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8 第二皇子の冒険

 翌日、イオラント皇子は、護衛と御側仕えを率いて、学園の授業に出た。護衛には、もちろんマリエラも加わっている。官女の服装なので、周囲では、この最強の護衛を、御側仕えと思うだろう。

 ポニーテールと騎士スタイルでエリザベートを護衛していた者と、豊かな金髪をウエーブさせて長く垂らし、皇子にお付きをしている美しい官女が、同一人物であることがわかる者は、そういそうもない。


 今日の講義は、ダンジョン上級だ。イオラント皇子は、3年生なので、深く学ぶ。

 講師が解説する。

「ダンジョンは、何十年、または何百年の周期で暴走を起こすことがあります。その時々の規模も異なり、いつ起きるかわからない暴走ですが、領地にダンジョンを持っている領主は、常に念頭に置くべき事柄です。過去に起きた例を知って、対策をしておかなければなりません。「必ず起きる」ことを理解してください。」

 マリエラは、後ろから聞いていて、『ふーん、ダンジョンって奥が深いね。学園で学んでおかないと大変なことになるね。』と感心する。『で、何が起きるんだい?』と、警備より、授業の続きが気になる。

 ふと気が付くと、イオラント皇子は、居眠りをしていた。『代わりにしっかり聞いておかないと。』と気を引き締めるマリエラであった。


 授業が終わった。イオラント皇子は、目を覚ます。

『あっ、起きた。聞いてみよう。』

 『イオラント様。帝国は、ダンジョンの暴走に備えて、どのような対策を取っておいでなのですか。』と念話で尋ねる。

 何だ急に。イオラントは、何だったかなと考えるが、よく覚えていない。

 『それが、どうかしたのか。』

 『はい。講師が、暴走は必ず起こると仰っておいででしたので、心配になったのです。』

 『大丈夫だよ。皇帝が考えている。君たちもいることだしな。』

 『何を仰っているのですか。ダンジョンの魔物が、溢れるかもしれないのですよ。』

 『どんな魔物がいるというのだ。』

 『ご覧になりたいのですね? この週末にご案内しましょう。』マリエラは、ダンジョンに行けることを思って、イオラントを、強引にダンジョンに誘った。


 イオラントは、成り行きでダンジョンなんかに潜ることになってしまったことを考える。

『トーリードの12階層で、ミノタウロスがいるという。よかったのだろうか。危なくはないだろうか。』

 マリエラからは、別のダンジョンだが、高位層に子どもも一緒に連れて行ったことがあると聞いた。嘘ではない。アキラとマリエラに関する調査報告書にも、そのような記述があった。

 皇帝に許可を求めたときには、「それは面白そうだな。わしも行きたいくらいだ。」と言われた。『実のわが子が心配ではないのだろうか。』

 色々な考えが頭を行き交う。だが、あと数日後だ。決めた以上は、腹を据えないと。


 前日の午前中、アキラがイオラント皇子を訪ね、当日の予定と使用する魔術具の説明をした。参加する警護の騎士たちも一緒だ。

「12階層は、棍棒を持った角のある大目玉と、斧を持ったミノタウロスが出ます。力技だけですので、ご心配には及びません。」

「ボスを倒して日帰りです。イオラント様には、マリエラ様とチェルニーという神獣に乗って移動していただきますので速いのです。」

「警護の騎士の方々には、速足の魔法陣を靴底に装着しますので、それで付いてきていただきます。騎馬より速く走れます。わたくしも一緒に走ります。」


「盾、剣、兜、腕輪。これらがお貸しするダンジョン用の特別の装備です。」

「盾は、どんな攻撃でも弾きます。ですが、踏ん張らないと、後ろに弾かれることがあります。剣は、ミノタウロス程度でしたら十分に切り刻めます。兜は、敵の動きをあらかじめ感知できます。腕輪は、攻撃から身を守ります。攻撃が当たっても、怪我をしません。吹っ飛ばされることはありますが、痛みは感じませんし、身体に異常は生じません。」

「武器類は、現地でお渡しします。」


 イオラントにとっては、恐ろしさが増したとしか言いようがなかった。だが、決めた以上は、やっぱり腹を据えないと・・・。


 当日の早朝、イオラントは、マリエラとその他の警護の騎士10名程度を引き連れて、トーリード・ダンジョンに向かった。マリエラは、これまでの冒険者スタイルだ。髪は後ろに結わえている。イオラントは、マリエラが武具店「リザードマン」から取り寄せた革鎧、籠手、ベルト、靴を装着していた。


 イオラントは、前日の午後になって、マリエラからそれらの武具を渡された時には声が出なかった。

「この装備は、アキラ様とわたくしで、エドモンド・ダンジョンで収集した大トカゲの皮製でございます。お店に、大きさの調整をお願いしておりましたが、ようやく間に合いました。」とマリエラ。

『そういえば、エドモンドでも暴れていたのだったな。』と、イオラントはマリエラの経歴を思い出す。

 しかし、「わたくしとお揃いなのですよ。」と、嬉々とした表情のマリエラに試着を手伝ってもらううちに、彼女と冒険ができることの喜びの方が、いつの間にか勝っていた。


「お待ちしておりました。」アキラがあいさつをする。

「さあ、こちらです。」案内されるまま、イオラントたちは、魔法陣に向かった。

 今日は、第二皇子がダンジョン探索をするというので、トーリード男爵と冒険者ギルドのトーリード支部長をしているハンスも見送りに来ていた。2人とも、まったく心配そうな顔をしていない。まるで、子どもをピクニックに送り出す親のような安心した顔をしている。

 イオラントは、自分の心配が、外から見ると、実はまったく意味がないことだったということを、ようやく悟った。


 皆で魔法陣に乗り、すぐに12階層に到着した。

「はい、皆さん。この武器に交換してください。今お持ちの物は、いったんお預かりします。それから、警護の方々、昨日お話ししましたが、この魔法陣を靴底に入れて下さい。速く走れますが、強力ですので、慣れるまでは注意してくださいね。」

「これから神獣を出します。皆さん、驚かないで下さい。あと、ドロップアイテムの回収と、念のための警備に、ヒヒとマンモスを出しますのでよろしくお願いします。」

 僕は、彼らを召喚した。


「チョールニーには、イオラント皇子と姉さんが乗ってください。あとの人たちは、走ってくださいね。」

 マリエラは、先にチョールニーに跨がり、その後ろに、皇子の手を取って跨らせた。

「後ろから抱き付いていてください。」とマリエラが皇子に言う。

 皇子は、一瞬ドキリとしたが、『ああ、そうか。』と気が付き、後ろからマリエラの腰に腕を回した。自分の身体が彼女の背中に密着する。鼓動と息遣いを感じる。柔らかくて暖かい。

 イオラントは、自分の知らない世界を感じたような気がした。いや、むしろ懐かしい記憶がよみがえったのかもしれない。


 神獣は、2人を乗せて、すさまじい速度で走る。だが、後ろからマリエラをしっかり抱きしめていると、イオラントには、むしろ安心感が満ちてくるのだ。皇子には、不思議な感覚だった。自分を守ってくれる人がいる。いつまでもこうしていたい。

 だが、夢は破られる。

「大目玉の攻撃があります。」アキラからアラートが発せられた。


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