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3 海賊

 しばらく経ったある日、学園で生産・流通のクラスを受けていたら、念話が入った。マルファからだ。

 『アキラ様、大変なのです。領地に海賊が出ました。海と陸でにらみ合いをしているところです。助けてください。』

 『わかった、すぐに学園の入口に来て。』

 僕は、その場で立ち上がり、「緊急事態の連絡が入りましたので、中座いたします。ご容赦ください。」と一言断って、教室を出た。

 御側付アンナとエルザには、「僕はこれからホヴァンスキ伯爵領に行ってくる。海賊が出たそうだ。」と伝え、今日は、屋敷には帰れないと付け加えた。


 そういえば、マルファとペトルには、念話の腕輪を渡したままだった。マルファは、ペトルから連絡を受けたのだな。渡したままでよかったよ。

 マルファとは、学園の入口で落ち合ったが、僕は、彼女の御側付に「これから一緒に、ホヴァンスキ伯爵領に戻るから、帝都の伯爵邸には、そう伝えといて。」と断り、「マルファ、ペトルに今からそちらに行く。1分もかからないって、伝えておいて。」と彼女に伝言をお願いする。


 そして、「さあ、マルファ、僕と手をつないで。」と彼女に右手を差し出した。

 マルファは、状況をつかめず、一瞬、ためらいを見せたが、僕の顔を見て頬をうっすらと赤く染め、嬉しそうに僕の手をギュッと握った。

『そんなにしっかり握らなくてもいいのに。でも、手を握る理由を言わなかった僕が、うっかりしていたよ。デートじゃないんだ。』

 僕らは、その場から跡形もなく消えた。伯爵領にワープしたのだ。


 ホヴァンスキ伯爵領の、どこにワープするかは、前回行ったときに決めてある。人に見られないようにするためと、ぶつかってもいけないしね。

 その場所は、防壁近くの大きな木の上なのだ。

『樹上に出るから、驚かないでね。』と、マルファには、あらかじめ念話をしておいた。

『伯爵令嬢が木の上にいるって、考えられないけどな。ここは我慢だ。』

 フッと、樹上に降り立つ。

 マルファは、周りを見て、思わず僕に抱き付いた。


『なるほど、海賊がいるね。30艘か。結構本気だな。1艘当たり、50人の戦士として、1500人か。向こうは勝てる人数なのかな。こっちだって、防御を固めているのに。朝から堂々と正面からだ。』

 僕は、いろいろ考える。マルファは、海賊船と今立っている場所を交互にながめて、青い顔をしている。

『しまった。降りなくちゃ。』

 僕は、近くの人気のないところを探して、ワープで地上に降りた。


 『ペトル、今、海岸に着いたんだけど、伯爵はどこ?』と念話で聞く。

 『早速のご支援をありがとうございます。お迎えに伺います。どちらにおいでですか。』

 僕らは、その辺の標識になりそうな物を伝えて、迎えを待った。

 すると、すぐにペトルが向こうから駆けてきた。

「姉から、聞いております。さあ、こちらにどうぞ。」と僕らは、伯爵がいる詰所に導かれた。


「伯爵、お久しぶりです。」と僕。

「どうやって、これほど早くここに来れたのだね。」と伯爵の第一声。

「ワープですよ。詳しいことは後程。どうすればよろしいのですか。」と僕。

「そうだったな。あれは、異国の海賊だ。昨晩から停泊して、こちらの様子を窺っている。弱そうであれば、ここを襲う。強そうであれば、別を襲う。襲ってくるときは、さんざん略奪して、たちまちのうちに撤退する。いまは、にらみ合いだ。お互いに力を測り合っている。」

 『困ったな。追っ払っても、ほかが狙われるのか。』


 僕は、「ちょっと、海賊の様子を見てきます。」と、詰所から外に出て、ファーフナ―を召喚した。周りがざわついているが、僕は、かまわずにファーフナ―に鞍を載せて跨り、海賊船目掛けて飛び立った。

 この間は、海竜だったけど、今度は、空竜だよ。なにせ僕は、自称、竜使いだからね。


 『おまえに乗るのは、久しぶりだなあ。』と僕はファーフナ―の首を撫でながら話かける。

 ファーフナ―も嬉しそうに、態度で応える。

 それにしても、あっという間に、海賊船団の上空だ。船上では、異国の者たちが大騒ぎをしている様子が目に入る。僕だって、異国の者だけどね。君らは、たちが悪いんだよ。略奪だなんて。どうしてくれようか。異国人の風上にも置けない。

 連中は、矢を撃ってくる。石も飛ばす。全部、はじき返しちゃうけどね。

 ボムと今度は、特大の火炎球を放ってきた。

 『魔法使いがいるのか。結構な威力がありそうだな。』

 ここまで来るうちに消えちゃうけどね。


 『そうだ。武器がなければ、襲えないよな。』

 僕は、海賊船団に向かって降下していった。

 矢やら火炎球やらが、どんどん飛んでくる。バシバシバシ、シュボっとすべてが、僕らに届く前に無力化される。僕はそのまま船団に近付いていき、各船の上空から「武器よ、空中ポケットに入れ!」と景気良く叫んだ。叫んだ方が、イメージが明確になるんだ。

 すると、その船の海賊が携えていた剣、槍、弓などの武器が、目の前から一斉に消え去った。ポケットに収納完了だ。これを、30艘繰り返す。そしてもう、矢も石も飛んでこなくなった。

 『これで、戦えまい。』


 僕は、次に、「そこの船、人以外はポケット!」と、船団に接近し、特定の船だけを選んで次々にポケットに入れた。すると、その船に乗っていた海賊が、一斉に海に投げ出される。偉そうな人の乗っている船から順番だよ。それにしても、見事に海に落ちるね。

 『20艘ほど収納すれば、残りの船で、海中の海賊たちを助けて、本拠地に帰るだろう。今日は、このくらいかな。』


 海賊を丸ごと収納するっていうのも考えたが、こんな大勢を出す場所もないので、やめておいた。本当は、退治しておかないと一般の民に迷惑がかかるかもしれないが、僕が手を掛けたくはないからね。でも、10艘で全員載せて無事に帰れるかどうかは、保証の限りでないよ。

 海に投げ出された海賊は、残った船で救助された。仲間を見捨てないだけ大したものだ。

 船上は、3倍の人数に膨れて、船もいかにも重たそうだった。そして、救助が終わると、重たい船体を外洋に向け、ゆっくりと、そこから離れて行った。どこかで沈没しそうだなとは思ったが、それは自己責任だ。


 僕は、その様子を見届けた後、海賊から回収した大量の武器と20艘の外洋船を土産に、岸に戻った。

 ファーフナ―には、ご褒美にデビルボアをポケットから出して食べさせてあげたよ。そして、再びポケットに戻ってもらった。


「海賊たちは、帰って行きましたよ。」と、僕は、そこに走ってきた伯爵たちに言った。そして、船と武器は、僕が持っていても使い道がないので、伯爵に差し上げることにした。あとで、倉庫や港に出そう。


 午前中で終わったな。伯爵と私兵の隊長に感謝され、お昼を一緒にすることになった。でも隊長は、本心は戦いたかったらしい。武人の本能だからね。ここは、分かり合えないよ。そして、分かり合えないことを認識しておくことこそが大切なのだ。


「おっ、これはアジフライですか。好物です。」

 昼食は、もちろん海の幸だ。新鮮なアジをフライにすると、とても美味しい。フライの仕方は、前の時に伝授した。パン粉という概念がなかったようだが、魚にも肉にも使えるので便利なのだ。ピンセットで小骨を抜いておくことも教えたとおりにしている。

 たくさん作って、皿に盛ってあったので、つい、5枚ほどぺろりと平らげてしまった。美味しいものの前では、貴族の嗜みがふっとんでしまったな。さすがにマルファが驚いた表情をしたのは、気が付いたけど無視したよ。

 やらないで後悔するより、やって後悔しろって言うじゃないか。食べて後悔しなかったけどね。


 あとは、浜で新鮮な魚介類を仕入れて、今日中に帰ろう。

 僕は、そのあと、マルファと浜でたっぷり買い物をして、一緒に帝都に戻った。その間、マルファには、しっかりと手を握られていたよ。


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