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2 洞窟

 旅の6日目。朝から本格的な雨だ。これでは飛べない。仕方ないから洞窟内でゴロゴロする。奥を覗くと、洞窟がずっと続いている。せっかくだから探検することにした。ファーフナ―にとって雨など関係ないので、外で好きにさせておく。僕は、右手に枝を削った杖、左手に油をしみ込ませたぼろ布を木に巻いた松明を持って、奥に向かって進んでいく。


 長い洞窟であり、杖を使って足元の岩に気を付けながら1時間ほど進んだ。所々、岩の隙間から外界の光が入ってくる。完全な閉鎖空間ではなさそうだ。蝙蝠が飛んでいる以外には何もない・・・と思ったところ、ふと光るものが目に入った。金色の光を返す腕輪か、近づいてギョッとした。うっ、どくろだ。そこには、人骨が砂礫に埋まって横たわっていた。


 自然の埋まり具合を見ると、きっと数百年から千年も前のものであり、遺骨ではなく埋蔵文化財というべきものか。どうしてこんなところにあるのだろう。一人きりで洞窟に住んでいたのだろうか。それにしても、腕輪は、幾年月を経ても輝きを失わない相当純度の高い金でできていると思われ、また、ルビーだろうか赤くて大ぶりな宝石がいくつも埋め込まれ、複雑な装飾の模様が刻み込まれている。


 ルビーはアミュレット(護符)、災厄防止の呪力が込められたもの。しからば、模様も意味があるのか。見るからに意味ありげな代物だ。王族か、それとも盗賊か。しばらくその場を観察してみると、興味深いことがわかった。そこは、・・・一つの部屋であった。


 その部屋は、長い年月、洞窟に吹き込んだ小石や砂が溜まり、住人がいた当時から、おそらくは1m程度は床の位置が上昇しているものと思われた。1年に1mm積もっても千年経てばそうなる。よく腕輪が見つかったものだ。元の住人は、他に何を持っていたのであろう。杖を地面に刺して、その辺を探ってみる。うん?何か手応えを感じた。


 砂を掻いて掘り出してみる。本か・・・。大きくて重い、紙ではないな、羊皮紙か。年代物であることは間違いない。その部屋は、松明を置いても字が読めるほど明るくはない。とりあえず、腕輪と本を持って帰ろう。僕は、その場を後にして、洞窟の入り口まで戻った。


 明るいところで、腕輪と本を眺める。あらためて、腕輪の素材と造形の見事さに息をのむ。ルビーは等間隔に5つ配され、網目のような模様は、記号か文字のようにも見える。意味のある内容が彫り込まれているのだろうか。何だか古代の呪術具のような印象を受ける。


 腕輪を置くことを忘れ、右手で重たい本の表紙を開く。うん、何か反応した?その時、腕輪と本が僕を媒体にして繋がったかのように感じたのだ。僕の頭に意味不明な記号のような文字のようなイメージが途切れることなく流れた。身体が痺れて動くこともできず、僕はそのまま気を失った。


 何時間過ぎたことだろう。気が付いたときは、洞窟の外はすでに暗く、ファーフナ―は僕の傍らで寛いでいた。飼い主のことなど気にする様子はない。そんなものだろう。実に平和な風景である。僕は昼も食べずに気を失っていたらしい。疲労感が残るので、何が起こったのか考える気力もなく、その辺の料理の残り物を少しだけ口に入れて、その日はそのまま眠りについた。


 旅の7日目。薄暗いうちに目が覚めた。昨日のことを思い返す。何だったのだろうか。本を開いてみる。1枚1枚頁をめくる。全部のページが意味不明の記号か文字の羅列だ。ところが、最後の頁には、右側面から見た足を踏み出す人の絵が左右にあった。用いる言語にかかわらず、絵であれば、ほぼ共通だ。


 この絵は何だろう。右手に腕輪をつけている。着ている服は民族衣装か。やはり布を巻き付けた服装のようにみえるが、エルフたちのものとは、着付けが違う。移動したことを言いたいようであるが、途中を影で表現している。どういうことだろう。


 腕輪を見付けた部屋に何かヒントになるものが隠されていないか。もう一度戻ってみよう。と、腕輪と本は置いたまま、松明と杖を持って奥に向かって足を踏み出したときに、それは起こった。うん?何だ、上げた右足が地につくと、もうそこは、その部屋であった。テレポテーション?と、元の世界で聞いたことがある。


 これだけの状況が重なると、僕でなくとも原因はわかる。昨日発見した本は、テレポテーションの発動式の記述書であり、腕輪を媒体としてその発動式が僕に複製されたのだ。イメージしたところに転移できるのか。距離はどのくらいまで可能なのだろう。原理は何だ。まさか僕が粒子になるわけではなかろう。ワープのように空間を歪めて移動するのか。宇宙家族Rみたいに、うっかり知らないところに飛ばされるとたまらないな。使い勝手の検証はこれから徐々に進めよう。楽しみが一つ増えた。


 それにしても、何でこんなところに、こんなものが?その部屋は、昨日より念入りに探してみたが、ネックレスのような金製品の壊れた残骸を見付けただけだった。

 もうここは出よう。


 少し遅くなったが、残り物で朝食をとり、ファーフナ―に跨って出発した。さらば、大昔の超人よ。あなたはいったい何者だったのだ。たった一人で、千年もの間、宝物を見付ける誰かを待っていたのか。色々考えながら、3時間くらい飛んだ。


 昼時になったので、小高い岩山で一休みだ。ファーフナ―を自由にさせ、僕はいつものとおり、残り物をかじり、昼寝をする。しばらくして目覚めて気が付いた。そうだ、テレポテーションの検証をしてみよう。まず、さっきの洞窟のその部屋まで戻ってみようと思った。100kmくらいあるか。右足を踏み出す・・・何も起こらない。なぜだ。距離か。腕輪をはめると距離が延びるとか、そんなことあるかな。何事もトライ・アンド・エラーだ。


 試しに腕輪をはめ、洞窟の部屋をイメージして、一歩を踏みだす・・・・あの部屋だ。来た。せっかく、さっき「さらば」をしたのに。感慨が薄れるよ。あっ、しまった。ファーフナ―を置いてきちゃった。早く岩山に戻らなくちゃ。と、戻る。成功だ。だが副作用か、昼寝をしたばかりなのに、もう疲労感がある。

 長距離は、ちょっとハードルが高そうだ。慣れれば疲れないのかな、何でも初めてのことは緊張して疲れるものだ、などと思いながら、後半の飛行の準備をする。


 後半は2時間くらい飛んで、野営だ。適当な空き地を見付けて、空から降りる。自分の分の狩りは滅多にしないので食材も残りわずかだ。夕食を適当に済ませて早めに寝る。目的地まで目分量だが、あと100~200kmくらいか。早ければ、明日には着くか。いよいよだ。


 旅の8日目。天気は良い。早く起きて出掛ける。最後の頑張りだ。今日は思い切り飛ぼう。前半は、4時間ぶっ通しだ。その辺の一番高い山の頂に降り立つ。東の方を望めば、眺めの先に、霞にけむった平原がどこまでも広がり、その先に、山々が連なる。

 目的地は近いという予感。昼は早々に切り上げ、あとの行程を急ぐ。落ち着いてはいられない、この高揚感。3時間は飛んだか、眼下には、平原が大きく広がり、動物たちで満ちている。北の大地に動物の楽園か・・・。


 バイソン、鹿、馬、マンモスらが草を食み、サーベルタイガー、豹、ウルフ、巨鳥らがそれらを狙う。大型のトカゲまでいる。恐竜か。どこか安全そうな川の近くに降り立ち、テントを張る。今夜は、新鮮な獲物を食べたいな。ということで、まず川に行ってみる。水場には、多くの動物が集まる。早速1匹のカモシカが水を飲んでいるところに出くわした。


 手ごろな獲物かな、と思ったとたん、川から巨大なワニが飛び出し、1口でカモシカを咥えて水の中に潜っていった。獲物を咥えるときの「バクン」という音もすごい迫力だ。全長は、優に10mはある。白亜紀のワニは12mもあったそうなので、それに近いスーパークロコダイルだ。実験するわけにはいかないが、あんなのに噛みつかれたら、僕の身体でも危ういのかな。


 可愛くないやつに晩御飯を横取りされちゃった。しかたがないので、夕食は、ファーフナ―に野生の羊を獲ってきてもらい、バーベキューにした。その夜は火を盛大に焚いて、獣たちから身を守って寝る。ただ、これまでもそうだったけれど、野生の動物はなぜか僕に近づくことはなかった。ファーフナ―がいるからか、僕自身が持つ加護のゆえか、原因はよくわからない。


 旅の9日目。さあ、今日は、目的の遺跡を見付けるぞ、と勇んで早起きをした。周りでは、時すでに動物たちが、ブオー、ブオー、ガオー、ガオーして、とても寝られたものではなかったこともあるが。昨夕焼いた肉を頬張り、テントを畳んで、ファーフナ―と飛んだ。


 上空から、目印となる巨大な火口を有する山を探す。すぐに見つかる。これは巨大だ。太古に大噴火があったらしく、陥没したカルデラと外輪山を有し、また、大きな湖がある。湖から、真っ白い大型の鳥が、幾百、幾千と一斉に飛びたつ。何と壮観なのだろう。息を呑むとはこのことを言うのであろう。


 近くの山々に近づき、遺跡を探す。木々に埋もれてしまっていることは容易に想像がつく。慎重に探す。火山の周りの山を右回りに当たってみる。ない。遺跡はどんな形をしているのだろう。そう思いながら、じっくりと丁寧にみていく。2時間くらい経過した頃だったろうか、山の木々の中に褐色の壁らしき物が目に入った。

 ようやく見つけた。これが、古代都市カラティアか。感無量だ。


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