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4 海中散策

 伯爵邸は、今日で3日目だ。昨日立てた予定の通り、海に潜りことになった。僕とマリエラは、2日前に潜ったばかりだが、エリザベートもマルファもペトルも、本格的に海に潜ったことはない。当然だ。この世界には、まだアクアラングはないのだ。マルファとペトルは、さすがに素潜りは慣れているらしいが、1分潜っているのさえ大変らしい。


 『素潜りで、サザエやエビを取ったり、魚を銛で突いたりして、バーベキューにすると美味しいんだ。でも、元の世界では、漁業権があって、勝手にはできない。この世界ではどうなのかな。事実上、漁師たちに首を絞められるくらいかな。なにせ中世は、自力救済だからな。』


 今日は、小舟で沖まで出て、そこから潜る。皆で、浜でチャーターした小舟に乗り込み、沖に出た。

 船の上で、足ヒレを着け、兜をかぶった。前日、全員分を用意しておいたのだ。船頭が、一歩引いている。船から落ちないようにね。

 海中での会話は、念話のできるリングを使う。リングは、ダンジョンで多めにゲットしてあったので、マルファとペトルに貸し出した。皆で、リングを合わせる。

「リングを合わせた人同士で念話ができるよ。相手を思い浮かべて話かければいいからね。」

 これで、水中の念話は自在だ。

 さあ、潜ろう。僕を先頭に1人ずつ、海に入った。そして最後にマリエラだ。そして船頭には船を返させた。帰りは、クロノスに跨って帰るつもりだから、それでよいのだ。


 透明度が高い、きれいな海だ。魚が泳いでいる様子が見える。

 兜には、目は付いてないが、周りの様子は、そのまま色付きで脳裏に浮かぶのだ。

 『すごい!』『 きれい! 』『大きな魚が泳いでいる!』と皆の念話が聞こえる。

 しばらくの間、僕が先導して回る。海藻に隠れる魚、海底の岩場に擬態する魚、岩場の穴から顔を覗かせている歯の鋭いウツボなど、普段は目にできない景色に、皆、興奮気味だ。

 そして、『皆、こっちに集まって。クロノスを召喚するから、水流に気をつけてね。』と僕は、少し離れた場所に、クロノスを召喚した。


 海中に、身体が流されそうになるくらいの水流が起こる。巨大な海竜が登場するときは、このくらいのことは起こるものなのだ。

 皆で、召喚したクロノスの泳ぐ姿を眺める。海の王者にふさわしい。圧倒される感じだ。一昨日、自分と同じくらいの大きさのギガオクトパスを完食したので、大きな体が更に膨れている印象を受ける。ポケットの中では、消化も時間停止しているはずだから、食べたばかりってことだよね。


 皆も、水中遊泳が慣れてきたようだ。魚の後を追ったりしている。海底の貝も拾ってみている。

 『毒の針や鋭い歯を持った魚もいるから気を付けてね。』と注意を促す。オコゼやウツボのことだ。煮つけや唐揚げで食べると美味しんだけどね。でも、南方の海より危険は少ない。毒のあるウミヘビ、毒貝、毒タコなど、やはり南は、毒尽くしだ。大きなサメもいる。だが、ここでは、クロノスが見張っているので、サメもいたとしても近寄っては来まい。


 あっ、イワシの大群だ。目の前を通り過ぎる。マグロに追われているようだ。本当に、大きな塊になり、形を自在に変えながら、移動する。これでは、大きな魚でも、襲う気が失せるだろうね。

 僕は、そのイワシもマグロも、また、その辺を泳いでいたタイや車エビ、海底のロブスターやナマコや隠れていたヒラメなども、適当にバッグに収納した。岩場では、サザエとアワビも見付けた。海岸でバーベキューをするのに手ごろな獲物が多い。

 昼近くまで随分長く海中散策をしていた。獲物も十分なので、そろそろ帰ろう。バーベキューをするのだ。


 クロノスの背に、皆で跨り、浜まで戻った。砂浜に乗り上げたクロノスの背から、僕とマリエラで皆を海岸に降ろし、僕はクロノスを仕舞った。

 手ごろな場所を探し、バーベキュー用調理セットに食器類と椅子に屋根だけのテントを出してセットをした。僕は、歩くバーベキューセットなのだ。

 そして、大きな調理台に、イワシ、タイ、マグロ、ヒラメ、ロブスターにサザエとアワビを取り出した。そして、調理用のナイフと鋏もそこに置く。車エビとナマコは、別に調理しようと思い、仕舞ったままだ。実はこれも、とても楽しみなのだ。


 イワシは鱗と内臓とエラを取り、ロブスターは縦割り、マグロは大きいので赤みの部位を短冊切りにし、また、カマを分割して、よく塩を振り、コンロに載せた。サザエとアワビは、バターをたっぷり載せて貝殻のままコンロに置く。タイは鱗を削いで3枚卸にし、オリーブオイルにニンニクを加えて、フライパンでソテーをする。お頭と骨は、スープの出汁にするので、仕舞っておく。


 マグロとヒラメは、刺身にもした。以前入手した魚醤が醤油代わりだ。ワサビがないのが至極残念。塩でも美味しいはずので、試してみよう。

 おっ、ヒラメはコリコリ感が癖になりそうだ。大トロは、口に入れると溶けるように消えてゆく。すごい脂だ。いや、こんな上等の刺身が食べられるとは、思ってもいなかったな。こんな美味しいヒラメや大トロは、日本でも食べたことはなかったよ。

「アキラ様は、お魚を捌くのがとてもお上手なのですね。お国では、お魚が豊富だったのですか。」とマルファが言った。

『その通りなのだよ。でも、高級な魚には、手が届かなかったのだ。』

 僕は、ニコッと微笑み、黙ってうなずいた。


 魚が焼け、バターやニンニクの焦げる香りに、遊んでいた子どもたちが、お腹を空かせて寄ってくる。それから、何事かと様子を見に来た近所の人や漁師たちも招いて、新鮮な海の幸を存分に堪能した。屋外で食べるシンプルな料理って美味しいね。きっと、漁業権を侵害したな、ということにはならなかったんだ。みんな大喜びだ。

 漁師さんたちは、刺身をこわごわと口に運んでいた。生の魚を薄切りにして、塩で食べればいいんだよ。新しい食カルチャーが生まれるといいな。


 その日の夕餉は、貝のスープ、アワビのソテーに甘酸っぱいオレンジソースと、ロブスターのクリーム煮が供された。バーベキューと一味違って、洗練された味わいを楽しめて、とても美味しく感じた。

 食卓では、ペトルが海中の散策を、興奮気味に語っていた。夏のいい思い出ができてよかったね。絵日記に書いておくといいよ。


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