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第13章 再び帝都 1 帝都学園の新学期

 僕とマリエラは、いったんワープでエドモンド公領の拠点に戻り、それから公爵家を訪れた。タールダム領の報告と、帝都学園の新学期のために帝都に向かう打ち合わせだ。僕の馬車は、帝都に置いてあるので、公爵の馬車を回してもらった。


 マリエラも、もうこの頃には、外見では貴族然としている。馬車に乗り込む姿は、貴婦人そのものだ。タールダム領では、男爵の姉だからな。うまく雰囲気を出しているよ。美人だし身体が大きいので、誰もが圧倒されて意のままになる。オーラが半端ではない。


 僕らは、エドモンド公爵に、これまでの領地経営の状況を、つぶさに報告した。

「やはりすごいな。君たちは。」

 公爵は、感嘆する。公爵は、エリザベートからホヴァンスキ伯爵領での出来事も聞いているので、なおさらだ。


「支援することはないか。」と聞かれるが、「これから人手が足りなくなりそうです。物づくりの専門職と、労働力としての人が両方足りません。」と答えると、「そうか。考えておこう。」と公爵は請け合った。


 最後に、公爵から、「それでは、新学期も引き続きエリザベートのことを頼む。」と警護を依頼された。これは、予定通りだ。

 翌日、僕らは、前期のときと同じように公爵館から帝都に出発した。


 帝都学園の後期は、9月から11月までの3か月だ。その新学期が9月1日に始まる。それまでに、地方の貴族の子息、令嬢は、帝都の邸宅に戻ってきている。馬車で1か月近い旅をして、わざわざ学園に来る学生もいるそうだ。往復で2か月かかるので、そのような学生は、夏は帰らないで帝都に留まる。

 帝都では、マリエラは、エリザベートの護衛のためにエドモンド公爵邸に住み込み、僕は、自分の屋敷に住むことになる。


 だが僕の頭は、領地のことで一杯だ。

 エドモンド公領から帝都に向かう途中、アベールグラートを通ったので、新領地で発注した船の状況を聞こうと、発注先の船大工に寄った。

『ヨハネス船工房だったな。』

 あった。ここだ。


「こんにちは。タールダム領主のアキラですが、お願いしてあった運搬船を見せていただけますか。」と予告もなく、工房を尋ねる。

 中では、何艘もの船を同時に製作している。工房といっても、かなり大がかりだ。

「はい。お待たせしました。」と、その辺にいた若い男性がやってきた。


 事情を話すと、「わかりました。こちらへどうぞ。私は、助手のロサリオです。」と、僕を奥の作業場に連れてきた。

「こちらが、お請けした船の製作場です。」

 そこには、底が広くて平らな、角のとがった長方形の舟が何艘も製作中であった。


「予定よりも早くできそうですね。」と僕がロサリオに言うと、「はい、最優先で頑張っていますから。それに、川用のフラットボートは、海の船と違って、構造が簡単なのですよ。」と答える。

 聞くと、川で使用する普通のフラットボートは、上流に向けて進むのが大変なので、上流から荷を運び、下流で船を木材にしてしまうのが一般的なのだそうだ。そのため、普通であれば、もっと簡易に製作するものらしい。


 当領で発注したものは、逆進の魔法陣を念じ込んだ操縦盤がついているので、上流にも荷や人が運べる。操縦盤は、両手の平で操作をし、船を自在に動かせる優れものだ。

 このような操縦盤は、ロサリオも見たことがないという。

「魔法陣は知られているのですが、どうしても魔力が発動しないのですよ。」

「ボスミノタウロスの角を輪切りにして操縦盤にしているので、強力なのです。」と僕。

『これがないと、農産物の大量出荷ができないからな。角はまた獲りに行けばいいさ。』

 僕は、満足して、「頑丈な船ができそうだね。よろしくね。」と言って、そこを後にした。


 そして僕は、暇さえあれば領地のための新しい方策を考える。

『あとは、水牛の牛舎がほしいな。農家に水牛を貸し出せば、生産性が上がる。水牛の乳でチーズもできる。荒れ地の開墾もできるしなぁ。この世界の水牛は、毎年角が生え変わるので、落ちた角を工芸品に加工するのにも適している。』


『ダチョウ牧場もほしいな。肉、羽根、皮が利用できる。それから、こちらの世界のダチョウは、人が乗った荷車も牽けるほど丈夫みたいだ。足も速いし、領民の乗り物に最適だ。これがあれば、農家だって、結構遠くまで行商に行けるしなぁ。』


『船の往復が始まれば、観光客を呼ぶのはどうかな。温泉宿を作って、湯治場にするんだ。薬草を浮かべれば、万年病にも効く。外から人が集まれば、食文化も豊かになりそうだ。』


『計画が本格的に動き出せば、人手が足りなくなるいから、移民でも受け入れるか。職業訓練学校も作ろうかな。』

 などと考えは、次々に浮かぶ。


 帝都に戻り数日ほどして、新学期が始まった。初日に登校すると、皆、夏の思い出が一杯という表情をしていた。

 早速、マルファがやってきて、夏の思い出を語る。楽しかったな。潮騒が耳によみがえるよ。

 アレクサンドロスがやってきて、ダンジョン攻略をして帰郷したので、家族から認められたことを自慢する。よかったよ。人助けができて。

 そしてアマルダがやってきて、「これ、アキラ様から頂いたネックレス。毎日眺めながら、新学期が来るのを楽しみにしておりましたの。」と言う。よかったな。よほど気に入ってくれて。今度は、深層まで連れて行ってあげようかな。

 こうして、新学期の学園初日が終わった。


 午後は、マルファ、アマルダ、アレクサンドロスや、時に彼らにエリザベートとマリエラも加わって、帝都の街中に、領地の経営のヒントになるものはないか、探しに出ることが日課となった。みんなも領地の経営に関係する立場なので、このような目的があると、俄然、目の色が変わる。

「ここは肉屋街か。」と僕はつぶやく。

「街のあちらこちらに専門街がありますのよ。パン、野菜、木工、金属加工、武具、アクセサリーなどです。」とアマルダが答える。


「同じ物を売る店が近くにあって、やっていけるの?」と僕。

「買いたいお客さんが、たくさん集まってきますので、多くの店があっても工夫次第なのですわ。肉屋さんは、売っている肉の種類や部分が違っていたり、加工したり、お惣菜を作ったりして、どこの店も違いますわ。」

「それに1頭を共同で安く購入して、みんなで分けて売れば、利益も出しやすいと聞いていますわ。」とアマルダ。

 工夫か。なるほど、参考になるな。売る物か売り方か、何か特徴を出さないとな。


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