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3 第1回審問

 その後1か月ほど何もなく、僕はその間、お茶会に呼ばれたり、週末はダンジョンに潜ったりして、それなりに多忙な日々を過ごしていた。そんなある日、学園から屋敷に戻ったら、代官から査問状が届いていた。今日から7日後に代官所に出頭されたいという呼び出し状だ。


 『何だこりゃ?代官所ってどこだ?』と僕は考え、執事に尋ねる。

「はい。代官所とは、よろず公事を扱う役所でございます。査問状は、訴えまたは告発があり、それについて代官が尋問を執り行うために出頭を求めるというものです。」と執事が答える。

 『誰が訴えた?何の容疑?』僕は、まったく身に覚えがない。まあ、行ってみるか。


 7日後、僕は指定された時間に代官所に出向いた。学園は欠席だが、エドモンド公爵には伝えてある。公爵からは、「敵は、アキラ殿を狙ってきたか。だが、敵もこれで表に出ざるを得ないな。勝負に出たか。」と僕に手続きの詳細と注意事項を伝え、「厄介ごとに巻き込んで申し訳ないが、敵を徹底的に叩いてほしい。」と詫びとも要望ともわからない励ましをもらった。まぁ、面倒ごとは引き受けるよ。


 帝都の代官所は、皇宮近くの官庁街の一角にある。代官は、皇帝の代理として、民事刑事の裁判と訴追手続を管轄する。官庁のある建物は皆立派だ。

 僕は、中に入り、受付に査問状を提示する。御側付きのアンナとエルザ、そしてマリエラも同行している。待合室があるが、僕の事件は、一般市民の事件とは異なるようで、特別の個室に通される。応接室のような構えだ。確かに、身分のある人が、一般の待合室で待たされたら、あとあと問題になりかねない。

 呼び出しを待っていると、案外早く案内係がやってきて「アキラ・フォン・ササキ殿、こちらへ。」と審問室に通された。


 『裁判所の法廷みたいなところだな。』

 正面の壇上に5人並んでいる。中央は代官か。あとは、元老院議員か。あらかじめ得ていた知識で判断する。僕は、向かって右側の席に座る。左側の席には、3人座っている。左側にいるのは、僕を告発した者たちだ。その代理人であろう。代官が口を開く。

「アキラ・フォン・ササキ殿。本日は、グレンタール男爵から告発がなされたので、審問を行う。男爵代理人、告発の容疑を述べよ。」

 グレンタール男爵なんて聞いたことがないな。これまで接点はない。黒幕っぽくは聞こえないが、パシリじゃないのか。


 代官に促されると、告発人席から1人が立ち上がり、告発状を読み上げる。

「告発の容疑は3つございます。第一に、その身が王族でないにもかかわらず皇帝陛下に対し王族と偽ったこと、すなわち王族詐称です。第二に、鉱山の無断採掘をしてミスリル塊および金塊を入手し、これをエドモンド公爵に売り渡したこと、第三に、耕作者の登録もせずに薬草を栽培し美容ポーションを製作してトーマス商会に売り渡したこと、この3つでございます。


 いろいろ調べたんだな。どれも掠ってはいるね。

「アキラ・フォン・ササキ殿。申し開きがあれば述べよ。」と代官は僕に発言を促す。

 不思議な国のアリスでは、ハートの女王の裁判は、評決が先で、審理が後だったな。ここでは、そんなことはなさそうだ。真面目に対応しよう。


「はい。私は、カラティア国の王位継承者です。皇帝陛下に偽りを申してはおりません。また、採掘はしておりません。ミスリル塊および金塊は、私がカラティア国から持参したものでございます。そして、耕作者登録が必要なのは、10アール以上の耕作地のはずです。私の畑は、屋敷の敷地にあり、せいぜい4アールです。」

 僕は、逐一反論した。


 そして僕は質問する。「グレンタール男爵は存じ上げておりませんが、何故、私に対しこのような誹謗中傷を行うのでありましょうか。」

 代官は、「男爵は、皇帝陛下ないし帝国の統治に関する嫌疑を調査し、告発を行う官職にあるものであって、個人として告発しているものではない。」と説明する。

 検察官みたいなものか。誰か別に僕をはめようとしている者がいるのだな。しかし男爵もホイホイとその話に乗ったわけだ。味方ではなさそうだ。いずれにしても、黒幕は、まだ表に出る気はないのか。残念だ。

 それにしても、屋敷の庭の畑は見ればわかるだろうが、カラティア国にワープで連れて行っても何も残っていないから証明しようもないな。どうしたものか。


 代官は、「アキラ殿は、否定をしているので、証拠を示されたい。」と男爵代理人に向かって述べる。

 すると男爵代理人の1人が立ち上がり、「ヒノノボルクニなる国の存在は確認されておりません。どのような架空の話でも作り上げることができます。また、カラティア国は、1200年前に滅亡したとされています。滅亡した国の王位継承者とは、いかにも作り事です。」「アキラ殿は、この国に来てミスリル塊および金塊を購入した記録はありません。ダンジョン産でない以上、どこかで採掘したとしか考えられません。」「美容ポーションは、毎月5,000本もトーマス商会に納入しています。それだけの量を作るために、薬草を栽培するには、最低1ヘクタールの畑が必要です。以上です。」と述べる。


 それなりに調べたんだね。でもこの程度では証明にはならないだろうと僕は思う。しかし代官は、「アキラ殿。貴殿の弁明を証明するものはあるか。」と今度は僕に尋ねる。


 僕は、「耕作地のことは、私の屋敷にきて見ていただければわかります。カラティア国にお越しいただければ、私の縁由もお分かりになるでしょう。ドラゴンは、私1人しか運べませんので、皆さまは、どうぞ探検隊を組織して、確かめにお出でください。私の主張の正しさがご理解できます。この国で存在が確認されていないことと、実在していないことはまったく別のことです。」「滅亡といいますが、王位を継承できる者は、ここにおります。また、ミスリル塊および金塊は、鑑定をしていただければ、精錬済みであることがわかります。」とボールを投げる。ヒノノボルクニのことには、あえて触れない。


 すると代官は、難しい顔をして、横に座る議員たちと小声で合議をし、そのあと、こう宣言した。

「まず、耕作地を確認しよう。アキラ殿の屋敷に調査官を遣わす。あとのことは追って沙汰する。これにて閉廷。」


 最初の審問期日はひとまず終了した。


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