分かれた。


 冒険者ギルドを出ても、まだ日は高いので、異人街に行ってみることにした。

「鳥居みたいな入口があるんだね。」そこを通って中に入る。背が少し低く、肌の色が褐色の人が多い。だが、僕にとっては安心できる背丈であり肌の色なのだ。


 店先には、鶏、鳩、雉、水鳥などの鳥類、ヘビ、カメ、角ガエル、木登りトカゲ、子ワニなどの爬虫類や両生類、それに狸、サル、フルーツバットなどの哺乳類といった雑多な生き物が狭い籠に入れられ、食用として売られている。大きい毒蜘蛛もいる。タランチュラか。姉さんの言った通り、毒蜘蛛って食用なんだ!


 魚屋には、色や形の様々な魚が豊富に並べられている。大きなナマズ、ウナギ、バラクーダにシーラカンスみたいなのもいる。シーラカンスって脂っぽくて美味しくないって話だけど、炭火で焼けば、脂が落ちて案外美味しいのかもしれないな。


 異国情緒に満ちているねと感心しながら、さらに散策する。雑貨屋の前に、爆竹のようなものが置いてあった。『この世界に火薬があるのか。』と思いながら、店番の老婆に聞いてみる。

「これなあに?」

「爆竹さ。火を付ければ、大きな音を出すのさ。」

 『使えるな。』僕は、その店の在庫の爆竹を全部買うだけでは足りず、他所の店を教えてもらってそこでも文字通り爆買いをした。


 南国亭に戻ると、スイートルームで作業をする。

「何してんだい?」とキャロラインが尋ねる。

「地雷だよ。乗ると大爆発を起こすんだ。トカゲ用だよ。」と僕。

 魔カニの甲羅に爆風を起こす魔法陣を描く。そしてさっき買った爆竹の火薬を抜いて、その上に敷き詰め、粘着液で固定する。これで爆発力は桁違いになったはずだ。この魔法陣の上に魔物が乗れば起動し、木っ端みじん。と思う。

 これを何枚か用意した。魔物の力にもよるだろうが、準備は万端だ。


 それにしても、異人街でヘビの蒸し焼きと毒蜘蛛の唐揚げを食べたおかげで、元気になり過ぎだ。今夜は抱き枕は無理だね。一人でお休み姉さん。


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