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3 海の街

 7月の夏の太陽の下、潮騒をバックに、潮風に吹かれながら海岸の砂浜を散歩するのは、とても気持ちがよい。ザブーン、ザブーンと波が打ち寄せては、引いていく。潮の満ち引きは、太陽と月が大きく影響するという。そして、この世界にも太陽と月があるので、同じように満潮、干潮などという現象もあるに違いない。


 僕、エリザベート、マルファそしてマリエラは、朝食前に、この海岸の砂浜を散歩している。

 『いいなあ。海岸に館がある家の娘さんなんて、魅力的だなあ。』などと、他愛のないことを考える。元の世界に帰らなければいけないことは制約だ。でも元の世界には、実の姉もいるし、バイトの予定も入っている。やっぱり帰らなくちゃ。しかし、この世界はとても居心地がよい。気持ちは揺れ動く。

 でも僕の気持ちが読まれることはない。別の世界なんて、誰も信じないからだ。


「アキラ様、きれいな貝殻。」とマルファが足元の貝殻を拾って、僕に見せる。小さくて優し気な手だ。顔が近付く。

 『可愛いなあ。』

「きれいな貝殻だね。」と、つい彼女の手をとって貝殻を眺める。ぬくもりが手に伝わる。

 そのあとに、マルファの目を見つめて、『君のようだね。』と言いたかったよ。

 僕は、エリザベートやマリエラが、2人の様子を眺めて面白そうな顔をしているのに、気が付くことはなかった。あとでマリエラにからかわれたけれどね。


 散歩から戻って朝食だ。テラス席でいただく。さわやかな海の風が通る。テーブルの上には、ゆでた魚肉ソーセージに、焼きたてパン、サラダ、果物とフレッシュジュースだ。ソーセージをパンにはさみ、トマトソースをかけて、かぶりつく。至福の時だ。あと、マスタードがあれば最高だと思いはするが。


「今日は何をされますか。」とマルファが尋ねる。

「潜って、海の中を散策したいと思います。」と僕。

「でも、それじゃエリザベート様がご一緒できませんわね。わたしもです。」と不満そうにマルファが言う。

『そうだね。エリザベートとマルファの分の兜を作って、海中散策は明日にするか。』

「わかりました。今日、お二人の兜や足ヒレを作っておきますので、海中散策は明日にいたしましょう。」と僕。そして、「そうだ、弟君のペトル君にも用意しますので、ご一緒しましょう。海中でクロノスをお目にかけましょう。」と提案した。

 こうして、本日は、街をご案内いただくことになり、このあと街の散策に出ることになった。


 街の海岸沿いは防壁がある。見張りの詰所もあり、兵士がいる。ということは、現役で稼働中か。海から攻められることがあるのだろうか。

「マルファさん、防壁は何のためにあるのですか。」と聞く。

 マルファは、「最近ではあまりありませんが、海賊が襲ってくることがあるのです。10年位前が最後でしょうか。帝国の取り締まりも厳しくなっているので、安心です。」と言う。

「10年前には、どんな攻防があったのですか。」とさらに尋ねる。ここに来て、戦闘は見ていないからな。実際あるのかと思ったのだ。


「はい。わたしもまだ幼いときで、避難しておりましたので、実際の戦いは見ていないのですが、海賊が100人くらい、2艘の船で突然攻めてきたそうなのです。領地の私兵で応戦し、幸いなことに、海賊は撃退できました。でも、浜には、多くの死者やけが人が横たわっていたそうです。」とマルファは教えてくれた。

『海賊が突然攻めてくるって、恐怖だな。でも中世のヨーロッパって、それが現実だったんだろうな。』


「ところで、海賊は、どこから来るのですか。」と、思ったことを更にマルファに尋ねる。

「一番多いのが、帝国の南方に拠点を置く海賊がここまでやってくることです。それから、ここから、ずっと西に大きな島があります。そこに異国があります。言葉も文化も異なります。その近海にも海賊の拠点があるのではないかと考えられています。」とマルファ。

『異国か。』

「その異国とは、交易があるのですか。」と僕はさらに聞く。

「南部のミナンデル伯爵領に1か所だけ交易が許されている場所があります。カルロネという港町です。」とマルファ。

『アレクサンドロスのところか。そういえば、彼も、それらしきことを言っていたな。』今、思い出す。そして、『江戸時代の出島みたいなものか。行ってみるか。』と僕は思った。行動が、人生を動かすのだ。


 そのあと、ぶらぶらと、街の中に入る。なかなか活気がある。でも昨日とは打って変わって、緊張感は抜けている。煉瓦造りの町並みは、中世後期といったところか。

「ここの産業は、漁業とほかに何がありますか。」と僕はマルファに尋ねる。

「はい、海上貿易が盛んです。南部から船で直接物資を運べますので、北部との交易の玄関口となっています。また、観光も盛んです。帝都から近いので、海を楽しむ人たちが多く訪れます。ダンジョンにも人が集まります。南部ほどではありませんが、塩も少し取れます。あとは、農業でしょうか。」とマルファ。

『そうか、船で南部に行けるんだ。確かに馬車に比べて、早いし荷物もたくさん積めるな。』

「あとで、船の出る港にも連れて行ってください。それにしても、なかなか豊かな領地のようですね。」と僕が言うと、マルファは、「はい。」と嬉しそうに答えた。


 港までは、徒歩だと時間が掛かるので、馬車を頼んで向かう。10分ほどで港に着いた。

『カラック船か。』

 コロンブスが新大陸を発見する航海に使った船に格好が似ている。ずんぐりした格好の帆船が何隻も停泊していた。荷をたくさん積めるようにできている。大きさはまちまちだ。全長30m~50mというところか。どこの世界でも似たようなことを考えるものだ。きっと、機能的なのであろう。


「カルロネの交易地まで、どのくらいかかるのだろう?」と、僕の口から思わず独り言が出る。

「順調にいって2週間はかかると聞いています。途中の港にも寄りますし。天候によっては、倍以上かかるようです。」とマルファが答えてくれた。

『結構かかるな。船旅で行く時間はないな。魔羽で飛ぶのが一番早いか。ファーフナ―で飛ぶっていう手もあるけど、また大騒ぎになっちゃうからな。』

 僕は、早速、ミナンデルに出掛けることを考えるのであった。


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