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12 カレーパーティー

 今日の土曜は、アレクサンドロスが開催するカレーパーティーの日だ。男子女子問わず、何人もの学生が招待されている。学生たちは、貴族の社交の予行練習を兼ねて、お茶会やパーティーに招待し合うようだ。お互いに招き合う機会が多いので、基本的に手土産は持参しない。ただ、女子同士は、屋敷の庭園で咲く花を持参することもあるようだ。


 昼近くになり、招待客の馬車が列をなす。公爵邸ほどではないが、さすがに伯爵邸は立派だ。門から入り、玄関口で馬車から降りると、執事とメイドが出迎えだ。立派な庭に招き入れられる。ガーデンパーティーだ。カレーのスパイシーな香りが漂ってくる。

 『知り合いを随分呼んでいるんだな。』

 招待客は、結構たくさんいた。学園で見た顔もあれば、そうでない顔もある。伯爵家ともなると、声を掛ける相手も多いのだろう。


 庭でアレクサンドロスが、来客にあいさつをしている。僕も近寄ってあいさつする。

「ご招待をありがとうございました。交際が広いのですね。」

「伯爵家だからね。当然さ。」

 次々に客があいさつに来るので、僕は、そこを離れ、招待客の様子を見て回った。

 エリザベートも招かれているはずだ。マリエラも当然、護衛として一緒だ。いたいた。僕は近寄る。

「エリザベート様。ごきげんよう。」「アキラ様。ごきげんよう。」と外向けのあいさつを交換する。マリエラとは念話の交信だ。

 そして僕は、「随分盛況ですね。」と口を開く。

「伯爵家ともなると、お呼びする人の範囲は結構広くなるのですよ。うっかり外すと恨みを買いますしね。ご招待の準備は、執事の重要な仕事ですわ。」

 それはそうか。


「それに、ミナンデル伯爵家は、南方では有力で、本日のカレーもそうですけれど、香辛料と砂糖の貿易で潤っているのです。原料は、もっと南方で採取されるのですが、そこから買い付けるルートができているのです。」

 今日のカレーパーティーは、香辛料のデモンストレーションでもあるらしい。カレーが普及すればするほど、伯爵家も潤うのだ。


 今日は、何種類ものレシピが披露されるらしい。そのため、大商人の関係者も招待されている。トーマス商会の帝都支店長エルンストも来席していたので、あいさつを交わす。もしかして、伯爵自身も臨席するのかもしれない。領主の貴族は、エドモンド公爵は別にして、王都に赴く途中で会っただけだから、できれば南方の領主とも面識を得ておきたい。

 すると、拍手の音がして、パーティーが始まった。


「私は、ミナンデル伯爵家嫡嗣のアレクサンドロスです。お忙しい中、お越しいただきありがとうございました。本日のカレーパーティーですが、何種類ものカレーがあることを知っていただければ幸です。テントに並べて用意をさせておりますので、お好きなものをお選びくだされば、お席までお持ちいたします。多くの香辛料を使用しておりますので、お気に召したレシピがございましたら、お尋ねください。それでは、どうぞ皆さま、お近くまでおいでになられ、カレーをお選びください。」とアレクサンドロスが開催のあいさつをした。

 完全に余所行きの言葉だったな。


 僕は、エリザベートと一緒に席に着いた。4~5人座れる円卓だ。すると、エリザベートの学友らしい2人がやってきて相席をする。僕は2人にあいさつをした。

「アキラ・フォン・ササキです。ヒノノボルクニから参りました。どうぞお見知りおきを。」

 すると、2人は、「わたくしは、アマルダ・フォン・トーリードと申します。」「わたくしは、マルファ・フォン・ホヴァンスキと申します。」と交互にあいさつを返した。


「トーリードというお名前は、ダンジョンのある地域名ですか。」と僕が尋ねる。

「はい、わたくしは、その地域を治める男爵家の長女です。」とアマルダ。

 そして、「先日、ダンジョンのクラスで、大変面白いお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。あれは、トーリード・ダンジョンのお話ですわね。」と続けて話す。

「15階層を3人で攻略されたアキラ様のことは、父から聞いておりました。父には、冒険者ギルドからすぐに連絡が入るのですよ。」と尊敬の眼差しだ。

 ダンジョン関係の情報は、領地にダンジョンがある領主には筒抜けだな。クラスで手を挙げておいてよかったよ。

 僕は、「皆さん、カレーを選んで来たらいかがですか。僕は、ここで待っていますから。」と3人を送り出した。


 エリザベートに、僕の分も選んできてもらった。一番辛いカレーと伝えてある。彼女たちが席に戻って、すぐに料理が運ばれてきた。

 うっ、辛いね。でも美味しい。やっぱりカレーは辛くなくっちゃね。あちらこちらで、辛い、辛いと言いながら食べている様子は微笑ましい。


 エリザベートたちは、雑談に花が咲く。女子同士の話って聞いていてもわからないね。そこにエルンストがやってきて告げる。

「アマルダ様とマルファ様。近々、ご予約されていた美容ポーションが入荷する予定です。入荷次第、ご連絡を差し上げますので、どうぞトーマス商会までお越しくださいませ。」

 ちらりと僕を見る。僕はうなずく。大丈夫だよ。納品の期限は守るよ。

「わー。やっと。」と2人の歓声。待ち遠しかったんだな。目の前にいる僕が製造者だなんて想像もつかないだろうね。僕の責任は重大だ。エリザベートが笑いをかみ殺していたよ。


「今度、アレクサンドロスを連れて、トーリード・ダンジョンの1階層に出掛けることになったんだ。」雑談がてらに、僕はこんな話をする。

 すると、アマルダが、「わたくしもご一緒させていただけないかしら。ダンジョンの授業を聞いても、イメージが湧きにくいの。それに、自分のところのダンジョンも知っておきたいし。」と言う。マルファも「私もですわ。」と言う。

 マルファは、帝都からアベール河を渡って、北西の海岸地帯の伯爵令嬢だ。そこにもダンジョンがあるという。海岸地帯のダンジョンってカニやらエビやらがいるのかな。あぁ、エビの天ぷらが食べたい。聞くだけで心が踊るダンジョンだ。絶対行くぞ。


 僕は、考えていたことをおくびにも出さず、「アレクサンドロスがいいって言えばいいよ。」と答える。いいって言うに決まっているけどね。僕だけより女の子たちと一緒の方が励みになるよ。

 そこに丁度、ホストとして、各テーブルを回っていたアレクサンドロスが、僕らのテーブルにやってきた。そこで「こういう話があるのだがどうだい。」と聞くと、「もちろん、いいよ。」と嬉しそうな顔で答える。すると、しばらく考えていたエリザベートも決心したように「私も行く。」と言う。こうして、次の土曜日に、皆で出掛けることになった。明日の日曜日には一緒に街に防具を揃えに行こう。


 こうしてカレーパーティーは無事に終了し、僕らは明日の約束を楽しみにそれぞれ帰宅した。伯爵は地元に帰っているとのことで今日は会えなかったが、また今度だな。


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