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7 ダンジョンボス、そして出発

 僕は、ポケットから椅子と机を取り出し、皆を座らせた。机には、料理を載せる皿とナイフにフォーク、それから塩を載せた小皿を置く。

 そして、すぐ隣の場所に、コンロを出してオリーブオイルがたっぷり入った銅鍋を載せた。それから、小麦粉をまぶした材料を取り出し、調理台に置いた。あらかじめ作っておいたのだ。今日こそ、天ぷらを揚げるのだ。この日を待っていた。


 タイ、イカ、アナゴ、サザエ、車エビに芋、人参、玉ねぎ、ナスなどの野菜も次々に揚げては、「塩を振ってたべてね。」と菜箸で皆の皿に載せていく。

「美味しい。こんな料理初めて。」といった声が聞こえる。サクサクに揚がっていて、皆、ハフハフしながら、揚げたてを頬張る。ダンジョンンの中であることを忘れるくらい、皆でたっぷり食べたよ。胃もたれをしないようにね。

 さあ、後はボス部屋だ。


 腹ごなしに、エビ、カニ、海サソリなどの魔物を蹴散らしながら、ボス部屋の前まで来た。

 ボスの情報は得ている。八頭の巨大なウミヘビなのだ。

 いたいた。ボス部屋に入ると、ヤマタノオロチのようなボス蛇と、一頭だが大きな従者ウミヘビが5体、獲物を待っていた。


 僕とマリエラは、羽毛マントで飛び跳ねながら、従者の毒ブレス攻撃を躱しつつ、斧や剣で刻んでいった。そしてそこには、黄金のリンゴがいくつもドロップした。さあ、いよいよボスだ。

 オロチは、切った首口を焼くか、再生する前に全部の頭を落とすかの方法しかない。

 ボスは、シュー、シューと二股に分かれた舌を頻繁に出したり引っ込めたりしながら、僕らの様子を窺っている。

『ヤマタノオロチは、酔わせて寝込んだところを刻んだんだよね。ここのボスでは、応用できないよな。』


 僕は、二丁斧を振りかざし、オロチに向かう。2頭、3頭、4頭と頭が同時に襲ってくる。そして、どの口からも毒素を吐く。斧は、その頭や首になかなか当てられない。

『毒素が、エリザベートたちのところまで漂ってくるとまずいな。なるべく急いで片付けないと。』

 そこで僕は、ここはチェルニーに任せてしまおうと、「チェルニー、ボスの首を噛みきって!」と命じた。すると、チェルニーが飛び出し、オロチと対峙する。そしてボスに襲い掛かり、その首を次々と嚙み切って回る。オロチは、反撃のためチェルニーに食いつくが、当然のことながら、まったく歯が立たない。チェルニーは、石で出来ているのだからね。それから僕は、噛み切きられたその首口に、順番に火炎球を纏わりつかせた。


 こうしてすべての首が焼かれたときに、ボスは、ドゥと倒れた。しかし、ほとんどチェルニー任せにしてしまったな。反省材料だ。

『宝物は何かな。』と宝箱を開けると、そこには黄金の宝剣が鎮座していた。オロチも尾から大刀が出てきたっていうからね。神器に値するよ。

 こうして、ホヴァンスキ・ダンジョンの第8階層の攻略を終えた。


 第9層に出て、ダンジョンの入口に戻った。いつの間にか、もう夕方近くになっている。

 僕らは、攻略証明をもらいに、当地の冒険者ギルドに寄った。ここは初めてだが、受付で冒険者証を出して、「8層を攻略したのですが、ホヴァンスキ伯爵のご子息とご令嬢も一緒なので、別室があれば、そこでお願いできませんか。」と申し出ると、すんなりと、奥の応接室に通された。

 そこで、ボスの落とした黄金のリンゴを出して待っていると、ギルドマスターと職員が1人、部屋に入ってきた。


 早速、「ギルドマスターのリヒャルトです。」、「アキラです。」とあいさつを交わす。

 リヒャルトは、「8階攻略ですか。それも、マルファ様とペトル様もご一緒なのですね。本日、8階を探索されることは、聞いておりましたが、まさか攻略されるとは・・・。」

 彼は、黄金のリンゴを手に取り、「見事ですね。半年前のパーティーも同じものを持ち帰りましたよ。しかし、その時は、20人で、5日かかっているのですよ。」と、あきれた表情を崩さなかった。


 そして、「ドロップ品の買取は、いかがしましょうか。」とリヒャルトが聞く。

 僕が、「まだ、分配が済んでいませんので、後日にいたします。本日は、攻略証明だけ発行してください。」と言うと、職員が、「しばらくお待ちください。」と部屋を出て行った。

 そのあとは、雑談だ。8階の様子、誰が戦ったのか、なぜこんなに速く攻略できたのか等いろいろ聞かれることになった。僕は、すべて本当のことを話したよ。

「噂どおり規格外ですな。アキラ様とマリエラ様は。」

 やっぱり、噂は流れているよね。どこのギルドでも、すっかり有名人だよ。


 僕らは、攻略証明を発行してもらって、馬車で伯爵邸まで戻った。

「お帰りなさいませ。」とメイドたちが迎える。表の声を聴いて、伯爵も外に出てきた。

 そして、「お帰りなさい、皆さん。マルファとペトルもお帰り。」と出迎えた。

『やっぱり、子どもたちが心配だったんだな。あたりまえだけどね。』

「どの辺まで行ったのかな。」と伯爵が微笑みながら子どもたちに尋ねると、ペトルが攻略証明を出して、「ボスを倒したんだよ。」とニコニコ顔で答えた。

 それを聞いて、伯爵は顔が強張り、しばらくの間、声が出なかった。


 伯爵もすぐに落ち着きを取り戻したので、僕らは、邸内に入り、広間でドロップ品を出して披露した。マルファとペトルは、戦いに参加したわけではないが、パーティーに参加した以上、分配はしたいので、真珠、鼈甲、黄金のリンゴやシャークの歯などをたっぷり分けてあげた。それから伯爵には、滞在のお礼として、宝箱から出た黄金の剣を差し上げた。

 伯爵は、剣を両手にいただき、とても感動していた。

 見事な剣だからな。きっと家宝になるね。

 それから、マルファとペトルには、作ってあげた短剣、鎧、兜、リングを、そのままあげることにした。防御や攻撃の能力が付与されているので、これらも家宝の価値はあるよ。


 翌日は、海を眺めてゆっくりと過ごそうと思ったが、伯爵の馬車を改造したり、新しい魚料理を伝えたりと、結構忙しく過ごした。魚も仕入れたしね。マルファは、ずっと僕に付き添っていたな。不思議な高揚感を感じたよ。

 そして、いよいよその次の日に、ここを発つことになった。5泊6日のあっという間の滞在であった。


 出発の日、早朝、皆に見送られてエドモンド領に向かった。

「また、新学期にお会いしましょうね。」とマルファの寂し気な顔が、僕にとって、忘れられない夏の思い出となった。また、夏が来れば思い出すんだろうな、この情景を・・・。それがセピア色に褪せるまで。


 ここからであれば、東北に斜めに走る街道があるので、そこを行けば、エルミナ亭があるフォルスター市にぶつかる。3日位の距離なので、案外近い。僕らは、馬車に揺られ、途中の街で接待を受け、3日後に無事、エドモンド領に到着した。

 僕とマリエラは、エリザベートを公爵邸まで送り届け、彼女の分のダンジョンのドロップ品を邸内に運び込んだ。そのあと、お茶を飲んでしばらく休んだあと、僕とマリエラは、出発前に購入していた僕らの拠点に移動した。実に3か月ぶりだ。仲良く手をつなぎ、その場からワープで、一っ飛びだったよ。

「姉さん、明日ダンジョンに潜ろう。」

「いいね。行こう。」

 こうしてまた、いつもの生活が始まった。


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