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2 宝物殿と書庫

 拠点として手ごろな部屋がないか、探して回った。しばらく行くと、屋根のある中庭があった。中庭を挟んだ向こう側に、部屋があるので、行ってみる。広い。何かの作業所だったところか。扉は朽ちて無くなっているが、天井に雨漏りの後もなく、採光もよいので、滞在中の住処はここに決める。中庭で料理も作れる。中庭からは、大門が朽ちて出入りが自由にできるので、ファーフナ―も寛げる。

 僕は、ファーフナ―から全部の荷物を降ろして、部屋にまとめた。9日ぶりの住処だ。


 昼は時間も惜しく、残り物をかじりながら、宮殿巡りをする。王の寝室らしき部屋を発見する。豪華に装飾されたベッドに人骨が一体横たわっていた。きっと王だ。敬意を払いつつ、部屋の中を見て回る。冠、ネックレス、腕輪、指輪などの宝飾品類が残っている。

 古今東西、王は飾る。王は、社会システムの要を司る存在として、自分を飾ることを通して、社会の秩序を大衆の目に見えるようにした・・・ということらしい。贅沢をひけらかすだけの王は、王の存在意義をはき違えていることになる。


 しかしこの王は、そんなことを考えることもなく、千年前に王であることを辞めてしまった。ということで、残された財宝は、王たる存在の意義から遠く隔離されてしまったので、僕が手にすることに何ら問題はなかろう。仮に僕がここの王を名乗ったとしても、それは自由だろう。古来、王は決して血筋というわけではない。世界の歴史を見ればわかる。血筋もあるし、武力もあるし、社会システムに依ることもある。要するに、誰も異議を唱えなければ王としての正当性が生じる。


 王族の儀式用具の保管庫らしき部屋も見つかった。儀式用の宝飾品は、どれも立派な宝石を無数にちりばめた王冠、王笏、ネックレス、ミスリル製と思しき宝剣、腕輪、繊細な細工を施した器具など選りすぐりのものであり、かつてこの国を支配した王の権威に思いを馳せる。どんな国であり、どんな王であったのだろう。書庫にこの国の記録は残っているのだろうか。伝承では一夜にして滅亡したそうだが、何があったのだろうか。


 王宮の調理室と思しき部屋があった。調理器具は、銅と青銅だろうか。銅は朽ちているが、青銅は使える。青銅の鍋と食器類は使えそうだ。王族用か、ミスリルや金製の食器もあったので、もらっておく。銀器はボロボロになってしまっている。衣裳部屋と思しき部屋もあったが、衣裳類は全て朽ちていた。ただ、金糸や宝石の飾りだけが、それらが彩った衣裳の残照のように輝いていた。


 もらってきた青銅の大鍋は、近くの泉で千年分の埃をよく洗い流して煮込みに使うことにした。中庭にバーベキュー用の石板を載せる竈と、青銅鍋を据える竈を別々に設置した。そのあと食事の準備をするために、森に入った。必要なものは、大量の薪、窯用の石、串用の木などのほか、食用の草、きのこなどである。食材の肉は何にしようか。バイソンにするか。ファーフナ―に頼んで、子バイソンを1頭獲ってきてもらうことにした。


 さっそく、青銅鍋で湯を沸かす。青銅鍋を竈に据え、一番下に小石を敷き、その上で薪を燃やす。どんどん燃やす。そして、水を張った青銅鍋には、香草、根菜、きのこと子バイソンを適当に切って放り込む。味付けは、エルフの村でもらった岩塩だ。素朴な煮込み料理であったが、屋根のある住処とともに、僕の疲れを癒すには充分であった。


 翌日からは、本格的に本の解析だ。洞窟で発見した本には、ヒントになる絵が描かれていた。そこで、書庫の中で、まず1冊手に取り、最後のページを最初に開く。1冊目は「目」だ。目の横には、かすれた絵と、はっきりした絵がある。これは、千里眼か。便利そうだ。

 目の絵の下には、目の形をした宝石が嵌っている指輪がある。これとセットか。あとで探そう。こうして、僕はまず5冊を選び、5点の宝飾品を選んだ。


 超能力発動式を僕の身体にインストールするにも時間がかかる。だが慣れるに従い、従前より時間もかからなければ、身体も疲れないようになっていった。超能力の種類によっても違うようだ。次から次にインストールを実行する。

 食事は、大鍋を火にかけたまま、時々、肉や野菜を足して、それで済ます。時間が惜しい。元の世界に帰るためには時間の制約があるように感じている。少しでもこの身に力を備えなければ。


 こうして僕はただひたすら発動式を身体に記録した。千里眼、透視、探索、鑑定、予知のような眼力系、ワープ、アポート(引き寄せ)、浮遊のような移動系、観念通信、読心、催眠、記憶操作のようなコミュニケーション系、パイロキネシス(発火)、ウォーターフォール(空中から水を出す)、空中ポケット(ポケットのように物を空中にしまう)のような生活系、リカバリー、解毒のようなヒーリング、治療系、金属・素材の抽出、造形のような生産系、バリアーのような防御系、カマイタチ、エアーブレットのような攻撃系などが主なものだ。これだけ身に着けるまでに、ひたすら籠って1か月は経った。


 試してみないといけないので、ぶっ通しで住処に籠ったわけではない。そしてわかったのだが、使い慣れると、能力が増すようだ。発動のための装飾具も身から離せる。腕輪もなく遠目で見た場所にワープで移動できるようになった。

 近くの高い山の頂まで移動し、そこから平原のダチョウの群れを遠目で探す。いた!群れの後ろにワープし、エアーブレットで1発で倒す。

 右手を鉄砲の形にして人差し指を銃口に見立てて「ズドン」とやるだけだ。やり投げの格好でも、弓で矢を射るイメージでも何でも発動する。鉄砲のかまえは、僕のルーチンにすぎない。獲物を倒す格好をすれば、相手は倒れるのだ。本の絵では、平手を縦に振って獲物を倒していた。ダチョウは、元の世界のものの2倍はありそうだ。あっさりとしているが、香草と塩で焼くとなかなか美味しいので、最近は気に入っている獲物だ。ダチョウには気の毒だが。


 書庫の本は、すべてが超能力発動式のものではなかった。植物図鑑、動物図鑑、薬の調合法、儀式法、金属道具の製造法、各種鉱山の説明、鉱石の精錬法などの本が半分ほど混ざっていた。だがこれらも使えそうだ。

 僕は、空中ポケットを手に入れたので、書庫の本をすべてしまった。空間に穴をあけたということなのか。別の次元を作り出して、そこをポケットにしたのか。原理はわからないが、とても便利だ。ここを去るときには、本と財宝は全部、空中ポケットに入れて持って帰ろう。


 薬の調合法の本に目を通す。知らない言語で書かれているが、テレパシーの応用か、記載されている文章も僕が認識すると観念に翻訳されてその意味がわかるのだ。「読める」わけではなく、「わかる」のだ。

 早速、山に入り、薬草、薬根を探すが、至る所に繁殖している。大量に採取し、根が付いたまま空中ポケットに入れておく。ポケットの中では、物が傷むことはない。作るのは、ここを出てからでよかろう。ほかにやることがたくさんある。


 鉱山の説明本に目を通し、記載のある全ての鉱山を回る。ミスリル、金、銀、銅、鉄、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、ラピスラズリ、琥珀、翡翠、メノウなど、盛りだくさんだ。鉱山では、探査で優良な鉱石を見付け、その場で必要な部分を抽出してポケットにしまう。金鉱山では、金鉱石から純金を抽出して10kgの延べ棒を100本は作っただろうか。岩塩も集めた。

 こんな調子で、せっせと金属や宝石の原石を手に入れた。金細工もしてみたい。超能力で造形もできるので、あとが楽しみだ。


 遺跡の中では、さらに貨幣鋳造所のような部屋も見つかった。鋳造したミスリル貨、金貨、銀貨、銅貨は、厳重に保管されていたが、ミスリル貨と金貨以外は黒ずんでしまっていた。

 鋳造前のミスリル塊や金塊もあったので、それらと一緒にミスリル貨と金貨だけ持って帰ることにした。100%ではないようだが、かなりの純度だ。重量もそれぞれ300kgはありそうだ。


 あるとき、体長2mはあろう大きな黒と白のピューマがゆったりと体を揺らしながら中庭に入ってきた。つがいかな。ただものではなさそうだ。供え物が必要だな。その日仕留めたイボイノシシがあったので、それを一頭彼らに放り投げた。彼らは、それを悠然と食し、その日は帰っていった。どこかで姿を見かけたような気がするが、何処でであっただろう。思い出さないまま床に就いた。


 2頭のピューマは、それからも、時々ここにやってきては、お供えの獲物を食らい戻っていく。漆黒のピューマと純白のピューマか。絵になるね。段々馴れてきたので、今度来たらゆっくり話そうか。


 そうこうしているうちに、外では雪がちらつく季節となった。きれいに色づいた森も枯れ葉が目立つようになってきた。それにしても、赤と黄色で彩られた森の壮大な景色は見事であった。もう秋も終わりか。ここに来て、3か月も経とうか。


 そろそろここを出て、この世界の街に赴こう。エルフたちから情報は得ていたので、この世界の様子は、少しは予備知識がある。どうも、中世中期のヨーロッパのイメージだ。エルフやドラゴンがいるだけでも、言われなくてもそうなるだろう。


 ということで、空中ポケットに金銀財宝をざっくざっくと入れて、この遺跡を後にすることにした。ポケットには、色々詰め込んだよ。何でもいくらでも入るんだ。

 生きたままのダチョウの群れもそのまま入れた。恐竜やワニもバイソンもバッファローもその他もろもろの生き物も一杯収納した。大きな白頭鷲、純白のふくろう、ヒヒ、灰色狼のボスは、使役獣にして、それぞれ「オレール」「アウル」「パヴィアン」「ヴォルカ」と名前を付けて、中に納めている。木も水も草も岩も石も使えそうなものはすべて入れた。

 空中ポケットは、まるで、ノアの箱舟だ、いやそれ以上か。


 出発の準備をしていると、黒と白のピューマがやってきた。俺たちも連れて行けと言う。文字通り言うわけではない。態度で示すのだ。

 どうやって連れて行こうか。ファーフナ―に皆で乗るのはきつそうだし。この子たちも、空中ポケットに入れようか。ほかの動物たちも中にいるし。そこで僕は、たちまちのうちにポケットに2匹のピューマをしまい、そして大空に飛び立った。


 ふと下界を覗くと、王宮の門の左右に鎮座していたはずの石造の神獣がいなくなっていることに、今更ながら気が付いた。あぁ、彼らなのか。妙に合点がいった。黒には、「チェルニー」、白には「ベリー」と名付けよう。

 長年守った王宮を離れ、僕に付いていくと決め、それによって僕を、ここカピラティアの王位継承者と認めてくれた彼らに。


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