7 オルトマイム・ダンジョン
「アキラ・フォン・ササキです。こちらは、助手のキャロラインです。」
「サイモン・オルトマイム侯爵です。オルトマイム・ダンジョンがある地域を所領しています。公爵の弟です。」
「冒険者ギルドのギルドマスターをしているマリオーロ・カバレーリです。」
と、僕らはいつものようにあいさつを交わした。
そしてこれまで通り、午前中に転移魔法陣を設置し、無事試運転を終えた。キャロラインは、助手にしては、上品な外出着にパープルサファイアの高価そうなネックレスをしている。そのうえ、豊かな紫の髪をなびかせ、形の良い目鼻立ちに、輝くような肌をしているので、きっと名家の娘の手伝いと思われただろう。僕も「キャロライン姉さん」と呼ぶのだ。口を開かなければお里は知れない。
設置を終え、昼食をご馳走になる。バビローヌという多国籍料理の店であった。
「この地のコメは、粘りがあるのです。」と、伯爵は炊いたコメを勧める。パンの代わりだ。
『炊いたコメか。懐かしいな。』
アラで出汁を取った魚と野菜のスープ、アワビのワイン蒸し、香草を載せた蒸し魚とロブスターのチーズ焼きが供された。
「美味しいですね。」魚をおかずにコメを食べながら僕は言う。何だか元の世界で食べていた食事に雰囲気が似ている。料理自体はシンプルだが素材の味を引き立てた料理なのだ。キャロラインは、黙って食べていたが、肉食系なのできっと物足りなかっただろう。昨夜だって、結局は、シーラと一緒に分厚いステーキで締めくくっていたな。肉は今夜ご馳走してあげよう。
食事のお礼を言い、僕とキャロライン、そして行き先が同じギルドマスターのマリオーロは、伯爵と分かれて冒険者ギルドに向かった。
「ほう、この後、当ダンジョンの第7階層に行かれるのですか。攻略が成功したら、キャロラインさんは、ランクアップさせていただくので、ギルドにお立ち寄りください。」とマリオーロ。食事の際、キャロラインの背景は話題に上っている。
ギルドの建物に入った後、お礼を言って、僕らはマリオーロと分かれて待合室に向かった。
『ここだ。』待合室の中では、シーラが僕らを待っていた。
キャロラインは、更衣室で冒険者スタイルに衣装を替える。さあ出掛けよう!
僕らは、魔法陣に乗り、オルトマイム・ダンジョンの第7階層に到着した。そしてシーラは「では、ここで失礼します。」とすぐに戻っていった。蜘蛛やサソリが相当嫌だったようだ。
僕らはその場で直ちに武装をし、僕は使役獣たちを召喚する。キャロラインは、早速、魔ティアラを頭に被り魔剣を手にする。
「用意はいいね。」と、僕はキャロラインを後ろに乗せチェルニーに跨って出発した。
「海蜘蛛、海サソリにウミヘビとボスは大ダコのロゴ・トゥム・ヘレか。」昨夜シーラから聞いた情報だ。
『海蜘蛛は、ホヴァンスキ・ダンジョンにもいたな。燃やせばいいんだ。シーラだったら焼けたんじゃないのかな。』
しばらく進むと、海蜘蛛が数体、もぞもぞと壁や地面を這っていた。
『確かに、よく見ると気持ち悪いね。考えない方がいいよ。』
僕は、チェルニーの上で火炎球を作り、海蜘蛛に投げつけた。ボーン、ボーンと蜘蛛を包み込んで勢いよく燃える。
ここの海蜘蛛も糸の塊をドロップした。すべて回収だ。
この先もチェルニーから降りることもなく、海蜘蛛を倒しながら進んだ。
すると前方に、数体の海サソリが見えた。
『甲羅が硬いんだったな。』
「キャロライン姉さん、叩き潰そう。」僕らはチェルニーを降りた。
早速、キャロラインがスキュラの魔剣を手に海サソリたちに突進していく。そして、エイ、ヤー、オーと次々に魔剣で切り付ける。すると剣は、虹色の光を放ち、硬いはずの甲羅がいとも容易に切断された。
『姉さんの独り勝ちだよ。』
「すごいぞ、この虹の剣。レインブロウと名付けよう。」キャロラインは、剣を天に向けて声高々に宣言した。
ドロップアイテムは、硬い甲羅とサソリのハサミであった。
その後も海サソリを倒しながら、さらに進む。そろそろ今度は、ウミヘビが出るはずだ。
『あっ、いるいる。』前方に何体ものウミヘビが、地や壁を這いながら僕らを待ち構えていた。
「たくさんいるから、一緒に退治しよう。」と、僕らは神獣を降りた。
キャロラインは、降りる早々、風のステップで空を自在に移動しながら、レインブロウで上から横からウミヘビたちをエイ、ヤー、オーと叩き切った。
その後も道中ウミヘビの類には何度か遭遇したが、この程度のヘビであれば楽勝だ。その度にキャロラインは、「無敵のレインブロウ!」と高らかに勝利の声を上げた。
ウミヘビのドロップアイテムは、鎧や馬車の車輪や外装に使えそうな丈夫な蛇皮であった。蛇皮は、種類が増えたな。
気味の悪い魔物を倒しながら、ようやくボス部屋に着いた。僕らは、ビスケットで体力を回復し部屋に入る。
『大きいね。』巨大なボスダコのロゴ・トゥム・ヘレだ。8本の脚を巧みに操り、僕らを巻き取ろうとする。
エイヤーとキャロラインが脚を切り落としても、また生えてくる。僕が顔に向けてケンタウロスの矢を射ても、その脚で軽く叩き落とす。さすがにボスだ。
『何か来るな!』
ロゴ・トゥム・ヘレは、僕ら目掛けて大量の毒墨を吐こうとしていたのだ。
その時、レインブロウの虹の輝きが増した。魔剣も何かを察知したということか。頭上のティアラも輝いている。セットだったんだ!
『剣が思い切り振れって言ってる。』とキャロラインは、躊躇いなくその場からボス目掛けて飛び上がり、力の限り剣を振るった。
「イエーーーーー!」
ロゴ・トゥム・ヘレの動きが止まる。そして、レインブロウから放たれた虹色の光に包まれながら、「グエーーーー」と断末魔の叫びが聞こえた。
『スキュラの方が格上だったのだな。』
こうしてキャロラインが、1人でボスを倒した。
そこにドロップしたのは、吸盤の付いたムチだった。「獲物を巻き取れるんだね。」とそれを振ってみてキャロラインは言う。怪力のキャロラインなら使いこなせそうなので丁度よかった。
さて、宝は何かなと宝箱を開ける。そこにあったのは、黄金の剣であった。「これは記念にとっておこ。」とキャロラインがつぶやいた。
こうして、オルトマイム・ダンジョン第7階層の攻略を終え、魔法陣で戻って冒険者ギルドに立ち寄った。
「アキラ・フォン・ササキですが、ギルドマスターのマリオーロさんにお会いできますか。」と僕は受付嬢に申し入れる。
「はい、確認して参りますので、少々お待ちください。」と受付嬢。そしてすぐに戻って来て、僕らは、奥の部屋に案内された。
マリオーロはすぐにやってきた。「どうでしたかな。」と。
「7階層は攻略しました。キャロライン姉さんの1人舞台でしたね。姉さん、ボスのドロップアイテムを出してみて。」と僕が言うと、キャロラインは、マジックバッグから吸盤ムチを出して見せた。
「おお、これはすごい魔道具ですな。」とマリオーロ。そして、ボスを倒したときの状況を詳しく聴取した後、「それでは、キャロライン殿には、Bランク昇格を認めましょう。」と職員を呼んで手続きをさせた。
「7階層のボスを倒す実力があれば、Aランク相当ですが、ここでは順番に昇格することになっていますので、次の機会を楽しみにしていてください。」とマスター。
だがキャロラインは、「こんなにすぐにBに昇格だ!」と大喜びであった。
その日は、エクセレンス亭に戻って、宿の食堂で、甘酸っぱいフルーツソースの掛かったTボーンステーキをたらふく食べた。そして風呂で流しっこをしてゆっくり休んだよ。