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14 ダンジョン襲撃その後

 皆、一応の達成感で気分が高揚している。持った袋を覗き込んで、お土産の魔石やウサギ皮を確かめている。そして冒険者ギルドで1階層の攻略証明をもらって、一様にうれしそうだ。ミッションを共に達成すると、人は急速に仲良くなる。危ない目にあえばなおさらだ。

 アレクサンドロスは、「今度、僕の家で、大貧民をやろうよ。」などと言っていた。成人貴族の言うセリフじゃないよ。


 僕は、皆が防御ネックレスを返そうとするのを「危険なこともあるみたいだから、記念にプレゼントするよ。」と押しとどめた。エリザベートの巻き添えになることもあり得るからな。方針を転換して、差し上げることにした。彼女の護衛の立場からは、ささやかな罪滅ぼしだ。

「ありがとうございます。」と皆、返そうと手に持ったネックレスを握りしめて、満面の笑みをこぼす。

 こうして皆は、「ごきげんよう。」と各々馬車で帰路に就いた。だが僕は1人、こっそりギルド支部長のハンス・テバルトに呼ばれている。


 支部長室に案内されると、支部長が待ちかまえていた。そして早速、「貴殿をお呼びした理由はおわかりですね。」と僕に尋ねた。

「落石のことですね。」と僕。ダンジョンの異変は、すぐに支部長の耳にはいる。

 しばらくの沈黙のあと、「なぜ、引き返しませんでしたか。トラップでないのはご存じですね。」と支部長。

「せっかく、皆、楽しみにして来たのですからね。僕とマリエラがいれば、安全ですよ。ご存じでしょう。」とはぐらかす。

「落ちた岩が1つも残っていなかったのですが。」と支部長。

「躓いて怪我をするといけないので、片付けておきました。」と僕。

「見せてはくれませんかね。」とさらに尋ねる。

 どうしようか。完全に知らんふりという方法もあるが。


「ギルドとしては、これは現象でも事故でもなく、事件と考えております。ダンジョンの冒険者を守るのもギルドの役割なのです。皆の安全のためですので、何が起こったのか、知らないと困るのです。」と支部長が畳みかける。

 言われればその通りだ。僕は、支部長の目をじっと覗き込む。この人は、敵ではないな。協力者になってくれるかもしれない。僕は正論に弱い。ここは正直に話しておこうか。


 そこで僕は、「支部長を信頼して申し上げます。今は誰にも秘密にしておいてください。」と、経緯を詳しく説明し、僕のエアポケットに入れておいた岩石を1つ証拠品として差し出した。支部長は、その岩石を手に取り眺めながら、難しそうな顔をしていた。下手をすると、政治に巻き込まれてしまうからな。無理もない。

 僕は、それからギルドを出た。


 アキラが帰った後も、支部長のハンスは、支部長室の椅子に座り込んだまま難しそうな顔の表情を崩さない。襲撃なのか。しかし事を公にするわけにはいかない。第三皇子と婚約している公爵令嬢を狙うということは、国の上層部の人物がかかわっている可能性もある。

 それにしても、ダンジョンを使われて、えらい迷惑だ。本部のギルドマスターに報告して対応を相談しないとならない。トーリード男爵だって、令嬢の話を聞いて、訝しがるだろう。

 ハンスは、随分な厄介事を抱え込んだものだと、自分のほか誰もいない部屋で、大いに嘆息するのだった。


 僕は、屋敷に帰って、すぐに公爵邸にテレパフォンをする。「ピンポン」向こうでエリザベートが出る。『至急、エドモンド公爵とお話ししたいのですが、どこにおいでですか。』と念話すると、エリザベートは、『本日は、当邸におりますわ。』と答える。『では、今からお伺いします。マリエラの部屋に転移します。』と伝え、マリエラの部屋に向かった。


「姉さん、お疲れ様。」と、僕は屋敷から公爵邸のマリエラの部屋に転移した。ワープもあるけど、人の家にワープは怪し過ぎるからね。既存の設備を使うのが安全だ。

「どうしたのアキラ。急にこっちに来るって。」

「今日のことだよ。エリザベート様が狙われたのは間違いない。ギルド支部長も気付いていたので、話はしておいた。このことも、公爵に伝えておかないと。」

「そのとおりね。」

 そこに「準備はできておりますので、どうぞお越しください。」とメイドが迎えに来た。


 僕とマリエラは、客室に案内された。そこには、公爵とエリザベートがいる。

「ごきげんよろしゅう。」あいさつもそこそこに本題に入る。

 僕は、「・・・ということで、落石は襲撃だったわけです。今日のメンバーには、そのことを伏せています。」と、今日のことを一通り説明し、公爵の顔を見た。

 公爵は、眉間に皺を寄せている。エリザベートといえば、本当のことを知ってびっくりしている。きっと、さっきまではニコニコ顔で、今日の出来事を父親に話していたんだろうな。

「エリザベートから、今日のことを聞きながら、落石のことはどうも腑に落ちなかったのだ。そういうことだったのか。」と公爵。

「忍者のようでした。天井に張り付いて、マジックバッグに仕舞っておいた岩石を、エリザベート様を狙って落としたのだと思います。手裏剣で応戦したのですが、逃げられてしましました。でも傷は負ったようです。」と僕。


「忍者」と日本語で言えば、類似の観念で翻訳されて、この国の人には伝わるのだ。観念翻訳は、日本語がそのまま使えて実に便利だ。僕は、ここに来てもずっと日本語を話している。この間、覚えたてのこの国の言葉を使ってみたら、マリエラに「何語しゃべってんの。」と大笑いされた。日本語の方が無難だ。


 公爵は、「トーリード男爵も娘の報告を聞けば、領地のダンジョンなので、落石が異常であることにはすぐに気が付くはずだ。ギルド支部長には連絡が行くな。男爵には早急に話をしておくか。」と呟く。

 続けて、「娘を守ってくれて感謝に堪えない。引き返さなかった判断は見事だ。それに、支部長に話をしたのも止むを得ない対応だ。これからも、娘をよろしく頼む。」と公爵は僕に礼を言い、これで今日の対談は終了した。


 そのころ、トーリード男爵邸では、アマルダの話を聞き終えた男爵は、訝しさを覚えていた。

『うちのダンジョンの1階層に岩石のトラップはないはずだが。』

 そして、アマルダが、アキラからプレゼントされたというネックレスを手に取る。領地にダンジョンがあるだけあって、男爵の鑑定眼は相当のものだ。

『これが防御を発動したのだな。岩石など小砂利程度か。これだけの逸品だ。貸したはずのものがプレゼントというのも裏がありそうだ。』

『それにしても、引き返さなかった理由を確かめたい。』

 男爵は、明日にでも冒険者ギルド支部長と話をしなければならないと考え、ネックレスをアマルダに返した。


 同じくマルファもホヴァンスキ伯爵に今日の冒険談を語っていた。伯爵は、領地にダンジョンがあるので、娘にもいつかはダンジョンを経験させたいと思っていたところ、丁度、学友がトーリード・ダンジョンの1階を攻略するので、一緒に行くことの許可を求められたのだ。聞けば、アキラ・フォン・ササキが一緒だという。伯爵は、彼がエドモンド・ダンジョンの10階層から15階層まで、たった2人で新規攻略したことを知っている。どんな男か興味があったが、マルファから聞けば、少年のような異国人であった。エドモンド公爵令嬢やトーリード男爵令嬢も共に潜るそうだ。危険はあるまいと考え、許可を与えた。


 ところが、ダンジョンの途中で岩石が落ちてきたという。しかし、盾で防ぐと何ともなかった、落ちた岩石はきれいに無くなっていたとのことだ。いったいどういうことだろう。

 それにしても、娘がアキラ殿から頂戴したネックレスは、防御が付与されているだけではなく、宝飾品としても上等だ。それも宝石を娘の目の色に合わせるなど、単なる近付きの印に渡したものとは考えにくい。アキラ殿は、何を狙っているのだろうか。


 僕は、マリエラと一緒に僕の屋敷に戻った。明日は日曜なので、マリエラは休日だ。屋敷で食事をし、そのあとは、ダンジョン帰りなのでゆっくり風呂だ。風呂で一日の疲れを癒し、湯上りにポーションをしっかり塗って、仲良く休んだ。


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