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5 昇爵

 ふと気が付くと、マルファが隣に来て、僕を踊りに誘う。そこで僕は、マルファの手を取って、会場の中央に踊りに出た。マルファも余所行きの格好をしているが、気品があってとてもきれいだ。そう言ったら、彼女は、頬を赤く染めた。彼女の幸福感が何となく伝わってきたよ。そしてしばしの間、彼女とのダンスを楽しんだ。

「アキラ様の領地に行ってみたいですわ。珍しいものが、きっとたくさんあるのでしょうね。」

「招待するよ。きっと楽しんでもらえるよ。」

 マルファは、嬉しそうな顔をした。


 マルファと踊り終わると、今度は、アマルダのお誘いだ。

「お国のっておっしゃっていましたけれど、素敵な夜会服ですわね。」とアマルダ。

「僕の国では、一般的なんだ。」と僕。むしろ高級だけどね。あちらで着る機会なんてないだろうな。

「アキラ様は、子どもたちに、お優しいのですね。」とアマルダ。

「そういうわけではないのですよ。」実は、領地開発の一環なのだ。

「アマルダ様も孤児を援助されているのですね。」と僕。

「私は、時々孤児院に出掛けていって子どもたちと遊ぶだけでしたわ。」

「院長先生も子どもたちと、タールダム領に行かれたそうで、手紙が来ました。とてもよい環境で、アキラ様には、よくしていただいて、子どもたちも元気だそうです。」とアマルダ。


 そういえば、いきなり子どもが何十人も領地に来ても、どうやって世話すればわからなかったので、一緒に来てもらったんだ。トーリードの孤児院は、助手が残って、タールダム領移住の案内所になっているよ。業種転換をさせてしまったな。

「一度、タールダム領にお伺いしたいですわ。」

「そうですね。今度、ご招待しましょう。」

 罪滅ぼしに、子どもたちの元気な姿を見てもらおう。

 そのあと、エリザベートと続けさまに踊った。そろそろ一服しよう。


 会場の端側に立食用の食べ物と飲み物を載せたテーブルが置いてある。もちろん、そこには、警備の騎士が、毒を盛る者がいないように厳重に監視をしている。

 ブドウやオレンジのジュースに赤と白のワインがある。食べ物は、3段のトレーに盛られている。トレーには、一口サイズのパンにハム、チーズ、ソーセージの輪切り、ローストビーフ、鶉のゆで卵、燻製の魚、ピクルス、ナッツ類、ドライフルーツなどが載っている。一番下のトレーは、一口サイズの菓子類だ。


『なるほど、酢漬けの野菜は長持ちしそうだ。それから、ドライフルーツもいいな。子どもたちには、干しブドウを作ってもらおう。自分たちのおやつも兼ねてね。そういえば、干しブドウで、天然酵母も作れるって聞いたな。ふわふわのパンも焼き放題だ。ブドウパンもいいな。こちらでは、見たことがない。やっぱり大きいパン窯を作ろうか。』などと、夢がどんどん膨らむ。僕は、領地経営の参考になりそうなことには貪欲なのだ。


 僕が、何を食べようかなと食べ物を見ていると、「アキラ様ですね。皇帝がお呼びです。」と伝令がやってきた。少しお預けだな。

「はい。参ります。」

 と僕は、伝令に従って、皇帝が着席している場に向かった。


「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じます。本日は、お招きいただき、ありがとうございました。」と、片膝を付いて、お決まりのあいさつをする。

「アキラ殿、ホヴァンスキ伯爵領では、ギガオクトパスを退治し、また、海賊を退散させたそうだな。」

「はい。竜たちのおかげです。ギガオクトパス退治は、クロノスが活躍いたしました。」と、僕はクロノスの価値を強調した。

「アキラ殿が承継したタールダム領の経営も順調なようだな。」

「はい。おかげさまで。」と僕。

「帝国に対して、これだけの貢献は、近年、他に類を見ない。これはまだ内々なのだが、子爵位を授けたいと考えておる。それと、皇帝直下の顧問職を付与したいのだが、受けていただけるか。」


『えっ、子爵? 顧問?』

「恐れ入りますが、顧問とはそのような職でしょうか。まだ、学園で学ぶ身、また、領地経営も軌道になってはいないので、新しい職が勤まるか自信がございません。」

「心配はない。怪物や海賊が現れたときに助言をしてもらえれば足りる。そう起こることでもなかろう。」

 それであれば、皇帝とつながりを持てるよい機会だ。皇宮図書館にも入ってみたいしな。僕の世界は、まだまだ狭い。

「承りました。お受けいたします。」と僕はそう考えて返事をした。

 具体的な話は、追ってだ。僕は、その場を辞した。


 イオラントはマリエラと何度も踊った。マリエラは疲れを知らない。そして、その華麗な舞は、圧倒する。イオラントは、ダンスの後、マリエラに食べ物を勧め、彼女と歓談した。イオラントは、彼女が何者なのかを知らない。

 マリエラは、隠れた任務なので猫を被っている。その素性が当てられる人間は、まずいないであろう。しかし、皇族に素性を明かすことは問題ない。イオラントの質問に答える。

「わたくしは、エリザベート様の護衛ですわ。平民ですのよ。」


 イオラントは、一瞬意識が飛び、聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような気がした。しかし、そこは皇族、動揺は見せない。

「護衛ですか。武器はどこにお持ちですか。」

 マリエラは、「ここですわ。」と胸の谷間を指さす。マジックバッグをそこに隠しているのだ。

 イオラントが、意味がわからずに困惑の表情を浮かべるので、マリエラは、「お見せしましょう。」と、空中から短い魔槌を取り出した。

「これは、ダンジョンの宝物の槌で、長さを自在に調整できて、何でも砕いてしまうのですわ。」マリエラは、目を輝かせながら言う。


 イオラントは、ようやく、彼女とは生きている世界が違うことを実感したが、名状し難いわくわく感にも捉えられた。

 そしてイオラントは、この機を絶対に逃してはならないと直感し、これまでに経験のない大きな決断をする。

「このような場所でお願いするのも何だが、私の護衛になってもらえないか。」


 イオラントは、マリエラを手元に置くためには、ほかに方法がないと瞬時に判断したのだ。頭の回転は速く、勇気もある。そのことが役に立つことは、これまで滅多にはなかったのだが。

 マリエラは、「わたくしの一存では決められません。エドモンド公爵のご了解を得てください。」と答えた。

 公爵が、内心は渋りながらも、了承しないわけがない。この時、マリエラの運命が大きく変わった。彼女は、「冒険者」なのだ。


 舞踏会がお開きになり、皇帝は、皇子らから接した貴族たちや、見聞した話の報告を受けた。イオラントのことは、驚きであった。マリエラという、あのカメオに彫られた者を、自分の警護にしたいという願いがあったからだ。

『女には、まったく興味がないと思っておったが。』

『帝国に貢献もあるが、平民であるからな。皇族の警護は貴族出身に決まっておるのだ。』

 皇帝は、滅多に自分の意志を出さない、無気力だと思っていたイオラントが、こんなに熱くなっているので、何とか希望を叶えてやりたいと思った。どのみち、帝位を継ぐこともあるまいからな。


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