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4 アブラスコ・ダンジョン

 キャロラインは、冒険者スタイルに着替えて、宿に戻ってきた。

「丁度いい時間だね。じゃあ行こうか。」と僕は、彼女を伴って設置予定場所に向かう。


 設置予定場所では、グリオロ・アブラスコ公爵と冒険者ギルドマスターのロドリーゴ・トコモラが迎えに出た。

「アキラ・フォン・ササキです。こちらは、助手のキャロラインです。よろしくお願いいたします。」とあいさつを交わす。

  「これはこれは、グリオロ・アブラスコです。いよいよ当地でも帝都まで一瞬で行ける転移魔法陣が開設されるのですな。」

「ササキ子爵様、ようこそ当地へ。冒険者ギルドのギルドマスターを務めているロドリーゴ・トコモラです。冒険者のSランクとしてのご活躍も耳にしております。」


 傍らにいたキャロラインは、それを聞いて顔から血の気が引いた。

『何、Sランク? おまけに子爵?』

 そんなキャロラインの内心にかまわず、ロドリーゴは、「キャロラインが助手をしているのか。」と気軽に彼女に話しかけた。「は、は、はい!」と、緊張したキャロラインのその返事は、聞いていて思わず吹き出しそうになるほどだった。


「早速始めましょうか。」と僕にとっては慣れた作業を滞りなく進める。初めて見る人たちは、僕が大きな転移魔法陣のベースをポケットから取り出すところから驚きの連続だったが。

「はい、これ持っていて。」と、助手がいるとやりやすい。作業はスムーズに進む。そして他領の転移魔法陣の設置のときとおなじように、テレパフォンを使いながら試運転も無事終了し、僕らは、公爵に連れられて昼食に出掛けた。


 立派な食事処である。看板には、「グートシュバイン」とある。

 『やっぱり豚料理が名物なのだな。』と思う。

 僕らは個室に通され、まずは食前酒で乾杯した。

「当地から帝都まで、馬車で2週間もかかるのですよ。往復が大変ですし、当地は海が遠いので、流通も大変でした。今日の日を、心待ちにしておりました。正式な開通式が楽しみですな。」とアブラスコ公爵。


 開通式は、正式に皇帝が立ち会って、一斉に行われる。イポリージの設置が終了してからで、3月末を予定している。それまでは、試運転として、領主の判断で、貴族が帝都との行き来に利用したり、試験的に商用に利用したりすることができるのだ。


 食卓には、最初にゼリー状の料理が出てきた。

「これは、豚の骨を煮込み、スープの表面に浮かんだ油と灰汁を丹念に除き、きれいになった上澄みの部分を固まらせた料理です。」と給仕が説明をする。ゼラチン質だ。プリンプリンして食感がよい。

 次に出されたのは、豚の脂身を豆と一緒にコトコト煮た料理だった。深皿で供される。豆に味が染みて美味しい。

 メインは、豚の骨付き肉のグリルにオレンジソースが掛かっている。豚にオレンジも結構合うな。

 昨夜の子豚の丸焼きもシンプルで美味しかったが、豚も料理方法に応じて味が楽しめるね。

 食事のお礼を述べて、僕とキャロラインは、その場を辞した。さあ、ダンジョンだ!


「キャロライン姉さん、次の場所はダンジョンの7階だよ。指名依頼なんだからね。」と僕は、「準備もなくて行くところじゃない。」とかぐずぐず言っている彼女を引きずるようにして、ダンジョンに向かった。


 ともかく、魔法陣に乗り込み、アブラスコ・ダンジョンの第7階層に到着した。

「これを身に着けて。」と僕はキャロラインに、ミスリルの剣、盾、兜と防御のネックレス、それにガーゴイルの魔玉を渡す。ネックレスは、パープルのサファイアがあったのでそれを嵌め、昨夜のうちに製作済みだ。そして、念のため、ダンジョントカゲの皮鎧ベストも着けてもらう。それから最後に念話の腕輪だ。


 キャロラインは、まずネックレスに目が行く。「きれい。わたしの瞳の色。」そして、装備を身に着けると、「何だ、これは?」と、何やら聞こえて来るわ、全方位が見えるようになるわ、僕の声が頭の中に聞こえてくるわで、しばらくの間、混乱していた。


「準備はいいかい? それじゃ、神獣たちを召喚するからね。驚かないで。」とチェルニーたちを呼び出した。キャロラインは、いきなり大きな神獣たちが現れたので、思わず、「キャッ」と叫んだ。

 仕方ない。今回は、予習ができなかったからな。

 僕は、チェルニーに跨ると、「姉さん、乗って!」と手を取って後ろに乗せた。


 ここは、岩山だ。岩崖の間を駆け抜ける。

「わー、落ちる~。」「わー、ぶつかる~」後ろでキャロラインが騒ぐ。

「しっかり僕につかまっていて。ボスを倒したいから、急ぐよ。」

 しかし、このあとしばらく、彼女の口からは叫び声が止まらなかった。


「ホルンゴートがいるぞ。5体だ。」兜が告げる。

 『キャロライン姉さん、駆け抜けながら倒すよ。』と僕は念話をしながら、斧を両手に持って、左右から攻撃してくるゴートたちの首を、シュパ、シュパと刎ねていった。その辺に大きく捩じれた角が落ちる。そして使役獣のヒヒたちがそれらを回収する。

 しばらく行くと、また同じようなのが5体いた。僕は、チェルニーを止め、「姉さん、武器を試してみようよ。」と、キャロラインを神獣から降ろした。


「盾は、レフレクションが付いているから、ぶつかられたら踏ん張ってね。魔物は、勝手に後ろに跳ね返るから、その隙に剣で切ったり突いたりするといいよ。」と使い方を教えた。

 来た来た、メエーメエーとけたたましい。ホルンゴートのお出ましだ。

「やっぱり、地に足が付いてないと本気が出ないね。」とキャロライン。

 そして「見てて、わたしの実力!」と言うと、剣を片手に魔物に向かって行った。


 キャロラインは、風の魔法を使える。子どもの頃から訓練を積んできた。剣から鋭利な風を起こして真空切りをすることができる。また、空中に風のステップを作り、それを踏み台にして駆け回ることもできる。こうすると、敵の頭上から、または上空から背後に回って攻撃することが可能だ。

 しかし、敵の攻撃の中を、瞬間的かつ適所にステップを作ることは容易ではない。このステップは、風だけあって、すぐに消えるので、一瞬でも躊躇をすれば足場がなくなる。そのことは、戦闘中は致命傷となりかねない。

 彼女は、訓練の末、この術を一応は自分のものとしている。上位階層のパーティーに呼ばれるのは、この能力のおかげなのだ。


「風刃!」キャロラインは、風のステップで魔物の上空に駆けあがり、一声叫んで剣を振り下ろす。すると、剣の先から一筋の旋風が起こり、ホルンゴートの硬い頭が真っ二つに割れた。

「すごいね、この剣。普通の剣だと、ここまでの風は吹かないよ。せいぜい獲物が吹き飛ぶくらいだ。」と彼女は、次々に魔物を屠った。

 『こんな戦い方は、初めて見た。』

 僕は、キャロラインの戦いを感心して眺めていた。


「キャロライン姉さん、すごく強いね。」

「そりゃそうだよ。ここを攻略したことがあるんだからさ。」

 続けて、「でも、この剣は、威力が違うね。手放したくないよ。」と言う。

「僕が渡したものは、一緒に行動している間は、ずっと使っていていいよ。マジックバッグも借りていていいから、自分で倒した獲物のドロップは自分の物だから入れておけば。」と僕は答えた。


『いいね、この姉さん。マリエラ、シルビアとキャロラインの姉さんたちで、金銀紫の三美神になるよ。並んだところを見・た・い!』僕は心でそう念じた。

 キャロラインといえば、『剣もそうだけど、素敵なネックレス、返したくないなあ。ずっと一緒にいようかな・・・。』などと考えているのだった。


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