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8 イポリージ

 イポリージは、帝国最南端の公領だ。帝都から南に馬車だと1か月もかかる。気候は南国だ。肥沃な穀倉地帯があり、麦、コメ、サトウキビ、オリーブなどが栽培されている。海岸にも面しており、塩作りも盛んだ。

 ダンジョン暴走から50年余、都市機能はいったん失われたが、最近ようやく復活してきている。塩業、農業と異国との自由貿易で経済の回復を図ってきたとのことだ。


 中心地からさらに南方には、ブローヌ河という茶色く濁った大きな川がある。川幅は広く、向こう岸は目では見えない。まるで茶色い海が広がっているようだ。魚は豊富でワニやカワイルカも生息している。毎年のように洪水があり、それが川上から肥沃な土壌を運んで来る。

 その川を挟んで、帝国の支配が及ばない密林地帯があり、少数民族がいる。そして彼らの一部は、イポリージに移り住み小さな異人街を作っていた。


 海を隔てて、大きな島や大陸があり、そこを拠点とした海賊が当領地を略奪に来ることがある。したがって、私兵も多く、防塁や砦も多い。そのためか、力がすべてといった風潮がある。


 僕らは、その日、オルトマイムを朝早く立ち、ファーフナーに跨り昼過ぎにイポリージに到着した。早速街に出て、昼食を取るために食堂を探す。

 エキゾチックな街だ。ワニ料理の看板が出ている。生きたカエル、ナマズ、ヘビなどを樽や籠に入れ、客の注文に応じて調理して食べさせる店がある。海鮮料理店の生け簀には、熱帯魚のような赤や青の魚が泳いでいる。


「何を食べようか、姉さん。」と僕。

 珍しいので、ワニでも食べようかということになり、ワニ料理店に入った。キャロラインに好き嫌いはない。

「どんな料理があるの?」と給仕に尋ねる。

「はい。香辛料の効いたステーキ、爪の付いた子ワニの脚のグリル、尾肉の煮込み、唐揚げ、薄切り肉の野菜巻などが人気です。」と給仕は答える。


 すると、キャロラインは、「美味しそうね。今の全部持ってきて。あと、ワインも。」とニコニコして注文を出した。結構、悪食だ。

 次々と料理が運ばれ、テーブルの上は皿で一杯になる。早速ワニ脚をつかんで、レモンを絞り、豪快にかじってみた。案外あっさりしている。鶏肉に似ているかな。こうして僕らは、昼間からワインを飲みながら、ワニ料理を堪能した。


 ご機嫌になって、宿に向かった。今夜の宿は、南国亭だ。

 街なかには、剣を下げた兵士や冒険者が目に付く。通りを歩いていると、向こうから3人連れの冒険者がやってきた。がたいがいい。皆、2m近い背丈だ。

 僕らは、道を譲ろうとして、通りの反対側に移った。

 すると彼らはそれに気が付いて、ニヤニヤしながら、自分たちも僕らの側に移る。僕らが元に戻ると、彼らも戻る。そうして、遂に対面した。


「よそ者か。きれいな姉ちゃんだな。少し俺たちと付き合わないか。」と男たち。

 『品のない連中だな。』

「君たちは、冒険者?」と僕は念のために聞いてみる。

「そうだ。それがどうした?」と男たち。

「僕たちに手を出したら、ギルドから罰せられるよ。念のための忠告なんだ。」僕は見知らぬ人にも親切なのだ。

 だが、いきなり「なにを生意気な。」と男の手拳が飛んできた。


 『イポリージの気風なのかな。』と僕は「気」を使って、その男を後ろに投げ飛ばした。ドスンと音がする。僕が手を少し動かしただけで、触れた様子もいないのに男が投げ飛ばされたのを見て、ほかの男たちは腰の剣を抜いた。

 『血の気の多い奴らだな。』

 しかし僕は、面倒ごとが嫌いなので、「はい、剣は収納!」と男たちの剣を、たちまちポケットに収納してしまった。


 男たちは、剣が突然無くなり、呆気に取られて我が手を見る。僕は、「安物なので、使い道はないけど、迷惑料としてもらっておくよ。」と告げて、その2人を一緒に投げ飛ばしておいた。しばらく気絶して頭を冷やすがよい。

 そして、「行こう、姉さん。」と僕はキャロラインの手を取って歩き出した。

 キャロラインは、「あたしも相手をしたかったよ。」と言っていたが、酒の入った彼女に相手をさせたら、男たちは間違いなく死んでいたよ。僕は人助けをしたのだ。


「あっ、ここか。」大通りに面した場所に南国亭はあった。

「アキラ・フォン・ササキです。2名。スイートをお願いね。」と僕は受付に告げる。

「お待ちしておりました。ご案内いたします。」と主人。

「お荷物は?」と聞かれたので、「マジックバッグに入れてあるよ。」と答えておいた。

 この宿の部屋も立派なスイートだ。風呂に入ってさっぱりしてから、街に出掛けよう。


「姉さん、今夜は趣向を変えて、冒険者スタイルで居酒屋に行ってみようか。ここの冒険者って面白そうだからね。」

「そうだね。いいね。」

「でも姉さん、絡まれても殺しちゃだめだよ。」 

「わかってるよ。」とククッと笑う。

 こうして、僕らは、夜の街に出掛けた。冒険者のたむろする居酒屋は、宿で聞いてきた。アドベンチャラーだ。いい名前だな。

「ここだ。」僕らはその店に入り、4人掛けのテーブル席に付いた。


「見慣れない顔だね。この地は初めてかい?」と居酒屋の主人があいさつをする。

「そうだよ。ダンジョンに潜るので、情報がほしいと思ってここに来たのさ。」と僕。

「そうか。ここならいろんな話が聞けるぜ。パーティーの勧誘もある。2人なら、どこかのパーティーに入るんだろ?」と主人。

「そんなところだ。とりあえず、ワインとラムチョップをもらえる? 大盛で。」と僕は食べ物を注文した。


 次第に店は賑わってきた。殆どの客は冒険者のようだ。あの階層、この階層といった話題が飛び交っている。天塩の効いたラムチョップをかじり、ワインを飲みながら聞き耳を立てていると、「第9階層の攻略が失敗したんだってな。随分と死人が出たそうじゃないか。」という話が聞こえてきた。


「あそこは、最強のトカゲがいるって話だ。30人ぽっちじゃ所詮無理なんだよ。無謀だったな。」と笑い声。

 すると、近くの席に座っていた2人の男が立ち上がり、笑っている男たちに近付き、「俺たちもいたんだぜ。無謀で悪かったな。」と、剣を含んだ声で話しかけた。

 一触即発だ。周りは殺気を感じて静かになった。


 丁度その時、「ねえ、あなた達。9階の話を聞きたいんだけど、こっちに来てくれる。」とキャロラインが、にこやかに2人の男の服を引っ張った。男たちが振り向くと、そこにいるのは美しい女冒険者だ。男たちからは急速に毒気が抜けた。そして、大人しくキャロラインに連れられて僕のいる席までやってきた。


 僕は、「どうぞ、座ってください。」とあいさつをする。

 そして、「僕は、こういう者です。」とSランクの表示がある冒険者登録証を彼らに示した。

 それを見て、「アキラ・フォン・ササキって、あの伝説の少年冒険者か。」と男たち。

 『伝説じゃなくて現役だよ。それに少年は余計だよ。』


 僕は、「転移魔法陣を設置しにここに来たんだ。話は聞いているでしょ。それが明日。そして仕事が終わって明後日は当地のダンジョンに潜るんだけど、案内してくれる人を探していたんだ。」と告げる。

 そして、「明後日、9階に連れて行ってもらえない?」と続ける。

「何を言っているんだ。9階層だぞ。」と男たち。

「大丈夫だよ。これまでも初攻略なんて珍しくないよ。帝都の2つを除いて、ここを攻略すれば、すべてのダンジョンの歴代最高位階層の攻略達成なんだ。」と僕。


「それで、案内だけにするかい。一緒に来るかい。」と僕は2者選択で尋ねた。こう聞けば、どちらかの返事になる確率が高くなるんだよね。

 すると彼らは、「一緒に行きたい。」と答えた。やっぱり冒険者だな。


 その後、彼らはアンドリューとローランドと名乗り、あらためて自己紹介をした。2人とも10年余のベテランで、Bランクだという。明日午後、冒険者ギルドで打ち合わせをすることにして、その日は散会した。

 『姉さん、やったね。これでトカゲを倒せるよ。』


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