4 第2回審問
第2回審問の呼び出しがあった。この間、調査官が僕の屋敷にやってきて、縄を使って畑の測量をした。いくら縄が伸びても課税面積の10アールには到底届かない。
うちの薬草は、人の背丈ほどもある。その太い幹から多くの枝が長く伸び、それに葉が生い茂っているのだ。栽培面積などそれほどいらない。ポーションに必要な葉は、1本の茎から山ほど採れるのだ。草よりも木に見える。
屋敷の庭には、大きくて身が詰まっているトマトやズッキーニ、キャベツ、ネギ、芋、ハーブなど自家費消の野菜を作る畑もある。元気に育った野菜には、虫も寄り付かない。オレンジなどの樹にも大きな実がたわわに実っている。
これらの畑には、ダンジョン産の肥料を与えてあるのだ。以前は、魔石と魔法陣を設置していたが、肥料がドロップしてから、それを利用して土壌を改良した。魔法陣を介した魔力供給より肥料の方が直接的で効果的だ。
2回目の呼び出し状には、ミスリル塊や金塊の件と耕作登録の件は、告訴を取り下げたとある。調べればわかるのだから、そもそも訴えが杜撰だよ。だが、王族詐称の件は、審理が続行する。
呼び出し状に、王位継承者であることの証拠があれば持参されたいとある。
『何を持っていけばいいかな?』としばし考え、『よし、そうしよう。』と僕は決めた。
審問の日だ。執事にアンナとエルザを伴い、馬車で代官所に向かう。彼らには、今日のために、証拠品の荷物を運んでもらっている。入口で案内をされて、前回と同じ応接室に通された。しばらくして、呼ばれたので審問室に入る。前回と同じ顔ぶれだ。僕も前回と同じ席に着く。
さあ、審理の始まりだ。
早速、代官が口を開く。
「アキラ・フォン・ササキ殿に対する無許可採掘と無登録耕作の訴えは、取り下げられたので、本日は、王族詐称の件を審理する。」
そして、「本日は、王族であることの証明は持参されたか。」と聞く。
僕は、「その前に質問がございます。無許可採掘と無登録耕作の訴えは、取り下げられたとのことですが、調べればすぐにわかることなのに、なにゆえ、その労を厭い、人を罪に落とすようなことをされたのでしょうか。」と敢えて尋ねる。
代官は、告発人のグレンタール男爵の代理人に向かって尋ねた。
「答えることができるか。」と。
「物事の道理を超えるものではございません。」と代理人は立ち上がって答える。
ごまかすつもりかと僕はさらに尋ねる。「私はそのことで迷惑をしております。男爵はその迷惑をどのように償うおつもりでしょうか。」と。
「誠実に職務を遂行しているまでのことです。」と代理人。
埒が明かない。男爵には、あとで天罰を下そう。
僕は、エドモンドのダンジョンの15階層で手に入れた、王冠、王杓、マントの王様三点セットを、同行した御側付きのアンナとエルザから受け取り、身に着けた。そして、代官に向いて、発言した。
「私は、このような身分の者です。」と。王様三点セットだよ。カラティアでも手に入れたけど、1200年経って、マントは見る影もなくなっているからな。バージョンアップだ。
代官たちは、その神々しさに目を見張る。トリケラトプスを倒すのと引き換えだからね。それは豪華だよ。誰も見たことがないはずだ。姉さん以外はね。
代官は、男爵代理人に問う。「代理人、意見は?」
代理人たちは、しばらくの間、横向きにひそひそと相談し、1人が立ち上がる。
「鑑定をさせていただきたいのですが、代官におかれては、王冠、王杓、マントの3点の留置を求めます。」
僕は、「異議あり。」と立ち上がる。そして言う。
「失われれば、国の歴史が途絶えるような宝物の留置を認めることはできません。」
代官は、横にいる議員たちと言葉を交わし、僕と男爵代理人に対し「しばし休廷する。王宮の上級鑑定人を呼ぶので、準備ができるまで待たれよ。」と宣言した。
鑑定するつもりだね。受けて立とうじゃないか。僕らは、いったん待合室に退いた。
しばらく待っていると、僕は呼ばれた。審理の再開だ。
審問室に入ると、見知らぬ人が3人ほど控えている。きっと鑑定人だな。男爵の代理人たちは、既にいつもの席に座っている。そこで僕も、先ほどと同じ席に着く。
代官が「審理を再開する。」と宣言し、「鑑定人前へ。」と控えていた人たちを呼ぶ。
そして、「アキラ殿、王冠、王杓、マントを鑑定させてはいただけないか。」と僕に尋ねる。
僕は、「結構です。」と発言し、3点セットを鑑定人たちがいる前の机に載せ、いったん席に戻る。さあ、鑑定の始まりだ。
3人の鑑定人は、厳しい顔をしながら、それぞれ宝物の鑑定を始める。3人は、小声で言葉を交わしながら、鑑定を続ける。5分、10分と時が経つ。と、1人が発言する。
「代官、鑑定人だけで別室で協議をしたいのですが、よろしいでしょうか。」と。
代官は、「どのくらいの時間が必要か。」と尋ね、数分という返事であったので、別室協議を許可した。鑑定人たちは、別室に移り、数分経って戻ってきて、代官に結果を伝える。
「いずれも王が持つに値する真の宝物です。」
「王冠は、純金で作られ、嵌め込まれた宝石は、類を見ない大きさと透明度です。きずや濁りは一切ございません。」
「王杓は、ミスリルと純金でできており、飾りの宝石類には同じく、きずや濁りはございません。」
「マントは、金糸、ミスリル糸で縫い上げられ、この国には存在しない方法で製作されています。」
「そして、そのすべてに、身に着けた者を保護するための魔術の付与がされています。毒にも攻撃にも相当程度耐えられます。」
と、鑑定人は口々に結果を述べた。
『圧勝じゃないか。』と僕は思う。さて、告訴人はどう出るかな。
と思ったら、鑑定人は最後に一言添えた。
「ただし、ダンジョンで生成された可能性はあります。」と。
僕は、『指摘のとおりだよ。振り出しに戻ってしまったじゃないか。』と頭を抱えた。
しかたがないので、僕は、「代官、発言があります。」と発言許可を求める。
これに対し「許可する。」と代官。
そこで僕は、おもむろに「実は、皇帝陛下に謁見の際、陛下から『確かに王族としか考えられない。』とのお言葉を頂戴しました。それにもかかわらず、私が王族を詐称しているとの訴えは、陛下のお言葉を否定するものであり、不敬罪となるのではないでしょうか。帝国の立場で、このような矛盾した訴えは許されません。」
僕は「皇帝の権威」という切り札を出した。
代官は、僕の意見に対し「もっともだ」という顔をして、訴追官のグレンタール男爵代理人に「代理人、意見は?」と尋ねる。
謁見の場面は大勢が目撃しているからね。「知らない」では通らないよ。
しかし、代理人は「陛下のお言葉は伺っておりますが、断言されたものとは理解しておりません。ここまでの証拠以上の証明資料は出てこないものと思われますので、アキラ殿のご主張の真偽を確かめるため、神明裁判を申し立てます。」と述べた。
『うん、神明裁判? 何だそれは?』
代官は、僕に向けて説明する。「神明裁判とは、天が真実を判断するものである。人にわからぬものは、天に聞くしかあるまい。本件においては、決闘裁判が妥当である。」そして、アキラ殿、受けて立たれるか。」と僕に意見を求める。
選択肢はないよねと思いながら、「決闘裁判とは何でしょうか。」と尋ねる。
「決闘裁判とは、当事者またはその指定した代理人が、相手方またはその指定した代理人と決闘をすることによって真偽を確かめるものである。グレンタール男爵の指定する代理人とアキラ殿またはアキラ殿が指定する代理人と決闘をすることになるが、いかがか。」
裁判って所詮闘争だからね。道具が、剣になるだけだ。いいよ、受けてやろう。
「天地神明に誓ってやましいところはございません。お受けします。」と僕は答えた。神なんて信じてないけどね。異世界転移なんて理解できない現象はあるけど、神の仕業ではなかろう。僕が選ばれる要素はまったく思い当たらないのだからね。偶然だよ。自然現象だ。
「それでは、追って呼び出す。これにて閉廷。」と代官は閉廷を宣言した。