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4 領地改造

 そうこうしているうちに、あと10日くらいで夏休みが終わる。1週間前には、エドモンド公領に帰り、再度、エリザベートと馬車で帝都に戻らないといけない。

 この間、領地の改造は大分進んだ。まだ端緒についたばかりではあるが、方向性が明確になって、領民もギルドも役場の官吏も、とても前向きになり、やる気を起こしている。


 実験農場の作物は、種類に応じて、2週間から3週間程度でしっかりと実った。そこで、農家の人たちを呼んで一緒に収穫を行った。ここで出来た作物を市場に流すと、農家は食べていけない。そこで、農家には、農地改良の実際の成果を見てもらうのと、できた作物を提供し、収入に影響が出ないように取り図ったわけだ。


 招かれた農家の人たちは、実った作物を見て、驚きの顔をしている。

「こんな大きくて瑞々しいトマトは初めて見るだ。」

「見事に太った人参じゃのう。」

 などの話し声も耳に入る。そして、齧って味を確かめる。

「うまいのう。人参ってこんなあ、あまかったけ。」

「おめえのところとは、えらい違いだ。ガハハ。」


 実に好評だ。僕は、ダンジョン産肥料の話をし、自分たちの畑にも撒くように、その肥料を与えた。農民たちは、実績を見ているので、満面に笑みを浮かべ、大喜びだ。

 農地の改良は、領主の務めなので、この肥料は無料配布なのだ。収穫が増えれば、あとから税収で戻ってくるからね。畜産農家には、牧草地に肥料を撒くように言った。栄養たっぷりの牧草を食べた乳牛は、しっかりとお乳を出すだろう。チーズの生産量が、今後ぐんと上がるはずだ。


 夏といえば、スイカだ。スイカは、あらかじめ収穫し冷蔵庫用の魔法陣を使って冷やしておいたので、その場で切ってみんなで食べた。大きなスイカだ。しゃきっとした食感に、甘さも十分に載っていて、とても美味しい。農家の家族も参加している。子どもたちは、特に大喜びだ。口の周りを真っ赤にして、スイカにかぶりついている。

 塩を振ると甘みが増すので、塩も用意しておいた。

「なんで? 塩で甘くなった!」との驚きの声。

 みんなは、塩を振るという食べ方を知らないみたいだったな。この地では、スイカはほとんど作られなかったそうなので、新しい特産品になりそうだ。


 それから、とうもろこしをバーベキューコンロに載せる。粒の1つ1つが、大きく輝いている。そして、魚醤を塗って、焦げないように、くるくると回しながら焼く。魚醤の香ばしい香りが漂う。焼きとうもろこしも、夏の風物だ。みんな、待ち遠しそうにしている。はい、お待たせ。みんなに、焼けたとうもろこしを1本ずつ持たせて食べてもらった。

「甘い。歯応えがいい。」

 評判は上々だ。だが、とうもろこしは、鮮度が落ちるのが早いので、加工して出荷した方がいいかもしれないな。真に美味しいとうもろこしを味わえるのは、産地の特権だ。

 こうして、収穫の集いは、成功裏に終わった。


 ほかにも、荒れ地を開墾して、数ヘクタールの新畑を作った。当領は、山地だけあって小川が多いので、水はそこから引いた。そして、林業が手詰まりで、転職を考えていた人が多くいたので、彼らに優先して貸し出した。2~3週間で出荷できるから、食べるのには困らない。また、畑を増やしたい農家にも貸し出しを行った。借賃は、少し高めに設定したが、3か月分後払いなので、お金は十分に回るであろう。


 しかし、物事はそう簡単にはいかない。豊作貧乏という問題だ。作物は、出来ればよいということではない。供給が多くて、重要がそう変わらなければ、価格は下がる。

 そこで、流通のことを考えた。需要の多く見込めるところに出荷できればよいのだ。

 アベールグラートとアベールブルグは、アベール河の両岸の交通の要所で、大きな都市といえる。僕は、そこに焦点を当てた。ここの立派な野菜類なら、そこで、いくらでも売れそうだ。


 従来から、タールダム領では、材木を筏にしてアベール河で、アベールグラートとアベールブルグまで運んでいた。野菜等の農産物を運ぶのであれば、平底の船でよい。 

 この地は、上流なので、これらの都市まで2~3時間もあれば到達する。朝採れの農産物を午前中に市場に流せるのだ。


 そこから船を当地に戻すのには、逆流なので時間がかかるが、逆流の抵抗をなくして推進する魔法陣があるので、船にはそれを取り付ければよい。魔力の強い基盤と大きな魔石が必要だが、それは手元にある。これで、下流に行っても4~5時間もあれば戻って来れる。帰りは、都会の物を買い付けたり、旅客を運んでもよい。


 そこで、タールダム役場を通じ、魔法陣の刻まれた魔獣の角の輪切りを渡し、アベールグラートの船大工に運搬船になる底の平らなフラットボートを10艘ほど発注した。

 完成まで1~3か月は掛かりそうだが、できた順から納品してもらうとして、納品までに、販売ルートを構築しておかなければならない。ここで、商人見習いで、僕の御側付きのアンナとエルザが大活躍だ。彼女たちの尽力で、トーマス商会を中心にして、ルートは確保できた。

 作付けと出荷の段取りもきちんと整え、あとは、船が出来上がるのを待つのみ。


 館には、新しく料理人とメイドが合計5人採用された。メイドたちには、実験農園の薬草を使って、ポーションの作り方を教える。新しいメイドたちは、ポーションの製造も仕事のうちだ。

 帝都の屋敷の庭の薬草から作る美容ポーションと区別するため、内科系、外科系、疲労回復、魔力回復と育毛の5種類を作ってみることにした。この世界では免許はいらない。しかし、試験的なので、まだわずかな量だ。手ごろな価格を想定して、容器は普通のガラスを使った。育毛ポーションは別にして。これは、富裕層向けの特別品だ。


 マリエラと魔獣退治も行った。

「魔獣は、ダンジョンだけじゃないんだね。」と僕はアリエラに尋ねた。

「そうなんだ。でも倒しても消えてなくならないよ。体内に魔石は持っているけどね。」と彼女は答える。

 林業ギルドの人たちに聞くと、デビルボア、魔角鹿、マッドベアが森の奥に出るという。えらく巨大で、獰猛なのだそうだ。デビルボアは、30cmもある鋭い牙が6本も生えていて、人を見ると体当たりをしてくるそうだ。魔角鹿は、悪魔が両手を挙げているような形の大きな角が生えているという。マッドベアは、巨体を唸らし気でも狂ったかのように、襲ってくるという話だ。

「姉さん、森に行ってみよう。」と僕らは翼を付けて、空から森の奥に入った。


「何で、魔獣が出るようになったのかな。」と僕。

「いろんな原因はあるけどね。人が奥に入り過ぎたんじゃないのかな。」とマリエラ。

 だが魔獣が里にまで下りてくると大変なので、退治をしておかないとな。仕方ないよ。

「ところで、魔獣も食べられるの?」と僕。

「種類にもよるけど、普通の獣とそうは変わらないらしい。魔素が多い分、健康にはいいそうだよ。」とマリエラがこの世界の常識を教えてくれた。


 まずは、魔角鹿か。眼下に見える。なるほど、体躯もすごいが、大きな角がおどろおどろしい。それが数頭か。子連れもいるけどどうしよう。

 でもしょうがないか。さあ、退治しよう。と思ったが、もしかして、空中ポケットに収納できないかなと考えた。ダンジョン内のものが収納できないだけであって、地上に出れば魔獣だってきっと収納できるよね。

 僕は、鹿たちに近付き、収納を念じた。すると、案の定、そこにいたはずの鹿は、揃って姿が消えた。

「成功だ。姉さん。」と僕。

「よかったね。いくら魔獣でも、子連れを倒したんじゃ、後味が悪いよ。」とマリエラが答える。

 それから森を回って、デビルボア、魔角鹿、マッドベアと、怖い名前の魔獣たちを次々にポケットに収納し、こうして魔獣たちは、森からすっかり姿を消した。


 残念だが、そこまででタイム・イズ・アップ。エドモンド公領に戻ることとなった。みんなには、蜜蜂の巣箱と蜜を収集する遠心分離機の作り方を教え、農家総出で蜜蜂を集めてもらうことをお願いしておいた。もっとも、僕は、週末や学園の授業が終わったら、いつでも当地にワープして来られるけれどね。だから、あまり影響はないかな。

 帝都にある僕の屋敷から来てもらっていた使用人たちには、順次、戻ってもらった。


 こうして僕らの短い夏休みが終わった。


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