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14 訓練

 その日の最初の納入分の武具の検証には、イオラント皇子も立ち会うことになった。トーリード・ダンジョンの12階層に向かう魔法陣の前に集合だ。この魔法陣は、これだけの人数が一遍に乗っても余裕なのだ。それも何百年も故障さえしない優れものだ。


 皇子、マリエラと10人の護衛の騎士、それと20人の訓練の対象となる騎士、兵士だ。皇子や護衛の騎士とは打ち合わせをしているが、訓練生には、「ダンジョンで魔物を倒す訓練」としか伝えていない。何が起こっても対応できるようになるため、予断は排除したのだ。厳しさこそ、本当の愛情なのだよ。

 さあ、出発だ。


 魔法陣で12階層に着いた。

 僕は今日のトレーナーだ。早速、「今日は、20人の選ばれた皆さんが、ダンジョンを攻略するという設定です。最初は、ご自分の武器を使ってみてください。」と指示する。

 今日は、神獣たちは出さない。自分たちがどれだけ強いのかを認識するための実施訓練なのだ。


 初回でもあり、特に精鋭が集まっているはずである。ただし、怪我はいけないので、防御の腕輪は嵌めてもらった。皇子と護衛たちは、訓練ではないので、先日の武具を装着している。

「早速、気を付けながら、進みましょう。」

 警戒しながらしばらく歩く。すると、50mほど行ったところで、道の左右に角を生やした大目玉が姿を見せた。


『3体か。どう戦うかな。お手並み拝見。』

 訓練生たちは、盾で構えながら、剣を手に、3班に分かれて、近づいていく。

『連携はとれているね。隊列をとるのは、素早かったよ。』

 大目玉は、棍棒を振り回し、訓練生に襲い掛かった。


 バシ、バシ、バシと容赦がない。訓練生は、次々に飛ばされる。だが、地面や壁にぶつかっても痛みや怪我はない。不思議そうな顔をして、一瞬、自分の身体に目を遣る。そして、また、大目玉に向かって行く。なかなか剣が届かない。切り付ける者も中にはいるが、大目玉に傷は付かない。訓練生は、息が上がってくる。


 イオラントは、『精鋭のはずなのに。武器でこれだけ違うのか。』と、武器の性能は前回見てはいたが、あらためて比較して歴然とした差を感じた。

 僕は、『そろそろかな。』と思い、「皆さん、撤退してください。イオラント殿下は一番右の1体、護衛の方々は、残りの2体を相手にしてください。訓練生はよく見ていてくださいね。」と叫んだ。


 イオラントと護衛の騎士たちは、直ちに応じた。

 皇子は、果敢に飛び出し、大目玉の棍棒を盾で受けて弾き、隙ができたところを、喉笛を切り裂いた。一瞬のことだった。騎士たちも簡単に魔物を倒す。

 訓練生は、その戦いに言葉もなかった。そして、皇子の勇姿は、皆の脳裏に焼き付いた。


「訓練生の皆さん、殿下たちは、前回この階層で戦いましたので、慣れておいでです。それから、お持ちの武器が天と地ほどの差があります。今度は、これを装備して戦ってみてください。」

 僕は、バッグから武具セットを出して、皆に装着させた。古いものは、いったんバッグに預かる。そして、新装備の機能を説明した。

「今度は、これで戦ってみてください。あっ、それからこのビスケットを食べて。体力が回復するから。」と一人一人にビスケットを渡した。

「おー、疲れが取れた。」という声が聞こえた。


「はーい、走って。馬より早く、疲れ知らずで走れますよ。」と僕が言うと、皆、走る。そして、驚く。

「魔物に注意して! 今度出たら、倒してみて!」と叫ぶ。

 僕は、魔羽毛マントで跳躍しながら、あちらこちら移動して皆の様子を見ながら走る。マリエラは、皇子の手をとって、やはり魔羽毛マントで跳躍する。手を取れば、一緒に軽々と跳躍できるのだ。皇子は、夢見心地だ。『やっぱり、ダンジョンはいいな。』と。


 こうして、魔物に出会う都度、今度は訓練生が、難なくこれを倒していく。大目玉であろうと、ミノタウロスであろうと、この20人の訓練生の前には、案山子同然だ。次々に落ちる角や棍棒や斧や魔石のドロップアイテムは、騎士たちが、皇子のマジックバッグで回収していった。

『やっぱり、20人がこの装備を付けると、すごいことになるね。ダンジョンとしては、商売にならないよ。アイテムを持っていかれるだけだ。』


 僕は、ここである装置の試験をしなければならない。バリアー発生器の効果を調べるのだ。全員を一時止めて、「皆さん、ここでいったん留まってください。」と指示し、長さ1m、一辺10cmくらいの3角柱を出す。魔物の角から掘り出したベースに広範囲防御の魔法陣を念じ込んだものだ。魔石を挿入するソケットが3個付いている。想定では、最大で、縦と幅が各30mくらいの3層のバリアーが発生する。これが、ミノタウロスの斧に効くかどうかの試験なのだ。


 僕は、これを地面に置き、魔石を3個装着し、それらに魔力を流した。すると、ボワっと、薄青い光が、カーテンのように前方に広がった。

「皆さん、下がってください。」

『来た、来た。』そこに、ミノタウロスが3体、斧を振り上げながら、のっそりとやってきた。

 ガシン。ミノは、光のカーテンにぶつかる。すると、斧を振り回し、ガシッ、ガシッっとそれを破壊しようと、何度も何度も力任せに撃ちつけた。

 3体の魔物が光のカーテンを破壊しようと、斧を振り回す姿は、かなりの迫力だ。

 見る間に魔石が縮んでいく。遂に、ガシャンと1枚が破壊され、続けて2枚、3枚と、カーテンがすべて破壊された。そして、ミノたちは、のっし、のっしと、こちらに向かってきた。


『30分くらいは持つか。魔石を補充すればもっと持ちそうだな。』と考える。

 そして、『姉さん、ミノ倒しちゃって。』とマリエラに念話すると、『よっしゃ。まかせとけ。』との返事。

 彼女は、すぐにミノに駆け寄り、雷剣を2度、3度振るい、3体のミノの腹を真一文字に切り裂いた。

 『すごい・・・。これが、噂に聞く、イオランタ殿下の最強の護衛か。』見る者は、誰も声が出なかった。


 実験が終わったので、そのまま進行し、そしてボス部屋の前に到達した。

 一人一人に、魔物を倒させてみようとも思っていたのだが、途中、バリアーの実験で時間が掛かってしまった。

 まあ、いいや。ボス部屋で少人数で組ませて従者に当ててみよう。

 ビスケットとお茶で一服して、皆で、ボス部屋に入った。


「はい、4人ずつ、1体の従者ミノタウロスを倒してください!」と僕は叫ぶ。

 訓練生は、言われた通り、従者に向かって行く。これまで戦ったミノより、1回り大きい。3mはあるかもしれない。斧を振る勢いも桁違いだ。ビュン、ビュンと振っては、ガシン、ガシンと訓練生の盾に撃ちつける。


 2人は正面、もう2人は背後に回り、魔物を翻弄する。前に出て、盾で防ぎながら剣で切り付け、そして戻る。ミノは、盾で跳ね返されるが、さすがに従者は隙が出来にくい。4人が順番に、この戦術で少しずつミノの体を切り刻んでいく。

 見事な連携だ。こうして、従者ミノは、全て地に倒れた。


 今回は、これだけの人数なので、ボスの相手もさせてみよう。物は試しだ。

「20人全員で、ボスに掛かってみて!」僕は叫んだ。

 5mもありそうなボスだ。両手で斧を振り回し、旋風を起こす。訓練生は、これを取り囲むが、なかなか手を出せない。1人が出た。しかしすぐに、打ち据えられ、派手に吹っ飛ぶ。

「3班に分けて同時に掛かるぞ。順番に7人、7人、6人だ。掛かれー!」とリーダーが叫ぶ。

「おうっ。」と最初の7人が、前、横、後ろと分かれて同時に掛かる。


 しかし、ボスミノは、両手の斧を、速く、絶え間なく、勢いよく振り回す。皆、それをかわすだけで精一杯だ。

「交代!」次の組が交代する。何度かこれを繰り返すが、有効打が打ち出せない。そのうち、1人、2人と斧で飛ばされていく。ドスーンと勢いよく壁にぶつかる。しかし、何事もなかったかのように、すぐに起き上がる。そしてまた、攻撃に加わる。

『ボス相手でも防御は有効だな。』僕は、武具の性能も確認しておかなければならないのだ。


『もう30分だな。決着が付かないよ。』

 僕は、「イオラント殿下、ボスを倒してご覧になられませんか。鳩尾に剣を突き立てるだけで結構です。」と皇子に尋ねる。

 皇子は、「よし、わかった。」と言って準備に入った。みなまで聞かない。躊躇することもない。アキラとマリエラに対する信頼は、今では絶大だ。


 そこで僕が、「皆さん、そろそろ交代しましょう。全員下がってください!」と叫ぶと、すぐに全員が引いた。

「殿下、今です!」

 イオラント皇子が剣を持ち正面から突っ込むのと同時に、僕とマリエラは、左右に回りボスの両腕を切り落とした。


 ドドーンといつものように派手な音がしてボスは倒れる。すると、「ワー、殿下がボスを倒したぞ!」と、全員が歓声を上げた。

『最後は、盛り上げないとね。』


 今回のドロップアイテムと宝のマジックバッグは、契約で国のものと決まっている。僕が売った武器の訓練なんだから、そうするのが当然だ。

 皆、気分を高揚させたまま、帰路に就いた。皇子の顔も上気していた。


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