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13 皆でダンジョンへ

 カレーパーティーの翌日の日曜日、アレクサンドロス、エリザベート、アマルダ、マルファそして僕は、冒険者ギルドの本部に集まった。冒険者登録をするためだ。また、トーリードの1階層の情報を得る。これは皆に準備が大切なことを教えるためだ。

 皆、貴族だから冒険者登録はすんなりいった。そして、新しい登録証を眺めてにんまりしている。それから、トーリード領主の令嬢がいることもあり、ギルド長が直々に、ダンジョンの注意点や1階層の様子を説明してくれる。皆、わが身のことなので、真剣に聞き入っていた。


 そのあと、帝都で一番の品揃えの防具店「グレゴリオ」に出向いた。シルビアと行った武具屋は上級者向けだったので、別の店だ。

 トーリードの1階層は、スライムとか魔兎、魔蝙蝠ぐらいだから、重装備はいらない。普通でも日帰りコースだ。冒険者の数も多い。先ほどの説明にはそうあった。


 必要なのは、冒険者用のポケットの多い長袖と長ズボン、トカゲ皮の堅固で軽い鎧ジャケットと籠手に兜、あとは剣に盾かな。それに、各自の持ち物を入れるリュックに回収品を入れる袋、水筒、怪我をしたときや体力回復のポーションも必要かな。水やポーションは、僕がいるからいらないけれど、まずは標準的なスタイルで行こう。

 店主にもアドバイスをもらいながら、皆、一通りのものを揃えた。

 それから、「今度の土曜日、早朝6:00、トーリード・ダンジョンの入口集合ですよ。」と確認してから、散会した。

 その日の午後、僕は、美容ポーション5,000本をきっちりトーマス商会に納入した。エルンストさんも安心しただろうな。


 その週も学園では特に変わったことは起こらない。普通に授業を受けて、昼食時にはアレクサンドロスのおしゃべりに付き合わされる。

 アレクサンドロスのおしゃべりは結構貴重だ。南方の情報が座りながら手に入る。うまく誘導すると、何でも話す。これは危険人物ではないな。情報に興味がない人には、煩わしいのかもしれない。いや待てよ、秘密の共有ができないことで危険人物なのかもしれないな。

 午後は、図書館で僕の帰還に関係しそうな資料をあさった。


 週の途中から、アマルダとマルファの髪や顏が艶やかになった。ほかにもあちこち、同じような女子が目に入る。美容ポーションが行き渡るようになってきたね。これは、確かにヒット商品になる。なにせ効果が目に見えるのだからね。それに、一度使うと絶対にやめられなくなる。僕は、罪なことをしたのかな。


 学園から帰宅し夕食後は、マリエラが魔法陣でやってくる。おしゃべりをしたり、風呂に入ったりして過ごした。マリエラの警護は、当初は週末だけ解除であったが、ベリーを付けていれば安心なので、魔法陣を設置した機会に毎夕食後も基本的に解放となった。


 そしていよいよ、ダンジョンに出掛ける日になった。

 その日、ダンジョンの入口に皆が集合する。そして、出発の気勢を挙げ、各自入場料を払って中に入る。今日は、1階層なので、大きな魔法陣にほかの冒険者たちと一緒に集団で転移だ。50~60人はいるだろうか。朝早くから流行っているね。確かにダンジョンがあると、領地の経済効果も大きそうだ。そうこうしているうちに、1階層に到着した。


 ここでは、「スライム、魔兎デビルラビット魔蝙蝠デビルバットが主だそうだけど、油断はしないようにしてね。」と、皆に、防御のネックレスを渡す。

「これは、魔物に飛び掛かられても瞬間的に防御が発動する術式が念じ込まれているネックレスです。ダンジョン限りの貸し出ということでお願いします。それから、強い魔物には、効き目がないから注意してください。」と、注意事項を伝える。


 本当は、強い魔物でも大丈夫なのだけどね。製作に手抜きはしていない。でも返してもらえなくなると困るから、何とかの方便だ。

 女子には、アマルダには青いサファイア、マルファには赤いルビーとその目に合った宝石を使い、アレクサンドロスには、男子用に宝石抜きでシンプルかつ骨太に仕上げた。

 身に着けた途端、「何か聞こえた!」とアレクサンドロスらの驚き声がするが、僕は返事もせずに聞き流す。


 マリエラが先頭に立って、さあ出発だ。アレクサンドロス、アマルダ、マルファのそれぞれの家のお抱えの護衛は、1人ずつ彼らの背後に付き添っている。神獣は、猫のまま付いてくる。こうしてわれわれは、第一歩を踏み出した。


 最初は、僕の後ろからおそるおそる様子を伺っていた皆も、だんだんと慣れてくると、「スライムだ!ダー。」「キャー、蝙蝠だ!」と剣を振り回し、魔物退治ができるようになってきた。

 ここでは、魔物の動きも鈍い。剣を振り回すレベルで魔物が倒れる。小さい魔石しか出ないけれど、初めての面々であれば、それでも結構面白いのだろう。皆は、嬉々として自分の倒した魔物の魔石を拾う。

 ダンジョンは、こうして自分の獲物となる人間に、仮面をかぶって手招きをしているのだ。しばらくは、こうして順調に進む。


 と、突然20~30cmもありそうな岩石が雨のように降ってきた。うん、トラップか?そんな情報はなかったけどな。

「盾で避けろ!」と僕は叫ぶ。

 皆、盾を上にして凌いでいる。防御のネックレスをしていると、自分の持っている盾が防御壁になるのだ。ゴツン、ゴツンと音を立てながらも、しばらくすると、音は鳴りやんだ。


『そこか!』僕は、天井の一画目掛けて手裏剣を放った。手ごたえはあったが、たちまち気配は消えた。僕の元に戻ってきた手裏剣を見ると、血がうっすら付着している。忍者がいたのか。

『姉さん、岩を全部バッグに回収して。これ、ダンジョンの岩じゃない。』と僕はマリエラに念話をした。するとマリエラは、たちまちのうちに、落ちてきた岩石を全て収納した。僕もサンプルでいくつかポケットに入れた。


「ダンジョンのトラップだね。やっぱりダンジョンは危険だけど、想定の範囲内だよ。」と僕は説明する。

 口から出た言葉と裏腹に、落石がエリザベートを狙ったことは間違いないと思う。しかし、命まで狙ってはいない。ここで引き返すのが、リスクマネージメント上は正解であろうが、彼女が狙われていることは秘密だ。今回のダンジョン攻略は、何事もなかったかのように終わらせるのが関係者にとって一番なのだ。アレクサンドロスたちも、簡単に岩石が防げたので、何の疑問も懐いていない。

 そう考え、僕らは、何事もなかったかのように、先に進んだ。ただし、僕とマリエラは、誰にも悟られないように、警戒ランクを最高レベルに上げた。


 スライムやデビルバットやデビルラビットを退治しながら、僕らは奥に進んだ。第1階層の順路はよく知られている。薄暗いが、道は単純で迷子になりようもない。ラビットは、毛皮のドロップもたまに出る。それらを拾い、途中で休憩を取りながら、僕の用意した体力回復ビスケットを食べ、遂にボス部屋にたどり着いた。5時間くらいは掛かったか。いい運動だ。ビスケットの効果もあるのだろう、皆に疲れは見えない。小太りのアレクサンドロスでさえ元気だ。「これが実力」と思ったとしたら大怪我の元だが。


 ボス部屋の前では順番を待つパーティーがいくつもいる。しかし、再現も早いので、15分ごとか。それでも1時間ほど待った。アレクサンドロスが順番を待てずに「俺は伯爵家の者だ。」とか言って、騒ぎを起こすのが嫌だったので、暇つぶしにトランプを用意していた。


 彼は、「これは何だ。見たこともないが。」と言っていたが、僕は皆に簡単なルールを教え、皆で大貧民をすると、大いに盛り上がり、待ち時間があっという間に過ぎた。後ろに並んだパーティーのメンバーらから白い目で見られていたが、気にすることではない。


 ようやく順番が来たので、途中で大貧民を切り上げ、僕らはボス部屋に入った。大富豪になりそこねたアレクサンドロスは、途中で止めるのが惜しく、ダンジョンに来た目的が飛んでしまっていたようである。でも僕が強引に「ボス部屋に入るよ。武器を構えて。」と言うと、彼もしぶしぶ従うのだった。


 ボスも従者もスライムか。体からピュピュピュと得体の知れない液体を放出する。この液体は、どうやら服を溶かすらしい。皆、必死で盾を持って防いでいる。防御が掛かっているから、そんな液体がかっても溶けないけどね。実力と勘違いすると困るから、それは言わない。


 僕らは、盾を構えながら近づいて、一緒になって一体ずつ「エィエィエィ」と剣で滅多打ちにした。こうして従者もボスもお陀仏だ。

 さすがに1階層で宝箱は出ないね。僕らは、魔石を拾い、第2階層に出て、魔法陣でダンジョンの入口に戻った。


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