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12 諮問

 それから数日後、『ご相談がある。』と、アキラに顧問担当官から念話で連絡があった。

 『本日午後、学園が終了してから参ります。』とアキラから答えがあった。


 その日、僕は、領地経営の授業に出ていた。第三皇子とアレクサンドロスも出席している。

「今日は、最近、話題になっている領地を取り上げます。ここから東北の方向に、馬車で4~5日かかるタールダム領です。帝都からは比較的近い領地ですが、これまでは林業くらいしか産業はありませんでした。しかし、最近では、そこの生産物が多く、帝都にも流通してきています。その理由について学習していきましょう。」と講師。


 『うっ、ウチのことだよ。照れるなあ。』

「丁度、当教室に、その領主様がおいでですので、簡単にご説明いただきましょう。アキラ様、お願いします。」

 『わっ、当たっちゃった。昔も当てられるのは、苦手だったなあ。』

 と思いながらも、僕は、その場に立ち上がり、説明をする。


「はい。まずは産物ですが、アベールの両都市に近いことを考え、生鮮品の生産を増やそうと考えました。そのためには、短時間の輸送ができるように、改良した船を使い、川を流通路にしました。これにより、領地から2~3時間で両都市の船着き場に生産物を届けることができます。そこからの市場への流通は、商人を通した流れを構築しました。・・・」などと、僕は、順を追って説明した。

 ダンジョン産の肥料だのダチョウだのは、話しても混乱するだけだから省略した。

 こうして、この日の授業は終了した。


 その日の昼、イオランタ第二皇子とウラノフ第三皇子は、いつものように、学園の皇族専用の特別室で2人きりで食事をしていた。

「今日の授業で、タールダム領が出てきたんだけど、兄さんは、先日訪問してきたのでしたね。どうでした? 」と第三皇子。

「噂では聞いていたが、見るもの皆珍しく、自分の世界が狭いことがよくわかったよ。」と第二皇子。


「そう言えば、兄さん、最近、ダンジョンに行ったり、自分から人の領地に行ったり、随分活動していますね。」

「そうだな。世の中には、いろいろ面白いことがあることに気が付いたのだよ。」

「それはよかったですね。今日の授業を聞いて、自分も見てみたくなりました。」

「是非、行ってみるべきだ。参考になるよ。」

 『何事にもやる気を見せなかった兄は、どこに行ってしまったのだろう? 変わったのは、マリエラという護衛が来てからだな。』と、第三皇子は、今はカメオの彫像と一致する「美し過ぎる護衛」を思い浮かべるのであった。


 僕は、御側付きのアンナとエルザを伴ったまま、馬車で皇宮に出向き、自分の顧問室に入った。皇宮での御側仕えがお茶を淹れてくれる。美味しいね。そして、執務机の呼び鈴を鳴らすと、すぐに担当官がやってきた。

「アキラ様、皇帝陛下からのご諮問が2つございます。1つ目は、ダンジョン暴走に備えた施策、もう1つは、転移魔法陣の製作と利用の展望でございます。陛下は、イオランタ殿下を座長に任じられ、委員の選定も済んでおります。」


「委員は、領地にダンジョンのある貴族の中から、ホヴァンスキ伯爵、ミナンデル伯爵、トーリード男爵、学者からは男爵のファーレンハイム博士です。博士は、博識学の権威で、ダンジョンや魔法陣に精通しておいでです。」

「早速、明日午後3時から第1回の委員会がありますので、よろしくお願いいたします。と担当官から説明があった。


 説明が終わり、僕は自分でも役立てそうだなと考え、「了解いたしました。よろしくお願いいたします。」と返事をした。

『博識学か。そんな学問があるんだな。』と僕は、残ったお茶を飲みながら、漠然とそう思った。


 翌日の午後3時、第1回委員会が開催された。委員たちは、会議室に集合している。開会のまえに、あいさつを済ませたが、ミナンデル伯爵とファーレンハイム博士は初対面だ。だが、伯爵はアレクサンドロスの父親なので、お互い、背景はよく知っている。

「先日は、カレーパーティーにお招きいただきありがとうございました。」「アレクサンドロスがお世話になっております。」のような社交のあいさつを交わす。

 博士は、これまでその名を耳にしたことがないが、いかにも学者然としており、知性の鋭さを感じさせる。


 時間になったので、座長のイオラント第二皇子が開会のあいさつをする。

「みなさま、お忙しいところ、皇帝陛下のご諮問に応じるため、当委員会の委員にご就任頂きありがとうございました。これから、何回か議論を交わし、帝国の発展のために、実りある答申を行いたいものと存じます。」


「早速ですが、第1の諮問、ダンジョン暴走に備えた施策について議論を始めたいと思います。事務官が資料を用意しておりますので、まずその説明をいたします。」と皇子が述べると、控えていた事務官が、立って説明を始めた。

 僕らは、お茶を頂き、お菓子を食べながら、配布された資料に目を遣る。


 このエルトパルト帝国には、北はエドモンド、ホヴァンスキ、帝都には、アルダス、トーリード、ラビリンスの3か所、南には、ミナンデル、アブラスコ、オルトマイム、イポリージの合計9か所のダンジョンがある。


 最も最近の暴走は、50年程前に最も南のイポリージで生じたもので、その時は、大小数百に及ぶダンジョンの魔物が地上に現れ、街を破壊し、住民を捕食、襲撃した。数週間にわたり、軍や私兵が戦ったが、ある日突然、魔物は消滅したという。ダンジョンの機能が回復したという説と、魔物が存在するのに必要な魔素がなくなったためとの説がある。

 被害は甚大で、領地が復興したのはようやく最近になってのことだという。80年程前には、同じことがオルトマイムで起こった。


 ダンジョンは、別空間に存在している生物に近い物体ではないかと考えられているが、ダンジョンマスターが一時的に制御不能の状態を引き起こすのが、ダンジョンの暴走ではないかと言われている。

 当時に比べ、人口も増え、文明も発達している現代において、このような暴走がどこで起きようと、国の機能は著しく損なわれることになる。他国からの侵略も招きかねない。

 以上が、頭出しの説明であった。


「あらためてご説明を受けると、当領も不安になって参りますな。」とホヴァンスキ伯爵が最初に口を開いた。ほかの領主も同様の不安顔だ。

「古い文献では、全てのダンジョンで暴走が起こった記録があります。ですが、100年以上前のことなので、状況はわかりません。同時に起こることは、これまではなかったようです。」と事務官が補足する。


「予兆はないのですか。」と委員の誰かが発言する。

「予兆はあるということじゃ。高位の階層の魔物が、低位層に現れる。皆が心配しているうちに、魔物たちが魔法陣から溢れ出るそうじゃ。」と博士が答えた。

「溢れる魔物に何か特徴はあるのですか。」と委員。

「暴走の時でも、階層ボスは部屋から出られない。あと、根を張ったもの、地中のもの、海中のものは、出てこられない。」と博士。

「今の軍でも退治はできませんか。」と委員。

「50年前に比べれば、剣も技術も進歩はしてはいるが、人の力では抑え込むのは、かなり困難じゃ。魔物は強くて多様じゃからな。それに、全てのダンジョンで、いつ起こるかわからない暴走の準備を常にはできまい。」と博士。

 あれやこれや議論が続いたが、1回目では到底結論は出せなかった。


 僕は、会議のあと、イオラント皇子に呼ばれて、部屋に入った。マリエラもそこにいる。

「何か解決策は思いつきませんか。アキラ殿。」と皇子。

「そうですね。予兆をとらえて、兵士が待機するしかないでしょうか。」と僕はとりあえず誰もが考えそうなことを答える。

 その時、それまで考え込んでいたマリエラが、「あぁ、こうすればいいんじゃないかい。」と、思わず姉弟言葉で声を発した。


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