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3 カイン河の異変

 帝国騎士団の訓練から数日後、僕は、学園の生産・流通のクラスにいた。そこに息せき切って入ってきたのは、アレクサンドロスだ。

「大変だ! カイン河に怪物が出て、筏が馬車ごと食われた。今朝のことだそうだ。河の往来が完全に止まっている。」

 早耳だね。さすがに情報通だ。カイン河を渡らないと、南部との流通は途絶えることになるので、南部の領地にとっては重要な問題だ。河のかなり上流にいけば、橋はあるが、相当の迂回路で経済的ではない。


「国は、どうするつもりだい?」と尋ねる。

「軍隊が出動することになるが、大河の中だから、軍船を出して退治するのだ。」とアレクサンドロス。

 『カイン河は、大きな川だから、簡単には見付けて退治できないだろうな。それに、馬車ごと食らうことができる怪物って、相当巨大だよ。きっと、犠牲が出るし、時間が掛かるな。午後、姉さんに休みを取ってもらって、一緒に退治に行くかな。』

 と思っているうちに、講師がやってきて授業が始まった。


 丁度、流通の授業だったせいもあるのか、講師からもカイン河の出来事の話があった。

「南部との流通が止まると、帝都では、南部の特産品である木綿、香辛料、甘味、オリーブ、塩、タバコなどが不足し、価格が高騰するうえ、南部では、帝都を通じて北部からの物資が入ってこなくなるので、北部の特産品の価格が高騰することになります。また、帝都に売るはずだった物品がだぶつき、価格が下がって、南部の生産者は大変です。」と講師。

 なるほど、帝都の商人は、価格の高騰を待って、既に売り惜しみをしていることだろうね。

 それにしても、怪物って何だ。興味がある。やっぱり午後にでも行ってみよう。


 僕はマリエラと念話で話しをすると、彼女はすぐにエリザベートと念話で話をして、午後は、オフにしてもらった。

 さあ、早速出発だ。

 僕らは、グリフォンの魔羽を背中に着けて空高く舞い上がった。そしてそのまま、カイン河までまっしぐらだ。


『高度が高いので、地上からは、あまり気付かれてはいないね。』

 僕は、マリエラと念話で対話をする。今回は、どのみち気付かれるけどね。

『もうすぐ着くね。』

 魔羽は、結構な速度が出る。おっ、カイン河が見えてきた。

『どこに降りようかな。』と思っていると、『あれは、皇帝の騎士団じゃないか。』

 召集されているんだな、きっと。

 遠目を使ってみると、都合よく、副団長のグレゴリオの姿が見えた。

『姉さん、あそこに降りるよ。騎士団のところ。顔見知りがいる。』

 そしてその場所に、2人でふわりと舞い降りた。


「グレゴリオさん、アキラです。先日は、お騒がせしました。」

 騎士たちは、僕らを見て騒めいている。剣を構えようとする者もいたが、別の騎士に「味方だ。」と抑えられる。顔見知りが多いからね。味方って知っている騎士たちがいると面倒がない。

 グレゴリオは、声を掛けられても、一瞬声を出せない。

「ア、ア、アキラ殿。一体どうされた。」と、ようやく声を絞り出す。

「学園の先生から怪物が出たって聞きましたので、退治のお手伝いをしようかと思いまして、飛んで参りました。」

 文字通り飛んできたのだよ。


「怪物は、どこにいるのですか。」と聞くと、船に肉を積んで、おびき出そうとしたところ、船がバキバキに齧られ、肉を持っていかれたそうだ。乗船していた兵士も何名か餌食になってしまったらしい。凶暴だ。

 容易に船も出せないうえ、敵は水中にいるので、武器も魔法も効果が薄く、どうしたものかと攻めあぐねているとのこと。案の定だね。

 僕は、「わかりました。上空から攻めてみますので、僕らを撃ち落とさないように、軍にも伝えておいてください。」と言い残して、マリエラと川の上空に飛び立った。


 カイン河の上空に飛び、あちらこちら、しばらく回って偵察していると、いたいた、水中に大きな影が見える。巨大なワニみたいなやつだ。でももっと大きくて太い。前後のヒレ脚が水面に映っているが、2mもの長さで幅広だ。全長は、30mはあるかな。シロナガスクジラ並みだ。でも頭部だけで5mもありそうだな。

 これじゃ、馬車なんて一飲みだ。昔、恐竜の図鑑で見たクロノサウルスに形が似ているような気がする。

 『僕の使役獣にできるかな。伏せが効くかもしれない。ドラゴンのファーフナ―でも使役できたしな。』と、マリエラに作戦を伝えた。


 僕は、バーベキューパーティーを開くために買っておいた、とっておきの黒毛牛の骨付き腿を、ポケットから取り出し、縄で結わえ、マリエラに渡した。これは高級品だから、美味しいはずだ。怪物もきっと掛かるぞ。

「姉さん、これで釣って。川からジャンプしてくるから、あまり近づかないように気をつけてね。」と注意を添えた。

 僕とマリエラは、怪物の鼻先まで飛んでいき、マリエラが牛腿を垂らした。

 と、ウグワァーンと巨大な口を開き、鋭い歯をさらしながら、怪物は、勢いよくジャンプし牛腿に食らいつく。そして、バックーンと、口を閉じるときの迫力のある音が聞こえた。

 いまだ。「伏せ~~~え。」と、僕は怪物に向かって叫ぶ。

 怪物は、ドッボーンと空中から勢いよく川の中に落ちた。


 『どうだったかな?』と思って水面を見ていると、そこに怪物が水中から頭を出した。そして、僕を見て、その頭を垂れる。

『成功だ。』

 僕はおもむろに「お前をクロノスと名付ける。これからは、僕の使役獣だ。言う事を聞くように。」と偉そうに伝えた。クロノスって、巨神族の長だよ。相応しいだろ。

 そして、どうしてこんなところにいるのかを聞いた。会話ができるわけではない。クロノスは、グワグワ鳴いているだけだ。だが、意は伝わるのだ。わかりあえるのだよ。言葉じゃないね、伝えようとする意思だよ、重要なのは。


 それにしても、口を開くと、すごい歯が並んでいるのが見える。長いのは、50cmもありそうだ。それが、大きな口にサメのように並んでいるのだ。随分と迫力のあるグワグワだ。

 だが聞いてみると、クロノスは、遠くの海に棲んでいたが、仲間とはぐれて、この川に迷い込んだとのことだった。クロノスはクロノスでお腹がすいていたんだな。この川の大きな生き物って、川イルカとか大鯰くらいだからな。この大きさじゃ、大タコや大イカでも食べないと、お腹が持たないだろう。

 いずれにせよ、お騒がせだな。しかし、このままクロノスをここに置いておくわけにはいかないので、僕は、『しばらく、僕の空気ポケットに入っていてね。お腹もすかないからね。』と言って、とりあえずポケットに収納した。


 怪物は、一回派手にはねた後、水面から顔を出し、そして僕とグワグワ話らしきことをしてから、急にいなくなってしまった。川岸から様子を窺っていた人たちは、さぞかし驚いていることだろう。

 2人の天使が、川で暴れた怪物を天に返したのだよ、ということにしておこう。

 さあ、騎士団のところに報告に戻ろう。


 グレゴリオが待っていた。

「終わりました。もう安全です。」と僕。

「どこに行ってしまったんだ、怪物は?」と聞く。

「クロノスっていう名前を付けて、僕が仕舞っちゃいました。もう川にはいませんよ。」

「仕舞った・・・?」グレゴリオは、何を言っているのかわからんという顔をした。そして、「皇帝に報告に行かなければならないので、一緒に行ってくれるか。わしでは、説明ができん。」と僕らに頭を下げた。

「いいですよ。今からでは遅くなるので、明日朝、皇宮にお伺いします。」と答え、騎士団と別れて、大空を羽ばたきながら屋敷に戻った。


 『空から、たった2人で怪物を退治して、その怪物をどこかに仕舞ったというのか・・・』

 グレゴリオは、怪物を退治した証明が自分にはできないと自覚し、深くため息をついた


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