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4 皇帝とクロノス

 怪物退治の翌朝、僕は1人で皇宮に向かった。マリエラは、エリザベートの護衛に復帰だ。

「騎士団のグレゴリオさんに面会です。」と受付に元気に顔を出す。最近、よく顔を見せるので、名前は憶えられているよ。

「お待ちしておりました。アキラ殿。どうぞお越しください。」と、まず騎士団の団長室に案内される。

「アキラ殿をご案内しました。」

 僕は、団長室に通された。さすがに団長室だ。広くて立派だ。団長らしき人が、机に座って仕事をしていた。

「アキラ・フォン・ササキです。グレゴリオさんに、昨日のご説明を要請されました。」と僕はあいさつをする。

「皇帝騎士団団長のアルノルドです。ご足労、恐縮です。どうぞこちらに。」と団長は、丁寧に、僕を応接のソファに座らせた。


 団長は、自分も対面に座り、「先日は、騎士団が失礼をいたしました。おかげさまで、ハイネスは、すぐに復帰し、以前と変わらず仕事に励んでおります。いや、以前より謙虚になったという報告を受けています。アキラ殿のおかげで、彼も一皮むけたようです。」とお世辞を言う。そう気を使われると、逆に居心地がよくないね。


「早速ですが、昨日の怪物退治の件を教えていただきたいのですが。グレゴリオはじめ、あの場にいた者どもの報告を聞いても、まったく状況がわからないのです。怪物を退治したという確証がないのです。」と団長。

 まあ、そうだよね。証拠物は、僕の空気ポケットの中だからな。「いない」という証明は難しいよね。


「まず、僕が空中からテイムをして、クロノスと名付け使役獣にしました。クロノスは、遠くの海に棲んでいたそうですが、仲間とはぐれて、カイン河に迷い込んだそうです。ほかに仲間はいません。それから、そのままにしておくわけにはいきませんので、僕が仕舞ってしましました。以上です。」と僕。


 報告内容は簡単だ。何でそんなことができたかの説明は厄介だけどね。

「クロノスは、見せていただけるかな。人間を捕食している危険動物なので、駆除しないといけないからな。」と団長。

「見せてもかまいませんが、駆除はいけませんよ。僕が拾ったんですから、僕が責任をもって飼います。」と僕。

「そうは言っても、帝国にとって危険なものは、駆除が当然だ。」と団長。


「では、牛を食する人間は、牛に駆除されても文句はないということですか。要は、力関係ですか。だったら、ご自分で戦えばよいでしょう。僕に退治する責任があったわけではありません。ただ、ペットにしょうと、捕まえただけです。手を引きますよ。クロノスをカイン河に返しますが、その後みなさんで戦って、駆除とかしたらいかがですか。」

 と一気に話す。よくしゃべったね。少し感情的になっちゃたよ。騎士団とは相性がよくないのかな。


 そして、「カイン河の怪物がどうなったのか、僕は知りません。さっきの報告は妄想でした。今日は、帰ります。」と僕は席を立った。

 すると、「落ち着いてくれ。ちょっと待ってくれ。」と団長があわてて僕を引き留めた。

『落ち着きをなくしたのは事実だけどね。冷静にならなくちゃ。』

 団長は、「少し、別室で待っていてくれまいか。上層部にお伺いを立ててくる。」と僕に告げ、僕を係の者に別室に案内させたあと、難しい顔をして、いずこかに出掛けて行った。


 そのあと、団長は皇帝に直接報告をしていた。この怪物案件は、国の重要事項として、皇帝も人任せにできなかったということもある。昨日、団長と副団長から報告を受けたときに、アキラが出頭したら自分に会わせるようにと申し向けていたということもある。

 いずれにせよ、皇帝は、団長から経緯を聞き終わった。

「そうか。面白いやつよのう。ドラゴンを使役していると聞く。神獣も見せてもらった。怪物が1匹加わってもさしたる違いはなかろう。よい。謁見の場に連れて参れ。」と皇帝。

 団長は、皇帝の命を携えて、アキラが待っている応接室に向かった。


 皇帝陛下が謁見されるということで、僕は、謁見の場に招かれた。先に皇帝が玉座についている。

 すると、皇帝がおもむろに口を開く。

「昨日の働きはご苦労であった。」とまずは労う。

「空を飛んだというのか。ここで、飛んで見せることはできるか。」と尋ねる。

 僕は、「はい、仰せのままに。」と言って、魔羽を取り出し背中に装着する。そこには、天使のような姿の僕が現れたので、皆、驚き顔だ。


「それでは、飛びます。」と僕は断って、翼を羽ばたかせ、その場でふわりふわりと浮いてみせた。

「見事なものだな。もう降りてよいぞ。羽で飛ぶ人間は初めて見たぞ。」と皇帝の機嫌はよい。

 続けて、「誰でも飛べるのか。」と尋ねる。

 地上に舞い降りた僕は、「魔力を消費しますが、基本は誰でも飛べるはずです。」と答える。

 皇帝が「自分も」と言い出さないか、ひやひやしたが、それはなかった。


「昨日の怪物は、クロノスと名付けたそうだな。見せてはもらえぬか。」と皇帝は次の話題に移る。

「はい。ただ、巨大な体躯をしていますので、ここで出すのは不都合です。騎士団の練習場でお目に掛けましょう。いかがでしょうか。」と僕。

 結局、皆で練習場に移ることになった。準備があるので、しばらくの間、待機だったけどね。


 さて、皆は、練習場に再度集合した。ただ警備の人員はかなり増えていた。第一皇子も顔を出している。

「早速、出させていただきますが、お願いがあります。僕の使役獣になっていますので、とても大人しくなっていますが、決して攻撃をしないでください。」

「皇帝陛下の御前ですので、生物の防衛本能を刺激して、危険なことが、万が一にでも起こらないように、十分にご注意願いたいのです。」と僕が口を開く。

 皇帝は、「もっともだ。皆の者、決して攻撃、またはその素振りをしないように。」と理解を示す。


 ほっとしたよ。いい機会だからって、ここで戦ってもらっては困る。もっとも、丘に上がったクロノスにさえ、これだけの人数でも勝てないだろうけどね。心配なのは、騎士の方だよ。ユニコーンのポーションだって、安いものじゃないんだからな。

「それでは、出します。皆さん、下がってください!」

 一息置いて、「クロノス!」と呼ぶ。

 するとそこに、小山のように巨大な海竜が姿を現した。


 全長30mの巨大な体、大きな頭、大きく裂けた口、鋭くて長い歯、太い胴、前後2組の立派なヒレ脚、クロノスの名にふさわしい海竜だ。皆、息を呑んでいる。

 僕は、クロノスの頭部に近づいた。顔には到底届かない。高さは、10m位はあるか。そこで、口の下部を撫でながら、こう言った。

「口を大きく開けて。僕が入るけど食べないでね。」


 クロノスは、大きく口を開く。5mもある頭部だからな。開くと迫力満点だよ。そこに僕が入り込む。そして、そこに生えた鋭い歯を中で握って回る。

「ほら、大人しいものです。これからは、決して人は食べません。」と、驚愕の顔を崩さない皆に向かって言い放った。

「誰か一緒に入りますか。」と聞いたが、誰も名乗り出なかったね。


 皇帝は、「見届けた。これにて、カイン河の怪物は、アキラ殿によって退治され、カイン河は無事通行が可能となったことを、正式に宣言する。アキラ殿には、追って褒美を遣わす。」と宣言し、本日の謁見は終了した。

 僕は、クロノスを収納し、屋敷に戻った。


 翌日、学園に行くと、アレクサンドロスが「おい、聞いたか。カイン河の怪物は、空からやってきた2人の天使が、連れて行ったらしい。」と僕に話をする。

 大筋は正しいんだけね。「天使」ってところがなぁ。説明がつかないから仕方ないよね。

 それから、「天使っていうのは、大きいのと、小っちゃいのだったらしい。」と付け加えた。

 関係ないだろ。知らないとはいえ、本人に向かって言うなよ。余計なお世話だ。


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