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第4章 街 1 公爵令嬢の救助

 帰りは、ワープがある。ファーフナ―に跨り、腕輪をはめ、ここまで来たときにテントを張ったサイトを思浮かべ、順次そこに移動だ。もう腕輪をはめなくても移動はできるが、疲れが少なくて、移動距離も長い気がする。検証中だ。

 途中で昼食をはさんで、1日でエルフの村まで戻ってきた。すごい、何と便利なのだ。採掘してきた金属、宝石がなくなったら、1日もあればまた採りに行けるよ。

 おそらく僕は、この世界最強の人間で世界一の金持ちだ。きっと。でも、平凡な男子学生といわれても、やはり日本に帰らなくちゃ。バイトが待っている。それまでの間だが、せいぜいここで楽しもう。


 無事帰ってきたので、エルフの村では、歓待だった。エミルにも涙目で抱き付かれた。心配してくれていたんだ。この世界でもそんな人たち(エルフたち)がいるのを知って嬉しかった。

 小さい子どもは僕の周りに群がってきた。大人も子どもも旅の話を聞きたがったので、秘密の本と宝飾品のことは内緒にして、色々語って聞かせたよ。持ち帰れないふりをして、財宝はほとんど置いてきたと嘘をいい、ちょっぴり良心が咎めたので、ネックレスと腕輪を、ウルリカと村長に土産として渡した。もちろん特殊な能力が付与されていないものだ。国宝級だとは思うけれどね。エミルにも、小さな指輪を記念にあげたよ。とっても喜んでくれた。よかった。


 2~3日エルフの村でゆっくりした。ここではもう初冬だ。前は夏だったのに、早いものだ。子どもたちが僕と川に行きたがったので、一緒に行く。なんだ、これは。川一面に、サケのようなマスのような大型の魚が遡上している。そういえば、元の世界でも北海道の川では、9月から10月にかけてサケが産卵のために遡上するという。ここの世界でも生態が似ているのか。


 誰も見ていないのを見計らって、僕は、ポケットに大量の生きたままの魚を川の水ごと放り込んだ。いつかプールを作って泳がせてみたい。昔から水槽で魚を飼ってみたかったのだ。

 こうして、予定は過ぎ、今度は、人の住む街に行くことにした。ここから、太陽の沈む方角に行けば、森林が開けて、そこからはもう街があるとのことだ。

 さあ、新しい出発だ。力試しもしたいし、日本に帰るための方法も見付けなくちゃ。


 季節でいえば12月くらいか。ここは少し北の方なのでそれなりに冷える。しかし僕の身体は寒さに強い。相当強いのだ。今日は晴れたので出発しよう。新しく頂戴した衣装をまとい、ファーフナ―に跨る。皆に手を振り、舞い上がる。今度は、西に向かって出発だ。


 快適に飛行する。3時間も飛んだところで、森が開けているのが見えた。その先は、街道があり、小さな村が点在する。きっとここらは、人族がすんでいるに違いない。

 おやっ?そのとき、街道を突っ走っている2頭立ての馬車が目に入った。紋が付いた立派な車体だ。それを騎士風の者たちが、馬で追い駆けていく。そしてそのあとに、あわてた荷馬車が距離を離されながらも追いつこうとスピードを上げる。


 遠目を使う。暴れ馬か、制御ができない御者は青い顔をしている。緊急事態だな。このままでは、馬車は横転しかねない。「いくぞファーフナ―!」僕は、馬車を追い越し、数十メートル先にファーフナ―を着地させ、迫り来る馬車の前に降り立った。


 僕は、馬に向けて得意の見えを切る。「静まれ!」と日本語で。言葉は何でもよいのだ。観念が相手に伝わればよい。2頭の馬は、みるみる速度を落とし、僕の前まで来て膝をつき、頭を地につけて大人しくなった。

 僕は近寄って馬たちの顔を撫でながら、「どうしたんだい?」と聞く。もちろん言葉は通じない。だが、コミュニケーションは成り立つのだ。向かって左の馬が、ブヒヒヒン―急に首に何かが刺さったんだ。痛くて驚いて、思い切り走りだしてしまったんだ。―と言う。


 そこで、首を探ってみる。うーん。吹き矢か。3cmくらいの矢針が刺さっている。毒矢ではないようだな。早速抜いてやり、手をかざしてその傷を治してやる。このくらいの傷ならたちまち塞がるよ。犯人はどこにいる。僕は、矢針を持って探知を掛けたが、周辺に犯人の気配を感じない。失敗したのを見て、早々退散したか。気配探知は、僕が新しく身に着けた力だ。


 そこにようやく騎士たちが追い付いてきたが、馬たちの格好と、僕と、後ろに立つドラゴンに、困惑と恐怖が入り混じった何とも言えない表情になる。でもさすがに騎士、威厳を取り戻し、僕に向かって「何者だ!」と、偉そうに誰何する。僕は、「竜使いだよ。」と答える。


 ほんと、見ればわかることを何で聞くのだろう。そうは思っていても、本人からそうだと聞かないと落ち着かないのが人というものか。それにしても騎士たちは、皆でかい。身長は2mくらいありそうだ。40cmも高い人たちを見上げるのも疲れるよ。まるで、ガリバー旅行記のブロブディンナンだ。


 そこに、やり取りを馬車の中で聞いていた少女が、馬車を降りてこようとする。従者らしい人から、「危ないから、馬車からお出にならないでください。」と懇願されていたが、少女は、毅然とした態度で、「お礼を言わせてください。」と言いながら馬車から降りてきた。しっかりした少女だ。従者もメイドとともに仕方なく一緒に降りる。


 衣裳の裾を少し持ち上げ、「危ないところを助けていただき、ありがとうございました。」と、僕に向かって丁寧に礼を言う。いい子だ。女性で僕と同じくらいの背丈なので、15歳くらいか。この歳なのに気品に溢れている。緑色の瞳だ。エメラルドが似合いそうだな。あとで、ティアラでも作ってあげようかな、と思いつつ、僕は、返事をする。「いいえ、どういたしまして。」と。

 少女は、こちらの言語で話し、僕は日本語だ。未知の言語同士であるが、意味の交換ができる。向こうも聞こえている言葉はわからないのに、僕が言っている意味は理解できるので、不思議に思っているに違いない。


 そこで、少女と騎士のいるところで、先ほどの針を差し出し、「どうやら馬が吹き矢で狙われたようです。心当たりはありませんか。」と聞いてみる。少女は、青い顔をして、首を横に振る。僕は、「これは、証拠品ですので渡しておきます。」と矢針を騎士に渡した。


 少女は、すぐに気を取り直し、僕の後ろに立つファーフナ―を見上げ、「ドラゴンを飼い慣らしておいでなのですね。」と、感嘆の声を上げる。そして、「どこから御出でになられたの。お礼に当家にお招きしたいですわ。」と、言いながら、傍らにいる従者を見る。従者は、僕に向かって「お嬢様は、エドモンド公領の当主、フィリップ・フォン・エドモンド公爵のご長女エリザベート様です。是非、当家にお呼びしてあらためてお礼を差し上げたいのですが、お名前をお聞かせください。」と言う。


 口上の出来がよい。そうだ、僕は自分の名前を名乗る機会を逸していたよ。ただの「アキラ」では、甘く見られそうだ。フルネームで、少しはったりをかませよう。「アキラ・フォン・ササキです。ここから遥か東にある日の昇る国、ニホンという国から、途中ドラゴンに乗って来ました。年齢は15歳になります。」と僕は答えた。

  年齢は、以前の歳と今の見た目の歳の中間に設定したわけだが、エルフから人族の成人は15歳と聞いていたことから、成人に見せておいた方が、行動範囲が広がると考えたことによる。それにしても、公爵の令嬢だったよ。大物と知遇を得たね。幸先がよさそうだ。


 そうこうしている間に、ようやく後ろの荷馬車が追い付いてきて、180cmはありそうな女性が飛び降りた。手足が長い大柄な金髪美人だ。エルフもそうだったけれど、ここでは、平均的な身長の女性なのかな。冒険家といった格好のその女性は、ファーフナ―を見上げて驚愕していた。

 次の宿場町で、招待の段取りを含めて、ゆっくり話をすることにし、馬車の一行は出発した。僕は、ファーフナ―がいるので別行動だ。宿泊予定の宿の名前「エルミナ亭」で待ち合わせることになった。僕は、昼食をとりに、ファーフナ―と一緒に森に向かった。


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