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2 人買い

 ある日、城壁の外の青空市場を見学することになった。

 青空市場って、結構歴史があるんだよな。野菜、パン、ソーセージ、チーズ、生花、香辛料、食器などいろんな物を売っている。近郊の農家が自分のところで作った作物を売ることも多いらしい。そうすると、値段も安く売れる。

 市場は、専門街より割安ではある。品数や種類は、専門街の方が豊富だ。それぞれ、使い分けだな。富裕層は、少し高くても専門街の方が安心できるしね。


 市場の入り口付近まで近づいたとき、いきなり中から、汚い恰好をした小さな子どもが飛び出し、店主風の大柄の男性が追いかけてきた。そして丁度、僕らの傍らで、子どもは男につかまった。

 ちょっとした捕り物だね。びっくりした。


 僕は、「どうしたのでしょうか。」と男に尋ねる。

 男は、傍らで急に声がしたので少し驚いて、「いやね。このガキが店のパンをかっさらって逃げたんだ。自警団に突き出してやる。」と答える。パン屋のご主人か。

 すると、アマルダが屈んで、子どもと目線を合わせ、「どうして、人の物を取ったの?」と聞く。

 子どもは、「お腹がすいて・・・」と言う。

 アマルダは、「どこに住んでいるの?」と重ねて聞く。

 子どもは、「孤児院。食べる物が足りないの。今日は、まだ食べてないの。」とすすり泣く。

 そこでアマンダは、立ち上がり、毅然として男に言う。

「パンの代金は私が支払います。この子は、私が保護しますので、お引き渡しください。」


 貴族然とした集団にそう言われては、引かざるを得ない。パン屋の主人は、アマルダから代金を受け取り、その場から去ろうとした。


「あっ、ちょっと待って。これで買えるだけのパンをください。麻袋に詰めて、袋代もとっておいて。」と、僕はパン屋の主人を呼び止め、小金貨1枚(1万円相当)を渡した。

『孤児院の子たちが飢えているんじゃね。自分のパンだけで帰らせるわけにはいかないよ。』

 男が戻るのを待つ間に、アマルダは、「名前は何て言うの? 孤児院に連れて帰ってあげましょう。」と、その子の手を取って聞く。

 その子は、警戒しながらも、片方の手でパンをしっかり握ったまま、「マミナ」と答えた。

『女の子だったのか。』

 僕らは、大きな袋を担いで戻ってきた主人から袋を受け取り、その場を後にする。

 すると、「まいど、ありがとうございました。」と後ろから大きな声がした。商人は、切り替えが早くていいね。


 僕らは、そこから、20分ほど歩いて、その孤児院に着いた。帝都郊外の北側の貧民街の一画だ。僕は、この場所に来るのは初めてであったが、アマルダ以外は、皆初めてだった。

「ここね。」とアマルダは、どんどん中に入っていく。

 そして、「院長先生は、おいでですか。」と声を掛けると、「はい。」と中年の女性が姿を見せた。そして、「これは、これは、アマルダ様」とあいさつをした。

 実はこの地は、トーリード男爵領の一部で、男爵は、この孤児院に継続的に寄付を行っていたのだ。


「わたくしは、ここの院長をしているマチルダ・ガルマニエです。」と僕らとあいさつを交わした。

 そしてマチルダは、「最近、急に孤児が増え、貯えが少なくなってしまったのです。ご寄付いただいたばかりなのに、男爵にお願いするのもはばかられまして・・・」と実情を明かした。


 孤児は、それまで30人ほどだったのに、貧民街の再開発で立ち退きが行われて、居場所をなくした、それを超える人数の孤児が、ここを頼って押し寄せて来たのだそうだ。再開発は続いているので、さらにまた増えるのではないかと心配しているとのこと。

 それを聞いて、僕は、タイミングがよかったなと思う。

 そこで、「増えた子どもたちは、僕が領地に引き取ります。立ち退きを受けた家族も一緒でかまいませんよ。」と提案した。


 それから僕は、タールダム領では、産業の振興が急ピッチで進み、これから人手が足りなくなるので、どんどん人を育てたいと話す。すると最初は、「子どもたちをどうするつもりかしら。」と心配顔だったマチルダも、僕の話を聞いていくうちに、最後は笑顔になった。そのうえ、これからは、この孤児院を、タールダム領への移住の案内所にしてもらうことにもなった。移住希望者には、僕が旅費を負担することにしたよ。

「お前、もう領地を経営してるのか。今度、見せてくれ。」とアレクサンドロス。

「いいよ。いつでも。」と僕。彼は、結構真面目だね。


 そして、ここの子どもたちは、船が出来たら順番に連れて行くので、それまでは衣食に困らないようにと、僕は、十分な金額の寄付をしておいた。人材確保の前渡金みたいなものだよ。僕は、体の良い人買いだ。ほかの皆も、それぞれ寄付をしていたが、お金の趣旨が違うので申し訳なかったな。でもいいんだよ、お金に色はないからね。


 話しが終われば、子どもたちと庭で、お決まりのバーベキューだ。レパートリーも増えたが、今日は、子どもの好きそうな肉の串焼きと、とうもろこしかな。スイカも冷えているから、きっと喜ぶよ。さっき買ったばかりのパンもあるしね。大人には、僕の一押しのサザエのつぼ焼きだよ。


 それから、マルファ、アマルダ、アレクサンドロスにエリザベートとマリエラ、さらには護衛の人たちも一緒になって、院長や子どもたちとバーベキューを楽しんだ。それにしても、アレクサンドロスが孤児とバーベキューを楽しむ姿は想像が付かなかったな。案外、根はいいやつなのかもしれない。


 子どもたちは、相当お腹がすいていたようで、次から次に、顔中を口にしてパクついている。

 僕は、子どもたちに尋ねる。

「水牛の世話をしてみたい人はいるかな?」子どもたちは、おそるおそる手を挙げる。

「ダチョウに乗ってみたい人は?」多くの子どもが手を挙げる。育てるのも君たちだからね。

「蜂蜜入りお菓子を作ってみたい人はいる?」考えたこともなかったのだろう、だが、女の子たちは皆手を挙げる。でも蜜の採取から始まるんだよ。

 最後に、「美味しいお肉やお野菜をたっぷり食べたい人?」と聞くと、遂には子どもたち全員の手が一斉に挙がった。働いただけ、たっぷり食べれるよ。

「タールダム領には、全部があるよ。みんなおいでよ。」勤労は報われるのだ。

 こうして僕は、まだまだ純粋な彼らを、タールダム領へと誘うのであった。


 マリエラがフリーになる週末に、僕らは新領地にワープする。

 現地では、子どもたちの受け入れのために、宿舎、学舎と付属農場を作っておかないといけない。世話係、料理人、教師なども準備が必要だが、これは役場とギルドに任せよう。


 僕らは、領館の近くに手ごろな空き地を見付けて整地をした。そして、4人部屋で200人は収容できる子ども用の宿舎と家族用の2階建ての長屋を50世帯分、それから実習もできる学舎の建築を手配した。また、これだけの人数が住むようになれば、銭湯もあった方がいいかなと思い、その建屋も発注した。


 建築ラッシュだ。森に魔獣はいなくなったので、木を切り出せるし、その材木で建物を建てれば、輸送の手間も省ける。これからも、建築需要は、どんどん増えるよ。材木と大工さんを増やしておいてね、と林業ギルドには頼んでおいた。


 そして僕は、肥料と資金を得るために、1人で夜な夜なダンジョンに潜ることになった。やっぱり先立つものはお金だよ。領地経営って、道楽だね。


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