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6 オルトマイム

 翌日、朝起きると、キャロラインは、僕に言われて自分の姿を鏡に映す。そこには、輝きが全身を纏った美しい女の姿があった。身体のあちらこちらを映してみる。そして、「きれい・・・本当に自分なの?」思わずその口から声が漏れた。

「姉さん、食事を終えたら街に出て、外出着を買おうよ。魔法陣の設置のときに、着ていくといいよ。」


 朝食を終え、キャロラインのために外出着を含めて何着かを買い求め、そしていよいよオルトマイムに向かうことになった。

「姉さん、まず目立たないように郊外に出るよ。そこから空を飛んでオルトマイムまで一つ飛びだ。」

「飛ぶ?」とキャロライン。「そうだよ、竜に乗ってね。」と僕。

 彼女は、また訳の分からないことをという顔をしていたが、羽毛マントを着けたアキラに手を取られ飛ぶようにして、人里離れたところまで連れてこられた。


 僕は、「この辺でいいかな。」と、ファーフナーを召喚した。そして、キャロラインの唖然とした顔を無視し、「空を飛ぶから、寒くないようにこれを着けて。」と、ダンジョンの魔獣の毛皮で作ったコートを取り出して彼女に着させた。

 そしてファーフナーに鞍を置き、キャロラインの手を引いて後ろに乗せ、「しっかり、つかまっていてね。」と言って、空に舞い上がった。


「わー、怖いよ。」と最初は言っていたキャロラインであったが、風属性があるせいか、風を切って飛ぶことには、すぐに慣れた。確かに空中は、振動は少ないよな。風の抵抗は、僕が防御している。

 ファーフナーは、薄い毛で覆われている。乗っていて、暖かさまで感じはしないが、冷たいわけでもない。こうして跨って飛んでいると、その鼓動は伝わり、生きていることの一体感さえ感じるのだ。


 相当の速度は出ているはずだが、目的地までは4~5時間は掛かると見ている。これだけの時間を飛ぶその間は、結構暇なのだ。すると背後で、キャロラインが自分のことを話し始めた。最初に出会って、まだ3日目だ。お互いのことを殆ど何も知らない。


「あたしの出身の村は、アブラスコとオルトマイムの真中当たりにあるんだ。祖父母は、オルトマイムに住んでいたんだけど、80年前にダンジョン暴走があって逃げて来て、そこに移り住んだんだって。父は大工をしていてね、あたしも材木を運ぶのを手伝ったの。村一番の力持ちだったしね。」とキャロライン。


 『やっぱり村一番の力持ちだったか。そうだと思っていたよ。』

「祖母は、ダンジョン暴走で命からがら逃げてきた話をよくしていたのさ。それを聞いて、自分は、大きくなったらダンジョンの魔物を退治しようと思ったんだ。風魔法は、祖父の指導なんだ。戦わないで逃げたことを残念がって、わたしに期待して訓練してくれたんだよ。」


「それで、冒険者になることにして、成人してすぐにアブラスコに来たのさ。それから3年が経つね。ようやく実力が認められて、先日、7階層の攻略パーティーに参加させてもらったってわけさ。おかげで、Cランクをもらったんだ。」

「でも、昨日は、たった2人で攻略だろ。貸してもらった武器で、この間よりもちゃんと戦えたし、獲物もたくさんだ。連れて行ってもらって感謝しているよ。」とキャロライン。


 『ということは、18歳か。姉さんたちの間では、一番若いね。小姉さんだな。』と思いながら、僕は、キャロラインの身の上話を聞いていた。


「オルトマイムってどんなところか知ってる?」キャロラインが身の上話を語り尽くしたところで、僕は聞いた。

「海があるところだよ。50年前にイポリージのダンジョンが暴走しただろ。祖父母のときと同じように、そこからたくさんの移民が押し寄せてきて、一度は荒廃した街が復興したのさ。」

「塩田があるので、塩が一番の産業だけど、オリーブ、レモンやトマトなんかも作っている。街中の建物は、コンクリートで頑丈に出来ているよ。イポリージから鍛冶師や陶芸職人もやってきて、いまではそんなのも盛んだよ。」とキャロラインが答える。


「コンクリート?」と僕。

「そうだよ。火を噴く山があって、そこの灰を水で溶くと硬くなるのさ。うちは大工だったから、そういうことも知っているよ。」とキャロライン。

『そういえば、紀元2世紀のローマのパルテノンは、コンクリート製だったな。それにしても、火山があるんだ。』


「でも、アキラは偉いね。ダンジョンの暴走のときに、帝都から兵士を送り込める転移魔法陣を作ってくれるんだから。町中で話題になってたんだよ。どんな人なんだろうねって。Sランクの冒険者だって言うしさ。」

「そんな人だって知らないで、あたし、チンピラから助けようとしたんだね。」と、キャロラインはクックッと笑いながら話す。彼女が僕の腰に回した両手に、ギュッと力が籠った。

 『アキラ、面白い子だね。ずっと付いて行ってもいいかな。』という、その時のキャロラインの心の声は、アキラには聞こえようもなかった。


 細く噴煙を上げている火山が見えてきた。あれだな。僕らは、その麓に降り立った。

「ご苦労さん。」と僕はファーフナーに子牛を与えた。そして食べ終わるのを待ってポケットに戻し、羽毛マントを着け、キャロラインの手を取って街まで飛ぶように駆けた。

 時はもう夕刻だ。宿に行こう。


 ここの宿は、「エクセレンス亭」という高級宿だ。僕らは、スイートにチェックインし、食事のために街に出てみた。

「祖父母がいたところなんだな。」と彼女はつぶやく。この地に来たのは初めてなのだそうだ。


 表通りの一軒の食堂に入る。「ラメール」という海鮮料理店だ。表の生け簀に魚が泳いでいる。ロブスターもその底でしきりに動いている。期待を抱かせるね。

「何が名物」と聞くと、ロブスターと鮮魚のグリルだという。ムール貝もある。これは白ワイン蒸しだ。いろいろ持ってきてもうらうことにした。

「お待ち同様」と、給仕が運んできたのは、30cmもありそうな大きなロブスターだった。縦に2つに割ってあり、その身にレモン汁をかけて食べる。この地は、レモンも成るそうだ。


 『シンプルな料理も美味しいね。』エビの甘みが凝縮している。贅沢だ。

 僕らが大きなエビと格闘しながら食べているときに、ふと気が付くとテーブル脇に1人の娘が立っていた。冒険者の格好をした大柄の娘だ。

「あら、シーラじゃない。」とキャロラインがその娘を見上げて言う。

 続けて「そこに座りなさいよ。」と言うと、シーラという娘は空いている椅子に腰かけた。


 聞けば、シーラは、アブラスコを拠点としていたが、昨年、警護のクエストでこの地に来てから、ここでも活動しているという。今日は、報酬が入ったので美味しいものを食べようと、たまたまこの店に入って、キャロラインを見かけたそうだ。

「よかったら、一緒に食べよう。今日は、僕のおごりだから、好きな物を食べて。」と僕は、シーラに言った。


 彼女は火魔法を使える腕の立つ冒険者らしい。キャロラインの先輩だ。

「シーラは、オルトマイム・ダンジョンの何階層まで潜ったの?」と僕は聞く。

「大勢でパーティーを組んで7階層に行ったのよ。でもね、海蜘蛛だの海サソリだので、気味が悪くて途中で帰らせてもらったわ。」とシーラ。

 『腕の立つ冒険者でも苦手な魔物がいるのか。』と少し不思議に思う。だが、僕はその階層まで案内を頼みたいのだ。


 僕は、頃合いを見て、「明日の午後、7階まで連れて行ってもらえない? すぐに戻ってかまわないから。指名依頼ということで、小金貨1枚でお願いできないかな?」と思い切って案内をお願いした。

 シーラは、最初はぎょっとした顔をしたが、「すぐ戻っていいのね?」と、連れて行くだけということで交渉は成立した。報酬は先払いをしておいた。


 こうして僕とキャロラインは、明日、当地のダンジョン第7階層に潜りことになった。彼女は、どんな魔物でも平気なようだ。好き嫌いがないのって助かるね。


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